第134話 淑女の趣味にとやかくいう男は嫌われましてよ
先日の一件でレオルドは転移魔法の運用を早急に行うべきだと判断した。
研究者達に行う勉強会も精度をあげるようにして、シャルロットと取り組んでいく。
そのおかげで、研究者の中から転移魔法陣を用いて発動できる者が現れるようになった。
ようやくである。転移魔法の普及に向けて、やっと最初の一歩が踏み出されたのだ。
発動できた研究者を教える側に回して、レオルドは休暇を取る事にした。それは、レイラとの約束を守る為に。
「本当に約束を守ってくれたの?」
「当たり前だろう。転移魔法の普及は国にとっては大事な事ではあるが、俺にとってはレイラとの約束の方が大事だからな」
少々照れ臭いことを言ってしまったレオルドは、そっぽを向いて頬を指でかく。その姿が愛らしく思ったのかレイラは嬉しくなり、昔のように抱きついてしまう。
「嬉しい、レオ兄さん! 約束を守ってくれて!」
抱きつかれたことでレオルドは思わず固まってしまう。まさか、レイラに抱きしめられるとは思ってもいなかっただろう。少し前までは、憎悪に満ちた目で睨まれているだけだったから、余計にだ。
「あっ、ごめんなさい。私ったら、つい……」
レイラも自分が何をしているかを理解したのか、恥ずかしそうに顔を赤く染めてレオルドから離れる。
「いや、構わないさ。ただ、人目があるところでは控えた方がいいかもしれないな。レイラも年頃の女の子なのだから、気をつけたほうがいい」
「あの、その言い方だと人目のないところならいいと言う事ですか?」
「まあ、家の中なら問題ないだろう」
「本当っ!?」
家の中ならばと許可を得たレイラはもう一度レオルドに抱き着いた。
驚くレオルドだが、昔のレイラはよくレオルドに甘えるように抱きついていた。ただ、レオルドの性格が歪んでいき、抱き着く機会はなくなっていたのだ。
しかし、先日の一件から兄妹仲は元に戻りつつあったので、レイラは今までの分を取り戻そうとしているのかもしれない。
「レオ兄さんって凄く男らしくなったね」
「どういう意味だ?」
尋ねるレオルドにレイラは言い難そうに顔を顰めている。
「えっと、ほら、前のレオ兄さんはその、あまり男の人って感じじゃなかったから」
前というのは、つまりレオルドが金色の豚と馬鹿にされていた時の姿を指しているのだろう。
レオルドにとってもだが、レイラにとってもあまり思い出したくない事なので少々話題にし辛いのだ。
「ん、む。まあ、そうだな。でも、今はギルやバルバロトのおかげで痩せたからな。確かに、男らしくなったとは自分でも思っている」
「ええ。本当にそう。父様と
興奮しているように力説するレイラにレオルドは押され気味である。
「そうか。ところで一つ気になっているんだが、やけに触っているが気になることでもあるのか?」
「えっ! もしかして嫌だった?」
「いや、そんなことはないが、楽しいのかと思ってな」
レオルドに抱きついていたレイラは、先程からレオルドの身体をまさぐるように触っていた。別に怒るような事ではないが、気になってしまうレオルドはどうしても理由を知りたかった。
「えっと、男性の身体が気になってしまって……」
(おう……もしかして筋肉フェチですか?)
年頃の女の子であるレイラが異性に興味を持つのは普通の事ではある。ただ、人の趣味嗜好とは千差万別であり、よっぽどおかしなものでは無い限り口を挟むものではないだろう。
レイラが男性の身体もとい筋肉に興味を示すのは何もおかしくはない。
「俺は構わないが、中には人に触られるのを嫌がる人もいるから気をつけたほうがいいかもしれないな」
「そうですね……。確かに兄さんは嫌がっていましたし……」
(レグルスのを既に触っていましたか……)
どうやら、既に経験済みであったらしい。家族とは言え、レグルスも女性に触られるのは嫌だったようだ。もしかしたら、恥ずかしかったのかもしれないが、真相は聞かなければわからないだろう。
願わくば妹がおかしな道にだけは進まないようにと祈るレオルドであった。
さて、話が長くなってしまったがレオルドはレイラの約束どおり、買い物に付き合う事になる。二人は公爵家の馬車に乗って王都の商店街へと向かう事となった。
まず、訪れたのは衣服の専門店である。やはり、ここは外せないのであろう。レイラはレオルドを引っ張るように店内へと入っていく。
「ねえ、レオ兄さん! こっちとこっちの服。どっちが似合うかしら?」
両手に別の服を持っている楽しそうな顔をしているレイラに選択を迫られるレオルドは無難に答えてしまう。
「どっちも似合うと思うぞ」
これはいけない。意見を聞こうとしているのに、はぐらかすような答えは女性に対してはやってはならなかった。
「もうっ! なんでレオ兄さんも兄さんと同じことを言うの! 私がどっちがいいかって聞いてるんだから、どっちかを答えてよ」
(手厳しい~!)
案の定怒られてしまったレオルドは申し訳なさそうに後頭部をかいて謝る。
「すまん。あまりこういうことに慣れてなくてな」
「え? シルヴィア殿下とは買い物には行ってないの?」
「殿下とは仕事上の付き合いみたいなものだ。そういうことはしたことがないぞ」
「そうなんだ……。シルヴィア殿下とは手紙のやり取りとかは?」
「するわけないだろ。仕事上の付き合いと言っても部下を介した方が早いからな」
何故かは分からないがレイラは頭を抱えてしまった。レイラの反応にレオルドは首を傾げるばかりであった。
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