第129話 それはダメよ~ダメダメ~

 無事に二人を救出したレオルドは安心感から、力が抜けてしまいその場に崩れ落ちてしまった。焦る二人は慌ててレオルドを抱き起こそうとすると、背中にまだナイフが刺さっている事を思い出した。


 ここで、ナイフを抜けば血が溢れて失血死の可能性がある。そもそも、レオルドは先程から血を流し過ぎている。

 先程までは戦闘が続いていたおかげでアドレナリンが溢れ出ており、レオルドは意識を保つ事が出来ていた。


 しかし、今は二人を助け出して安心してしまった。おかげで、レオルドは保っていた意識が途切れてしまったのだ。


 回復魔法があれば治すことも可能なのだが、あいにく使い手はここにいない。二人は急いでレオルドを連れて帰ろうとする。


 すると、その時タイミング良くシャルロットが現れた。


「手酷くやられたわね〜。でも、大丈夫よ。私が治してあげるから」


 二人は疑うことなくレオルドをシャルロットへと引き渡す。レオルドを受け取ったシャルロットは早速回復魔法を施して、レオルドの傷を塞いだ。

 みるみるうちに回復するレオルドを見て、レグルスとレイラはほっと息をついた。これで、レオルドが助かると。


 ただ、一つ気になることがある。何故、シャルロットは絶好のタイミングで現れたかだ。二人は特に気にはしていなかったが、レオルドあたりならおかしいと思うだろう。


 まるで見計らっていたかのように現れたのだから、疑うのは当たり前である。


 では、何故シャルロットがタイミング良く二人の前に現れたかだ。実は、シャルロットはレオルドが二人を助けに向かう最中にレオルドを見つけていた。

 その後は、光の魔法を用いて姿を消していた。つまり、シャルロットはレオルドがナイフで刺されている時も傍観に徹していたのだ。


 シャルロットはレオルドが負けるまでは手を出さないと決めていた。これは、他人が手を出してもいい問題ではない。レオルド自身が解決しなければならないと、シャルロットは思っていた。


 幸か不幸か兄弟の仲が戻ることになった。切っ掛けはなんであれ、無事に三人は仲のいいとは言えないが、もう一度兄弟としてやり直せる機会を得たのだ。


 ならば、シャルロットが出しゃばるべきではない。


 しかし、もう一つシャルロットが傍観していた理由がある。


 それは、国家の関わる事件にはシャルロットは関与しないというものだ。シャルロットはその能力から多くの権力者に目を付けられた。

 何度も強引な手を使って来た権力者には圧倒的な力で捩じ伏せたこともある。だが、その際には恨みを買い、執拗に狙われる事も多くなった。故に、シャルロットは一族郎党を根こそぎ滅ぼして見せしめにしたのだ。


 以降はシャルロットを利用しようとする輩は現れなくなる。だが、人の欲望とは底がない。あの手この手でシャルロットを利用しようとするのだ。だから、嫌気が差したシャルロットは人里離れた森の奥で独りひっそりと魔法の研究を行っていたのだ。


 しかし、その時レオルドの噂を耳にしたのだ。興味を持って近付き、異世界の知識を有しているレオルドに好奇心を抱き、共に行動している。


 だが、同時に危惧していた。レオルドは自分が世界に何をもたらしたのか、いまいち理解していなかったからだ。転移魔法がどれだけの影響を世界に与えるか容易に想像がつくはずだ。


 普通ならば、だ。


 しかし、レオルドは普通ではない。真人の記憶を持ち、新たな人格を形成しており、この世界の常識にとらわれない考え方をしていた。そして、何よりもゲームの知識が邪魔をしていた。


 ゲームの知識は確かに素晴らしい結果をもたらしてくれるが、どのような影響が出るかまでは描写されていなかったのでレオルドもその事についての認識が甘かったのだ。


 だからこそ、今回の事件は起きた。シャルロットは既に今回の事件が帝国の仕業だと言うことを知っている。

 しかし、教える事はしない。これはレオルドが自分で気付かなければならない問題なのだ。ここで教えてしまうのは簡単だが、そんな事をすればレオルドが考えるのを止めてしまう恐れがある。


 それはダメだ。


 それではダメなのだ。


 人は自分で考えて行動をしなければならない。人に言われて流されるだけの人間になってしまうのは悪くはないだろう。だが、そうなってしまえば、レオルドもそこらにいる人間と変わらない存在になってしまう。


 それは嫌だ。


 そんなのは嫌だ。


 そうなってしまえば、有象無象の一人になってしまう。レオルドという個が消えてしまう。それは、シャルロットにとっては許し難い事であった。


 折角、見つけたのだ。聞いた事も見たこともない知識を持つレオルドがそこらにいる一般人になったら、きっとつまらなくなる。


 我儘な考え方ではあるが、シャルロットはレオルドに普通になって欲しくないのだ。


(今回の事件で自覚してくれればいいのだけど)


 切実に願う。この事件を切っ掛けにレオルドが自身の認識の甘さを理解して、慎重に物事を考えて、どのような変革を世界にもたらすか。


 運命に抗うと誓ったレオルドがこれから先どのような活躍を見せるのか。シャルロットは特等席で見るつもりであった。

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