第139話 俺に芸術的センスを求めるんじゃない!

 さて、レオルドは二人の為に素敵な結婚式を用意すると決めた。まずは、何から取り掛かるかと言えば式場であろう。

 本来ならば教会だが、レオルドは結婚式場を作る事に決めた。しかし、具体的なデザインが思い浮かばない。


 なので、ここは相談するべきだろう。誰にと言われたら、レオルドが頼れるのはそんなに多くない。


「ギル。バルバロトとイザベルのことなんだが、お前は知っていたか?」


「いえ、初耳でございます。時折、仲睦まじい姿を見ましたが結婚にまで至るとは思ってもいませんでした」


「そうか。ところで、相談があるのだが、二人の結婚式を開催しようと思っている。そこで、まずは式場の準備なのだが、どういう風なのが喜ばれると思う?」


「坊ちゃまがお好きなようにしたらどうですかな? 二人は坊ちゃまに仕える身なので、主である坊ちゃまが用意してくれたとなれば、大層喜びになられますよ」


 その通りである。そもそも、部下の為に主が結婚式を開くなど前代未聞の事だ。ならば、どのような形になろうが二人はレオルドが自分達の為に用意してくれたものを喜ぶ事だろう。


 しかし、レオルドとしてはそれじゃ物足りないと思っている。折角、一生で一度しかない結婚式だ。盛大に祝ってやりたいと思うのは当たり前の事だろう。もっとも、結婚を何度もすれば一度切りということはないが。


 それに、レオルドはバルバロトに救われている。このゼアトで初めてレオルドのことを信じてくれた一人目の人間なのだから、レオルドは感謝の意味も込めて結婚を祝福してあげたいのだ。


 ギルバートと別れてレオルドは文官たちと政務に忙しくなる。頭の片隅でどうしようかと悩みつつも書類を片付けていくのは、流石としか言い様がなかった。


 さらに問題が発生する。転移魔法陣を設置するために王都から研究者達が来たのだ。今回、レオルドが国王から許可を得たのはゼアトとレオルドの住む屋敷に繋がる転移魔法陣だ。

 個人用と公共用を与えられたが、個人用の方は国王が信用に値する人物のみとなっている。


 つまり、レオルドは国王からの信頼を得たということだ。他にも思惑はあるだろうが、細かい事は気にしてはいけない。


 そう、気にしてはいけないのだ。


 レオルドは屋敷に一つ転移魔法陣を設置してもらった後に、ゼアトのどこへ公共の転移魔法陣を置くかを考えた。

 悩むレオルドに研究者達は困ってしまう。出来れば、早急に決めてもらい、パッパッと終わらせて別の現場へと向かわねばならないのだ。


 それが、一番最初から時間を取られると予定が大きくズレてしまう。他にも回らねばならない場所があるのに、このままでは当初の予定を大幅に変更しなければならない。


 なので、研究者達は悩んでいるレオルドに発言する。


「ゼアトの出入り口でよろしいのでは?」


「う~ん。そこがベストだろうが、万が一の事を考えたら別の場所にしたい」


「万が一とは?」


「犯罪組織、侵略者といったものだな。もしも、悪用されればひとたまりもない」


 何故、レオルドがここまで悩んでいるのかを理解した研究者達はなるほどと納得した。

 確かに言われてみれば、転移魔法は大きな可能性を秘めているだろう。経済の発展にも繋がるが軍事利用にも応用できる。

 そうなれば、犯罪者が目を付けるのは当たり前だろう。研究者達は転移魔法の危険性をあまり考えていなかったようだ。


 それもそうだろう。研究者というのは興味の対象以外はどうでもいいと考える人のほうが多いのだから。


「よし、決めた。ゼアトの出入り口付近に転移魔法陣用の施設を建てよう」


「は? 今からですか!?」


「土魔法を使えばすぐだ」


「いやいや、魔法で建物を建てるなんて、そんな事出来ませんよ!」


(え……そうなのか? でも、土魔法で地形を変えられるんだから、建物くらい作れそうな気がするんだが……)


 思わず黙ってしまうレオルドに研究者達は顔を青くする。反論を述べた相手が伯爵であることをすっかり忘れていたようだ。


「仕方ない。シャルを呼ぶか」


 特に怒られる事もなかったので研究者達はホッと胸を撫で下ろした。

 どうやら、レオルドはシャルロットに助けを求めるべく探しに行くようだ。研究者達もレオルドの後を追ってシャルロットに会いに行く。


「おい、シャル。入るぞ」


 ノックもせずにレオルドはシャルロットの部屋へと入っていく。怒られないのかと心配する研究者達は部屋の外で待機する。


「何か用? あっ、もしかして私に会いたくなったのかしら~。うりうり~可愛い奴め~」


「ええい! 鬱陶しい! お前に聞きたいことがあるんだ。土魔法で建造物を作るのは可能なのか?」


「可能よ~。ただ、とんでもなく魔力が必要だけどね~。デザインに拘るなら尚更よ。耐久性を考えたりしないといけないから、想像以上に重労働になるけど、まさか今からやるつもり?」


「ああ。手伝ってくれないか?」


「嫌よ! とっても疲れるもの!」


「別にいいだろ! これくらい!」


「じゃあ、魔力共有していいから一人でやって」


「む。それならいいだろう」


 断固拒否と手をバツのように組んでいるシャルロットにレオルドは怒っていたが、魔力共有ならいいという事なので許す事にした。

 シャルロットと魔力共有をしたレオルドは研究者達を引き連れてゼアトの出入り口付近へと移動する。


 辿り着いた場所は見晴らしのいい平原で周囲は特に何もない。レオルドは地面に手をつけて土魔法で建物を作り上げる。

 残念な事にレオルドに芸術センスはなかった。ただの、円柱の中に広い部屋があるだけ。しかし、施錠できる作りになっているので防犯機能は高い。犯罪者に悪用される事は少なくなるだろう。

 そして、研究者達はレオルドが建てた転移魔法陣を設置する円柱を見て、どう感想を言えばいいかわからなかった。褒めるべきだろうか、笑う所なのか判断に迷ってしまう。


 なので、まずはレオルドの反応を窺ってみるとやり遂げた顔をしていたので、研究者達は拍手を送る事にした。


(早く人材を集めないとな)


 これで、ゼアトに転移魔法陣が設置されることになった。そのおかげで、ゼアトから王都への移動が物凄く早くなるのであった。


 ただし、移動費はそれなりにする。

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