第132話 思い出ポロポロなわけねえだろ!

 二人から話を聞いたレオルドは、自分が出来ることは贖罪する事だけだと嘆いた。

 過去の自分は今の自分とは全くの別人と言ってもいい。だからと言って過去の罪がなくなるわけではない。


 レオルドは過去の罪を背負って生きなければならないのだ。それは、二人のことだけでは無い。傷つけた全ての人もだ。


 それだけの事をレオルドは過去にやってしまった。たとえ、歴史的偉業を成し遂げたからと言って消えるわけではない。

 むしろ、傷付けられた人からすれば怒りを抱くかもしれないだろう。今更、善行を成した所で過去の罪が消えることもなければ、傷付けられた人の傷が治ることもない。


 ならば、レオルドはそれら全てを背負う覚悟が必要になる。運命に抗うだけではない。未来を掴み取るのなら、過去の過ち全てを背負い、前へ進まなければならない。


 傷つけたのだから傷つく覚悟が必要なのは当たり前のことであった。


「ずっと、ずっとお前達を苦しませていたんだな……俺は。謝った所で許されることではないが、それでも言わせてくれ。すまなかった、本当にすまなかった。そして、俺は誓う。もう二度と道を誤らないと。だから、見ていてくれ。これからの俺を」


 そう言ったレオルドは涙を流しながら頭を下げた。それを見た二人は、全てを許したわけではないけれども、今のレオルドならば信じてもいいだろうと頷いたのだった。三人が仲直りとは言えないが、元の関係に戻ることを決めたのである。


 しかし、長い間恨み続けていた二人は何を話せばいいか分からず、レオルドも長い事喋っていなかったのでどう話せばいいか分からないでいた。


 お互いに沈黙が続き、いざ話そうと思ったら同時に話し出してしまった。


『あの……!』


『お先にどうぞ……!』


 被ってしまう声に三人はくつくつと笑う。


「くくっ……!」


「ははっ……!」


「ふふっ……!」


 笑い合った三人は、しばらく笑っていただけだったが、レグルスが話を切り出した。


「その……レオ兄さん。お怪我の方はもう大丈夫ですか?」


 それは心配しての事だ。レグルスはシャルロットがレオルドの怪我を治療しているのは見たが、まだ心配であったのだ。自分達を守る為にその身を挺したのは今でも鮮明に覚えている。あの光景はしばらく忘れられそうにない。


「ああ。怪我は問題ないさ。ただ、血が足りないかな」


「あっ……その僕達のせいで――」


 レグルスが謝罪の言葉を述べようとしたら、レオルドが遮る。


「お前達のせいじゃないさ。全部俺が悪かったんだ。俺の認識が甘かったせいでお前達にまで迷惑掛けてしまったんだ。だから、謝らなくていい。もし、俺に何か思う事があるのなら、謝罪よりも……感謝の言葉が聞きたいな」


 そう言って寂しそうに笑うレオルドにレグルスは自分の言葉を思い出した。助けに来てくれたレオルドに向かって酷い事を言ってしまった。

 仕方が無かったとは言え、あの場で言葉にするような事では無かっただろう。それに、あの言葉を聞いてレオルドが動揺したから敵の攻撃を受けてしまったのだ。


 罪悪感を感じてしまうのは普通のことであった。


 それでも、レオルドは一切気にしていない。むしろ、あの時の言葉は言われて当たり前のことであったと思っているのだ。だから、レグルスを責めるようなことは決してしない。


「うん……ありがとう、レオ兄さん。おかげで、僕達は怪我もなかったです」


「ああ。これからも何かあったら俺は必ず駆け付ける。だから、安心してくれ」


「次は無いようにしてもらいたいですね」


「うっ……一先ず、犯人の特定を急いで対策を練るようにする」


「それがいいでしょうね。もう目星はついているんですか?」


「ん〜、大体はな」


「やはり、レオ兄さんに恨みを抱いている者の仕業でしょうか?」


「それも考えられるが、俺としては帝国か聖教国が怪しいと思っている」


「転移魔法の件でしょうか?」


「理解が早いな。ああ、そうだ。転移魔法はただの便利な道具としか考えてなかったが、国からすれば軍事利用も出来る代物だ。今後の戦争が大きく変わるだろう。だから、他国も黙ってはいられなかったんじゃないかと思う」


「なるほど。それは確かにそうですね。転移魔法が使用出来れば敵国に侵入することは容易になるでしょうしね」


 二人がいつの間にやら盛り上がっていた。しかし、それが楽しくない者もいる。

 難しい話ばかり続ける二人にレイラは怒った。自分を置いてけぼりにしてる兄二人を。


「もうっ! それも大事だけど、今は別の事を話しましょうよ!」


「す、すまん。レイラ。忘れていた訳じゃないんだが、思いの外盛り上がってしまって」


「う、うん。悪気は無かったんだ。ごめんよ」


「そんなに謝らなくてもいいわ。ねえ、レオ兄さん。私、レオ兄さんにお願いがあるの」


 困ったように顔を伏せるレイラにレオルドは首を傾げながら答える。


「なんだ? 俺に出来る事ならなんでもするぞ」


「本当? その……一度でいいから一緒に買い物に行って欲しいの……」


 キョトンとするレオルド。あまりにも意外な事だったので、すぐに返事が出来なかった。それを勘違いするレイラは寂しそうに笑う。


「ご、ごめんなさい。今まで恨んでばっかりだって言うのに急におかしいよね……忘れて――」


「いや、すまない。意外だったからすぐに返事が出来なかったけど、俺でいいなら買い物に付き合おう」


「ほ、本当にいいの?」


「ああ。いつ行く? 流石に今すぐは無理だが、身体が元通りになり次第、時間を調整しよう。今は転移魔法について研究者達に勉強を教えているが、シャルに任せておけばいいしな」


「迷惑じゃないかしら? シャルロットさんにも悪い気がするし……」


「気にするな。俺からシャルには言っておく。だから、一緒に買い物へ行こう」


「やった! 約束よ。破ったら承知しないんだからっ!」


「分かってるさ。絶対に行くよ」


 全身で喜びを表現しそうなレイラにレオルドは頬が緩む。

 また、レイラの笑顔を見る事が出来て良かったと。もう二度と見る事は叶わないと思っていたのに、見る事が出来たのだ。頑張って良かったと思うレオルドであった。

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