第140話 アナタがロミオなのね! もしくはジュリエット!

 転移魔法陣を設置した翌日レオルドは王都へと来ていた。早速、転移魔法を活用しているレオルドは国王に面会を求める。

 王城へは顔パスになっており、門番はレオルドを見かけると、すぐに中へと通してくれた。


 いつの間に顔パスが出来たのかと首を傾げるレオルドだった。不思議に思っているレオルドだが、顔パスが使える様になったのは訳がある。


 モンスターパニックの終息の立役者に転移魔法を復活させた類稀なる功績と、何度も王城を出入りしているのだから門番が覚えるのは当然の事であろう。


 王城へと進み、レオルドは国王への面会を求める。連絡もせずにいきなりやってきたレオルドに説教でもあるかと思われたが、国王が受け入れたという報告を聞いて、レオルドは国王と面会する。


「突然の面会の申し出を聞いて下さり、感謝の極みでございます」


「良い。気にするな。珍しくお前からと聞いてな。いつもお前には世話になっているから、この程度はどうということはない」


「ありがとうございます。それで、陛下に頼みたい事があるのです」


「ほう。お前が私に頼みたいことか。言ってみろ」


「ゼアトに人を呼びたいのですが……王都から候補を集めてもよろしいでしょうか?」


「それくらいなら構わんぞ。自分で探すのか?」


「はい。その事で陛下に許可を頂きたいのですが……」


「うむ。よかろう。ただし、職人の場合は見習いまでだ。それでいいか?」


「はい! ありがとうございます!」


 国王からの許可は得た。後は有能な人材を見つけるだけである。レオルドは早速、王都の街を探し回ることにした。


 街を歩き、商業区の方へと向かう。そこには、多くの商人に職人達が住んでいる。恐らく、有能な人材を見つけるならそこしかないだろう。後は、レオルドの目利き次第だ。


 しばらく歩いているレオルドは多くの音を聞いている。職人達の怒号に、何かを作っている音、人々の喧騒。

 不協和音であるが、不思議と悪い気はしない。これは、人が生活している証なのだ。これが、ここの当たり前なのかもしれない。


「ふむ……やはり、建築士か」


 最初に見つけるべき人材は建築士だと決めたレオルドは歩き始める。建築士を見つけて、結婚式場のデザインを考えてもらおうと他力本願なレオルドだった。


 人には得意なことがあれば苦手な事がある。それは誰でもだ。ならば、レオルドは己の得意分野ではない芸術センスを他人に任せるしかない。

 だから、建築士に結婚式場を任せようと決めているのだ。何一つおかしいことはない。


「親方っ! どうして、こいつの凄さを分かってくれないんだよ! こいつが実現すれば、歴史は変わるんだ!」


(ほう? 何やら、面白い会話が聞こえて来たな)


 突然、聞こえて来た面白そうな話にレオルドは心惹かれて話し声が聞こえた方向へと歩いていく。辿り着くと、大きな工房らしく何かを作っているようだった。

 中を覗いてみると、馬車の部品が大量に置かれてあり、どうやら馬車を作っているのだとレオルドは分かった。


 その奥で、一人の若い男が初老の男に抗議をしているのが見える。若い男は何やら大きな用紙を握っており、必死に初老の男へ訴えていた。


「だから、どうして理解してくれないんだ! こいつさえ、完成させればきっと歴史に名を残すような発明になるんだって!」


「お前の言いたいことはわかるし、やりたい事も理解している。だがな、俺達は仕事をしてるんだ。お前の発明とやらに割く時間はねえんだよ」


「さっきから言ってるじゃないか! 一度、馬車の製造を中止して、こっちの開発を――」


「だったら、お前がうちの奴らを食わせる事が出来んのかっ!」


「そ、それは無理だけど……貴族様に支援をして貰えれば……」


「成功するかも分からねえもんに貴族様が援助してくれるわけねえだろうがっ! 現実を見やがれ!」


「どうして……分かってくれないんだ……これさえ……これさえ上手くいけば――」


「夢を見るのは勝手だが、それで仲間を殺すなら辞めちまえっ!」


「っっっ……!」


 どうやら、相当に揉めているらしい。若い男が新発明を生み出したが、資金の問題で作る事が出来ないようだと察するレオルド。

 若い男は見た感じ、レオルドと大差ない年齢だろう。大きな用紙をクシャリと握り締めて、親方と呼んでいた初老の男から逃げ出す。


 工房の中を覗いていたレオルドにも気付かず、若い男はどこかへと走り去っていった。なんだか気になるレオルドはその男を追いかける事にした。


 若い男が走り去っていった方を探しに行くレオルドは道の隅っこにしゃがんでいじけている男を発見した。


「そんな所で何をしているんだ?」


「だ、誰だっ!?」


 しゃがんでいじけていた男は、いきなり声を掛けられて驚いてしまう。振り返ると、そこにいたのはレオルドだ。


「これはすまなかった。俺の名前はレオルド・ハーヴェスト。一応、伯爵家の貴族だと言っておこう」


「なっ……き、貴族様がオイラになんの用だ?」


(オ、オイラ……一人称がオイラってキャラ立ってるね)


 くだらない事を考えているレオルドは咳払いをしてから、本題に入る。


「おほん。まあ、そう警戒するな。俺はさっきのお前と親方の話を聞いていてな。気になって追いかけてきたんだ」


「なっ……聞いていたのか……」


「あれだけ大きな声なら気になるのは仕方ないだろう。それよりも、俺が気になっているのは、その大きな用紙だ。さっきの話から察するに、それは何かの設計書じゃないのか?」


「そこまで、聞いてたのか……そうだよ。これは、オイラが考えたんだ。親方と仕事で帝国に行った時、帝国の魔導列車を見て閃いたんだ」


「ほう。よければ見せてくれないか?」


「……いいよ。もう、こんなものくれてやる」


 そう言ってレオルドに用紙を突き出す男は悔しそうな顔をしている。恐らく、男からすれば手放したくないのだろう。でも、作る事が出来ないのだ。誰にも理解して貰えないから。


「まあ、見せてもらうが俺には必要の――」


 男から受け取った用紙を広げて、内容を確かめながら男に返事を返していたレオルドだったが、そこに広がっていた設計書は度肝を抜かれるものだった。


「お前だ……お前に決めた!」


「は? いきなり、何を言ってるんだ?」


「お前の名前はなんだ!」


「えっ? オ、オイラの名前? なんで、そんな事を聞くんだ?」


「ふっ……お前を俺の領地に迎え入れたいからだ!」


「へっ?」


「分からないだろう。だが、すぐに分かるさ。 お前は天才だ!  はははははっ!  まさか、このような事があるとはな!!!  運命とはこの事を言うのかもしれない! ああ、俺は感謝をしよう。今日、この日、お前に会えた事を!」


 目の前で狂ったように笑うレオルドを見て男は混乱よりも恐怖が勝っていた。ここにいてはいけないと本能が告げている。

 逃げ出そうとする男は、レオルドが見てないうちにこっそりと逃げ出したが、悪魔レオルドからは逃げられない。


「どこへ行こうと言うのだね? んん?」


「ひえっ……!」


 流石は元クズ人間だった男だ。他者を恐怖に陥れるのはお手のものであった。

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