第128話 オタンコナスって最近聞かないけど、古いのか?
男は動かないレオルドに近付いて蹴り飛ばそうとした瞬間、顔面を殴られて勢い良く吹き飛んだ。
ゴロゴロと地面を転がった男は、立ち上がってレオルドを睨み付けると殴られた顔を押さえながら叫ぶ。
「て、てめえ! まだ、動けるのか!」
「俺が今まで誰とどのような鍛錬を積んだと思ってる」
「知るかよ、そんな事!」
激昂した男がレオルドへと飛び掛る。しかし、男の攻撃は全て防がれる。
「化け物か、てめえは!? なんで、そんだけの傷で動けやがる!」
男が言うようにレオルドは背中にナイフが四本も刺さったままだ。血も流れており、普通なら痛みにのたうち回っているか、意識を失っていてもおかしくはない。
「バルバロトやギルバートとの組み手に比べたらこの程度! どうということはない!」
「くそがっ! もういい! 殺す! てめえは殺すっ!」
完全に切れてしまった男は依頼の事を忘れて、レオルドを殺そうとする。
「ふんっ!」
「ぐおおおっ! てめえ!」
腹部を殴られた男は後ずさる。男は冷静さを失い、レオルドだけに的を絞ってくれたおかげで戦いやすくなっていた。二人を守るのは当然だが、狙われているのは自分のみなので集中しやすいとレオルドは短気な男に感謝していた。
次々と決まるレオルドの攻撃に男は焦り始めていた。先程までは自分が戦いの流れをコントロールしていたのに、今は立場が逆転している。
ここで何か流れを変えねば男は自分が負けると確信していた。
(くそ……落ち着け。こいつの攻撃は強いが、パターンは単純だ。どこかで隙を突いて、もう一度後ろの二人を狙えば俺の勝ちだ!)
怒涛の連撃を浴びながらも男は冷静さを取り戻して、起死回生の一手を練る。
急に静かになった男を不気味に思ったレオルドは、何か男が企んでいるであろうと警戒を強めた。
一旦、レオルドは距離を離して魔法へと切り替える。その瞬間、男が隠し持っていた投げナイフをレオルドに向かって投げ付ける。
ナイフを弾き飛ばして、レオルドは男が迫っている事に気がつき迎え撃とうとする。
(ここだっ!)
力強くレオルドが踏み込んで男に拳を撃ち放った瞬間を狙って男は隠していた煙玉を地面に投げ付けた。
視界が煙で覆われて、レオルドは男の姿を見失ってしまう。そして、男は笑う。
「はっはー! 最後に勝つのはお――おおっ……?」
何故か自分の身体が空中で静止している男は困惑する。どうして、これ以上動かないのだろうかと視線を自分の身体に向けると、そこには鋭く尖った石柱に突き刺さっている自分の身体があった。
「あ……あえ? な、なんでだ?」
どうして自分がこのようなことになっているのか理解できない男にレオルドが近付く。
「簡単な話だ。お前が急に静かになったから、何か企んでるんだろうと思ってな。恐らく、隙を見て二人を人質にでもしようとしてるんじゃないかって。それで、俺は魔法の準備をしていた。探査魔法を使ってお前が二人に近付いた瞬間を狙ったんだよ」
「こ、ここまでの事が出来るなんて聞いてねえぞ……」
「お前らの勉強不足だ。最後に聞かせろ。お前らはどこの人間だ」
「へへっ。答える馬鹿がいるかよ……」
最後に強がりを見せた男は死んだ。これで、手がかりが失われたかに思えたが、レオルドが最初に電撃で倒した男達は生きている。
目が覚めて襲われでもしたら困るのでレオルドは気絶している男達に近付くと、男達が死んでいる事に気がついた。
確かに電撃を浴びせたが、気絶する程度の威力であったはずなのに死んでいたのだ。不可解なことではあったが、レオルドは無事に弟と妹を救えた事に安堵した。
固まっている二人の所へと近付き、レオルドは何と話せばいいのか困ってしまう。頭を悩ませていると、レイラが最初に口を開いた。
「馬鹿……」
「えっ?」
小さく呟いたので聞え辛かったが、レオルドは確かに馬鹿と聞こえていたので、確認の為に聞き直した。
「バカバカバカバカッッッ! アホ、間抜け、オタンコナスーッ!!!」
「えっえっえっ???」
突然のキャラ崩壊にレオルドは理解不能であった。妹の突然変異にレオルドは脳が追いつかず、レグルスに助けを求めるように顔を向ける。
しかし、レグルスもレイラの豹変には驚いており、目を丸くしていた。
「レ、レイラ……?」
「どうして、どうして!! 今更遅すぎるんですよ……バカァ……」
泣き崩れるレイラにレオルドは掛ける言葉が見つからなかった。オリビアから話は聞いている。昔は自分を慕っていてくれたことを。
でも、今は道を踏み外してしまったことで嫌われてしまっていた。だから、これから仲直りをしようと決意した矢先にこれだ。
二人が自分の所為で誘拐されてしまった。どれだけ謝ろうとも許してはもらえないだろう。そう考えていたのだが、レイラの姿を見て分からなくなってしまっていた。
「ずっと、待ってたんです……信じてたんです。レオ兄さんは変わってくれるって。でも、そんな期待は裏切られるばかりで、いつしか恨むことばかり。もう、嫌だった、辛かった。恨むばかりで疲れるだけだった。だから、レオ兄さんが決闘で負けて屋敷からいなくなるって知って、もうレオ兄さんの事で辛い思いをしないでいいんだってわかったのに……! なんで、今更変わったりするんですか……! やっと心の整理が出来たと思ったのにっ!」
心が痛かった。レオルドはずっと信じていてくれていた弟と妹に合わせる顔がなかった。どれだけ言葉を募ろうと、レイラの言うとおり今更である。
「レオ兄さんが活躍したって聞いて信じれなくて、でも、どんどん活躍して皆から賞賛されて嬉しくて! でも、また裏切られたらって! そう思うと私、私……!」
だから、レイラたちは恨むことしかできなかった。裏切られるなら、最初から信じなければいい。恨んでいれば楽だった。
(ああ……本当に俺は馬鹿野郎だ……)
心の底から憎んでいたわけではない。オリビアのように全て信じるわけにもいかず、ベルーガのように割り切る事もできなかったのだ。
だからこそ、拗れてしまった。
ずっと二人は苦しんでいたのだ。変わったレオルドを信じることは出来ず、恨み続ける事も出来ずに。
だけど、もう大丈夫である。仲直りする事は、すぐには出来ないだろうが、時間は十分に出来た。これからゆっくりと歩み寄ればいいだけだ。
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