第136話 兄弟水入らず! ってなんですかね?

 酷い茶番が終わった後、復活したレオルドとレイラは優雅に紅茶を飲んでいた。


「とにかく、レオ兄さんは殿下の事をもっと大事にしなきゃダメなの!」


「いや、でも、もう断ってるしな~」


「一回断ったくらい大丈夫よ!」


「おいおい、相手は王家なんだぞ。顔に泥を塗ったようなものだから怒ってると思うがな」


「でも、レオ兄さんの所に殿下は来たし、式典の時は一緒に踊っていたでしょ?」


「うーん、そうなんだよな~。それが不思議だ」


 唸るレオルドにレイラはどうアドバイスを送ろうかと考える。レオルドの話を聞く限りではシルヴィアもレオルドのことを悪く思っていないはずとレイラの中では結論が出ている。


 本当にその通りなのだからレイラの推理力は凄いものだ。


「わかったわ。レオ兄さん。私が協力してあげる」


「え? なんの?」


「決まってるでしょ! 殿下とレオ兄さんの恋愛よ!」


「それは流石にお節介が過ぎないか?」


「じゃあ、レオ兄さんは好きでもない女性と結婚して不幸になってもいいの!?」


 極論ではあるがあながち間違いとは言い切れない。レオルドもその事が分かるから、レイラの言葉も無視できないのだ。


「でもな~……」


 中々煮え切らないレオルドに痺れを切らしたのかレイラが怒鳴る。


「レオ兄さんが動かないのなら私が動くだけだから!」


「え? 何をするつもりだ?」


「ふっふっふ。それは秘密」


(止めたいけど無理だよな。頼むから変なことはしないでくれよ)


 恐らくは無理だろう。きっとレオルドに災難が降りかかるのは間違いない。レイラが何を企んでるかはわからないが、レオルドにとって吉と出るか凶と出るか。


 二人は話が終わり、喫茶店を後にして買い物を再開した。ほとんどがレイラの買い物ばかりでレオルドは付き合わされるだけであった。


 買い物が終わり、レオルドとレイラは屋敷へと戻る。二人は別れて、レオルドは鍛錬に向かった。


 すると、鍛錬の最中にレグルスが姿を現した。レオルドは一旦手を止めて、レグルスと向かい合う。


「どうした? 何か用事か?」


「あの……また剣の稽古……」


 最初は大きな声で喋っていたが、だんだんと声が小さくなり聞きとれなくなった。やはり、レグルスの方はまだ素直にはなれない。

 レオルドの顔色を窺うようにしている。レオルドはそんなレグルスを見て、何を言いたかったかを把握したので笑顔でレグルスを鍛錬に誘う。


「丁度、相手が欲しかったんだ。レグルス、少し付き合ってくれないか?」


 優しいレオルドの気遣いにより、レグルスは照れ臭そうに笑って返事をする。


「はいっ! 僕でよければ!」


「ああ。よろしく頼む」


 兄と弟。二人が久しぶりに木剣を持って向かい合う。一体、どれだけの月日が流れたことだろうか。懐かしい光景にレオルドとレグルスは笑い合う。


「じゃあ、行くぞ?」


「はい! いつでもどうぞ!」


 レグルスの返事と共にレオルドが一歩踏み込む。瞬間、レグルスの肌に鳥肌が立ち、緊張に包まれる。


 力強く踏み込んだレオルドが弾丸のようにレグルスへと突っ込む。対するレグルスは木剣を握り締めて応対する。


「ふんっ!」


「ぐうっ!」


 振り下ろされた木剣をレグルスは受け止める。その重さに歯を食い縛りながら、レグルスは受け切った。


「止めたか、俺の一撃を」


「強くなってるのはレオ兄さんだけじゃありませんから!」


 強くなった事を示すように、レグルスは力強くレオルドの木剣を弾き返した。腕に衝撃が走ったレオルドはレグルスの成長に喜んだ。

 そして、これほどの実力ならもう少し力を出せると口角を上げて小さく笑う。


「じゃあ、次はもっと強くいくぞ」


「え?」


 弾かれた勢いを利用して、レオルドは円を描くように回転する。遠心力を味方につけてレオルドは横薙ぎの一閃をレグルスに叩き込む。

 避ける事は無理だと分かったレグルスはレオルドの横薙ぎを受け止めるが、身体ごと吹き飛ばされてしまう。


 しかし、無様に転倒することはない。


「ははっ! 成長したな、レグルス!」


「くっ……まだ終わってないですよ。レオ兄さん!」


 カンカンッと木剣のぶつかり合う小気味良い音が鳴り響く。その音に気がついたオリビアが、中庭に向かい目にした光景に涙を流した。


 いつか夢見た光景がそこには広がっていたから。かつて在った光景。二度と見ることは叶わないと思った二人の鍛錬している姿がそこにあるのだ。


 ずっと仲直りをして欲しいと願っていたオリビアの望んでいた光景が目の前にあるのだから、うれし涙が流れるのは仕方のないことであった。


 昔よりも成長した二人は長い時間、木剣を交じ合わせていた。それも終わりが来る。レオルドの一撃でレグルスは握っていた木剣を手放してしまう。


 これにて決着である。本日の勝者はレオルドであった。


「強くなったな、レグルス」


「ハア……ハア……今のレオ兄さんにそう言われると嬉しいですね」


 疲れ果てているレグルスに比べてレオルドは息切れ一つしていない。まだまだ余裕の証であった。その事にレグルスは気付いており、やはりレオルドは自分とは比べものにならないくらい強くなったのだと気付かされた。


(もう、僕がどれだけ努力しても追いつけそうにないですね。やっぱり、凄いです。レオ兄さんは)


 運命48の主要キャラであるレグルスも弱いわけではない。ただ、レオルドが本当に強いだけである。

 元々、ラスボスにもなれる素質を秘めているのだから弱いわけがない。慢心せずに鍛錬を続けていけば、世界でも屈指の実力者にレオルドはなれるのだ。


 こうして、二人の鍛錬は終わった。いつの間にか見学していたオリビアに気がついた二人は、オリビアが泣いている事に大層驚いたのであった。

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