第144話 純粋な感想ほど人を傷つけるんだ

 外で待っているレオルドはぼんやりと空を眺めていた。今更だが、王都に来ればジーク達に遭遇してしまう事を思い出していた。


(あー、ジーク達に遭遇する前に帰らないとなぁ)


 危惧しているが、ジーク達とレオルドが遭遇する事はない。何故ならば、ジーク達はまだ学園で勉強をしているからだ。

 今は昼過ぎなので、午後の授業が開始された頃だろう。だから、レオルドがジーク達と遭遇して何かを言われることは決してない。


 しかし、そんな事を知らないレオルドは見えないジークに怯えていた。


 ただ、レオルドは現在伯爵であり王国では知らない人間がいないほどの人物だ。そんな人物に対してジーク達がちょっかい掛ければどうなるかと言えば、下手をすればお家取り潰しである。


 当たり前だろう。レオルドは確かに決闘で敗北したが、その後の活躍は他者の追随を許さないものだ。

 たかが、男爵家の跡取りであるジークがどうにかできるものではない。貴族社会なのだから、上の階級の者が黒を白と言えば白になるのだ。

 つまり、決闘さえも無かったことになるのも十分に有り得るのだ。相手の方は激怒するだろうが、今のレオルドとジークを比べたら誰もが納得するであろう。


 しばらくの間、レオルドがぼんやりと空を眺めていたらマルコとサーシャが出て来た。レオルドは二人に気がついて顔を向ける。


「決心してくれたか」


「は、はははぃ……」


 どうやら、まだレオルドの事は苦手のようだ。と言うよりはマルコ以外の人間が苦手なのかもしれない。

 だとすれば、マルコはどのようにサーシャと仲良くなったのだろうかと気になるが、今はどうでもいいことだろう。


「ひとまず、お前達を連れてゼアトへと帰ろうか。マルコ、サーシャ。これから、転移魔法陣へ向かうから必要な荷物を持って準備をしろ」


「もう出来てるよ」


「……」


 かっこよく決めていたのに、マルコの一言によりレオルドは盛大に滑ってしまう。


「そうか。なら、転移魔法陣を使うか」


 王都に存在している転移魔法陣が設置されている場所へとレオルド達は向かう。

 二人は初めての転移魔法に緊張していた。対して、レオルドはもう慣れたものであり何の感動もない。


 王都に設置されている転移魔法陣は厳重に警備されており、悪用されないようになっていた。一応、レオルドも参考にしようと色々と見て回る。


 一通り目を通したらレオルド達はゼアトへと戻る事にした。ゼアト用の転移魔法陣へと向かい、料金を支払って移動する。

 中々に高いのだが、安全安心かつ一瞬なので誰も文句は言わない。それに、この転移魔法による利益はレオルドに二割も入るので痛くも痒くもない。


(どうせならタダにして貰いたいんだがなぁ)


 不満タラタラである、この男。既に多くの商人が利用を始めており、かなりの額がレオルドの元に振り込まれる事になる。まだ知らないから仕方ないのだが、他人が聞いたら間違いなく腹パン肩パン案件である。


 そんな事を考えている内に転移が始まる。目が潰れるのではないかと毎回思ってしまうほどの光が放たれてレオルド達はゼアトの転移魔法陣へと転移した。


「な、なんだかさっきと違って味気ない建物だね」


「……」


 クリティカルヒットである。サーシャに悪気はなかったのだろうが、レオルドには精神的ダメージが入ってしまった。一生懸命レオルドが作り上げた転移魔法陣の円柱はサーシャには駄作にしか見えなかったのだろう。

 思わず両膝から崩れ落ちてしまいそうになるレオルドはなんとか持ち堪えて出口へと向かう。


「オイラは無駄に装飾とかついてるよりいいと思うけどな。でも、王都と違って作りが簡素だから防犯とか不安だなぁ」


 悪気はない。悪気はないのだ。これが素直な感想なのだ。レオルドが作り上げた円柱に対しての、純粋な意見であり感想なのだ。怒ってはいけない。責めてもいけない。

 もしも、責めるというのなら己の芸術的センスの無さを責めるしかないだろう。


「……」


「レオルド様。どうかしたのか?」


 先程から沈黙しているレオルドが気になったマルコは問い掛けるがレオルドは返事をしない。


「もしかして、オイラは何かやっちゃったか?」


「えっ!? もももしかして、私でしょうか!?」


 レオルドが怒っているから黙っているのではないかと不安になったマルコとサーシャ。安心して欲しい。レオルドは怒ってはいない。

 ただ、悲しんでいるだけだ。二人にボロクソに言われたから、少し悲しんでいるだけなのだ。


 だから、どうかそっとしておいて欲しい。


「気にするな。行くぞ」


「えっ、あっ、うん」


 出口の扉に手をかけて、レオルド達はゼアトへ帰って行く。二人はレオルドの後ろを歩いているのだが、その背中はどこか寂しそうに映った。


(もう二度と作らねえ!)


 悲しみを超えてゆけ。たとえ、涙を流そうとも前を向いて歩くのだ。立ち止まることは許されない。運命を覆すのならば、どうか前を向いて歩き続けて欲しい。


「ねえ、マルコ。見て。やっぱり、酷いデザインだよ」


「んー……ただの円柱だなぁ。王都のに比べたらみすぼらしいね」


(うおおおおおおおおおっ!!!)


 二人が振り返ってレオルドが作り上げた円柱を見ての感想だった。決して二人は悪くない。悪いのは全てレオルドなのだ。

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