第133話 トカゲの尻尾はまた生えてくるんやで?

 寝込んでいたレオルドであったが、三日もすれば完治して動き回るどころか、激しい鍛錬をする事が出来るまでに回復していた。


「ふむ。これくらいなら大丈夫か」


 手をグーパーと開いて身体の具合を確かめるレオルドは満足したように頷いてから、汗を流すのだった。


 朝食へと食堂に向かうと、レオルド以外の家族は全員揃っていた。レオルドが食堂に入って来たのを見た四人が挨拶をした。


 オリビアは嬉しそうに笑い、ベルーガは少し不思議に感じたのか首を傾げたが、特に気にする事はなく食事をとる。


「ふふっ。いい朝ね、レオルド」


「そうですね、母上。とても、機嫌が良いようですが、何かいい事でもありましたか?」


「ええ。とっても嬉しいことがね」


 教えてくれなかったが、オリビアがあそこまで嬉しそうにしているということは、よっぽどの事があったのだろうと推測する。

 勿論、あったに決まっている。それは、ずっと仲違いを起こしていた子供達が少しずつではあるが、元の形に戻ろうとしているのだ。長年、見続けていた母親が気付かないはずがないだろう。ただ、父親の方は少々鈍感であったが。


「レオルド。先日の件についてこの後話がしたい。時間はありそうか?」


「大丈夫です。しばらくは休んでもいいとの事ですから」


「そうか。では、この後執務室に来てくれ」


「わかりました」


 朝食を取り終えたレオルドはベルーガに呼ばれているので、仕事部屋へと向かった。その道中にシャルロットと遭遇する。


「あら〜、どこに行くの?」


「父上の所だ。先日の件で話があるそうでな」


「あー、そうなのね。私は研究所に行って勉強会してるから」


「ああ。すまないな。頼んだ」


「これが終わったら沢山褒めてよね〜」


「努力はする」


 シャルロットと別れたレオルドはベルーガの元へと向かい、仕事部屋へと入る。そこでは、ベルーガが書類を読んでいる最中であった。


「父上。ただいま参りました」


「来たか。早速だが、先日の件についてだ」


「なにか進展はありましたか?」


「分かったことは一つだけだ。今回、二人を攫ったのは帝国で活動していた犯罪組織という事だ」


「つまり、帝国が絡んでると言うことですね。この事について陛下はなんと?」


「帝国と話し合ったそうだが、はぐらかされてしまったようだ。犯罪者が勝手にした事だと」


「尻尾切りという訳ですか」


「恐らくはな……」


 予想通りだったことにレオルドとベルーガは溜息しか出なかった。分かっていた事ではあるが、やはりやるせない気持ちになった。


 今回、レグルスとレイラを攫ったのは帝国で活動していた犯罪組織であり、主に人殺しや誘拐と言った事を生業としていた。

 そこで、その犯罪組織は帝国に雇われてレオルドを引き込もうとした。あまりにも強引な手ではあったが、そこまでする必要があった。


 帝国はレオルドを引き込もうと画策していたが、恐らく王国に阻止されるのは目に見えていた。だからこそ、強引な手を取らざるを得なかった。


 しかし、失敗に終わった。


 元より、失敗してもいいように犯罪組織を使ったのだ。公爵家の人間であり、尚且つ入手した情報によればモンスターパニックを終息させた立役者の一人だ。返り討ちにされてもおかしくはない。


 だから、簡単に尻尾切りの出来る存在を使った。そのおかげで、帝国は知らぬ存ぜぬを通す事が出来た。


 分かっていても確かな証拠は何一つない。既に犯罪組織の人間は、全員死んでおり証言のひとつも得られなかった。何か、証拠がないか、アジトを調べてみたが、結果は徒労に終わっている。


 つまり、向こうの言い分はレオルドを目当てに犯罪組織が勝手に動いたというものだった。そして、自分達は一切関与していないという事。妙な言い掛かりをつけるなら、それ相応の報いを払わせると帝国は言ったそうだ。


 レオルドからすれば、大切な弟と妹が誘拐されて、下手をすれば殺されていたかもしれないのだ。はらわた煮えくり返る思いだったが、どこにもぶつける事は出来ない。


「はあ〜。この件は結局どうなるんですか?」


「帝国は関与していないという事なのでこちらは何も出来ない。証拠さえあれば追求出来たのだろうが、何も残っていないからな。私達に出来るのは今後警戒を続けるだけということだ」


「……ギルバートをこちらに戻しましょうか?」


「そうしてくれると有難いが、お前の方が手薄になるかもしれないだろう? 今回の事で分かったが、シャルロット様は国家が関われば力を貸してくれない。なら、ギルバートをお前から取る訳にもいかんだろう」


「私は自身が戦えますから」


「いいや、それでもだ。公爵家は警備を強化する。陛下からは許可を得たからな」


「分かりました。そう言うのであれば」


「どうしても心配だと言うのなら、早く転移魔法を運用可能にしてくれ。そうすれば、一番に私達の所に設置するとの事だからな」


「ほう。では、期待に応えられるように頑張りましょうか」


「うむ。よろしく頼むぞ」


 その後、レオルドは私室へと戻っていく。これからもゲームにはない展開が待ち構えていることだろう。

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