第135話 三組に一組が離婚してますよ?

 ショッピングの最中にレイラから質問を受けて返したら、何故か頭を抱えられるレオルドはどうしてそのような反応をするのだろうかと腕を組んで考えていた。


「レオ兄さんはシルヴィア殿下の事をどう思っているの?」


 唐突におかしな事を聞いてくるレイラにレオルドは不思議に思いながらも、シルヴィアについてどう思っているかを明かす。


「そうだな。最初はとても可憐な女性だと思ったが、中々に強かな女性であると知ってから印象は大きく変わったな」


「それはいい方向に? それとも悪い方向に?」


「どちらもだな。良くも悪くも殿下という存在は俺の中では大きな存在になってはいる」


「それは恋愛面も含んでるの?」


「む……?」


 言われてみればレオルドはシルヴィアの事は不遇な扱いをされてしまうサブヒロインとサディストな部分があるという認識しかなかった。


 確かに見た目は可愛いシルヴィアだ。多くの男性から愛される容姿をしており、今も引く手数多あまたの女性だ。


 しかし、レオルドは彼女の本質を見てしまった。サディストな部分があることを知ったレオルドはシルヴィアを恋愛という面では見た事がない。


 実際、結婚の話が出てきたが、レオルドは国王に貸していた大きな借りを返してもらうという形にしてまで断っている。結婚しても弄ばれてしまうと考えての事だ。


 ただ、最近はその印象も変わりつつある。ここ最近のシルヴィアは妙に可愛らしいとレオルドは思っている。

 悪い部分ばかりが目立っていたが、今では歳相応の反応を見せたりと純粋に愛くるしい姿を見せているのだ。


 ゼアトに来た時もレオルドを困らせるようなことはなかった。精々あったとすれば、視察の際に腕を絡めたりしてきた程度だ。それくらいなら、可愛らしい悪戯だろう。

 レオルドも嫌がるようなことはなく、普通に受け入れていた。


 腕を組んだまま、じっと考える素振りを見せているレオルドにレイラは気になって声を掛ける。


「どうしたの、レオ兄さん? そんなに難しかったかしら?」


「いいや。ただ、考えているんだ。俺は殿下をどう思っているか」


(これは……満更でもない? もしかして、レオ兄さんも殿下の事を意識してる!?)


 恋愛面に関しては聡いのが女性である。レイラも当然のようにレオルドの心情を見抜いていた。


「レオ兄さん! はっきりと言うわ! レオ兄さんは恋愛結婚は出来ないって!」


「な、なんだって……! でも、俺は一応婚約者がいたしな」


「今はいないでしょ! 細かい事は気にしないで!」


「は、はい」


 レイラの迫力に負けたレオルドはただ返事を返す事しか出来なかった。


「あの~、お客様?」


『えっ?』


 二人はすっかり忘れていた。ここが店の中だということを二人は、店員に話しかけられて思い出した。指摘された二人は恥ずかしさに顔を赤く染めて謝ると、店を出て行くのだった。


「レオ兄さんのせいで恥をかいたじゃない!」


「いや、あれはお前が大声を出すから」


「そうだけど、大声を出す原因を作ったのレオ兄さんだから、レオ兄さんのせいなの!」


 子供のような理屈だが、ここで反論してもレイラがますます不機嫌になるだけなので、レオルドは謝る事にした。


「む~、そういうことならすまなかった」


「じゃあ、この話はお終いにしてさっきの続きを話しましょ。どこかゆっくりと話せる場所に移動して」


 御者にレイラが頼むと馬車は移動する。二人を乗せた馬車は王都で有名な喫茶店に止まった。二人は馬車から降りて、喫茶店に入ると個室へ案内される。


「喫茶店なのに個室があるのか」


「ここは貴族も良く利用するから。だから、個室が出来たの」


「そうなんだな。ゼアトには宿泊施設はあっても、こういう店はないからな~」


「そういうのはいいから、さっきの話をしましょう」


「あっ、はい」


「おほん。レオ兄さんは恋愛結婚が出来ないって話だけど、覚えてる?」


「ああ。覚えてるぞ」


「じゃあ、続けるけど、レオ兄さんは決闘で負けて今は学園を辞めてゼアトにいるでしょ? つまり、本来なら出会いの場といってもいい学園を辞めたレオ兄さんは恋愛結婚はまず不可能と言ってもいいわ」


「それは深刻な問題か? 貴族に生まれたならば、大体は政略結婚だが……」


 ここはエロゲの世界である。本来ならばレオルドの言うように政略結婚が普通の貴族だが、エロゲである運命48の世界では恋愛結婚が多くなっている。

 とは言っても、恋愛結婚をしているのは運命48の主要キャラたちだ。そして、レオルドはかませ犬だがレイラとレグルスは違う。主要キャラの一人でありメインヒロインの一人なのだ。勿論、レイラがメインヒロインだ。


「父様も母様も学生の頃に出会って恋愛してから結婚したの忘れたの?」


「いや、まあそうなのだが……俺はあまり重要とは思ってないしな」


「甘い! 甘過ぎるわ、レオ兄さん!」


 バンッと机を叩いて身を乗り出すレイラはビシッとレオルドを指差した。レイラの勢いにレオルドは押されて仰け反ってしまう。


「お、おう。具体的にどこが甘いんだ?」


「まず恋愛結婚をした場合は大半が幸せな家庭を築いているわ。対して、政略結婚の場合は不倫や借金といったもので良くないものばかり。女性も男性も欲望ばかりだからね」


「ふむふむ。でも、普通の事じゃないか?」


「そう、普通の事なの。でもね、レオ兄さん。今のままだとレオ兄さんは絶対に不幸になるわ!」


「な、なんだと……!」


「だって、考えてみて。レオ兄さんは歴史的偉業を成し遂げて、この国にはなくてはならない存在。陛下からの信頼も得て、今後も期待の出来るレオ兄さんを他の貴族がどうすると思う?」


「潰すか、取り入れるかだな」


「そう! でも潰す事はもう出来ない。だったら、取り込んでしまおうと考えるはず! そして、最も有効な手段は――政略結婚よ」


「まあ、そうだろうな。俺が転移魔法の件で爵位を得た事で大量の縁談が届いたことだしな」


「もうわかるでしょ? レオ兄さんは好きな人とは結ばれない立場になってしまったの。でも! シルヴィア殿下となら……恋愛結婚も夢じゃない!」


「いや、既に断ったぞ」


 名演説でもしているかのように拳を突き上げていたレイラにレオルドは淡々と告げる。

 しばらく沈黙が続き、壊れたブリキ人形のようにレイラが首を回してレオルドを見詰める。


「どういうこと?」


「知らなかったのか? 殿下とは一度縁談があったんだ。その時に断った」


「バカーーーッッッ!」


「うぼあっ……!」


 思わず魔法を撃ってしまったレイラは壁に身体をぶつけたレオルドに駆け寄って謝る。


「ああ、ごめんなさい。レオ兄さん。私、つい……」


「ふ、気にするな。この程度、大したことはない――」


 レイラに心配をかけまいと親指を立てて安心させようとしたが、劇的な最後を迎えてしまった。真っ白に燃え尽きたようにレオルドは頭を垂れるのであった。


「レオ兄さーーーんっ!」


 酷い茶番劇である。

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