第127話 盛り上がってまいりました!
複数の男達が身動きの取れないレグルスとレイラへと襲い掛かる。しかし、レオルドがそれを許さない。
レオルドは身体強化を施して男達よりも先にレグルスとレイラの前に立ち土魔法で壁を作り出す。その光景にレオルドを蹴り飛ばした男は驚愕に目を見開いていた。
(さっき、まともに俺の蹴りを食らったはずだ。なのに、あれだけ動けるとは……情報にはなかったな)
警戒心を高める男は、レオルドの一挙一動を見逃すことなく観察する。
複数の男達は土の壁を破壊しようと魔法を放つが、強度があまりにも高く破壊出来ない。これでは、いつまで経っても楽しめないと土の壁を迂回しようとした。
そこをレオルドは狙っており、容赦のない電撃が男達に襲い掛かる。次々と倒れていく男達に、リーダー格の男は苛立つ。
(くそ。使えない奴らだ。明らかに罠だって分かるだろうが。だが、あのバカ共のおかげで分かった。アイツは、やはり、俺の蹴りが効いている。さっきから魔法しか使ってない所を見ると、近付かれるのは嫌なんだろうなぁ)
嫌らしい笑みを浮かべるリーダー格の男は、部下が全員倒れるのを見届けた。そして、すかさず地面を蹴って土の壁に蹴りを叩き込んで壊した。
「よ〜う。どうした? そんな驚いた顔して」
壊された土の壁を見てレオルドは驚きを隠せなかった。かなりの魔力を注ぎ込み、壊されないと思っていたのに呆気なく壊されてしまったのだから。
(こいつ……強い。さっきの蹴りもかなりのものだったし……二人を守りながら戦えるか? いいや、弱気になるな。俺なら出来る。今まで誰と戦ってきたレオルド・ハーヴェスト! この程度の相手に屈するようなら、運命なんて覆せるわけがないだろう!)
一瞬、弱音を吐いてしまったレオルドは己を鼓舞する。決して屈してはならないと瞳に炎を宿して、リーダー格の男へ目を向ける。
「ああ? なんだよ、その目は? 調子に乗ってんじゃねえぞっ!」
「どうした、お前の方こそ。さっきまでの余裕はどこへ消えた?」
「………………死ななきゃいいんだからよォ! 腕の一本や足の一本くらい無くなっても文句は言われねえよなぁ!」
襲い掛かるリーダー格の男とレオルドが激突する。
飛び掛ってきた男の蹴りをレオルドは防いで、電撃を撃とうと手の平を向ける。
(なるほど! 手の平から放出するタイプか! これなら出だしさえ掴めれば避けるのは簡単だな!)
男の予想通りレオルドは手から電撃を放った。しかし、男は手の平を向けられた瞬間に身体を捻って避けてみせる。避けられた事に驚いたが、着地した瞬間を狙ってレオルドは男に近付き蹴りを放つ。
しかし、男に蹴りを受け止められてしまう。そのまま、男はレオルドへ拳を突き出した。だが、レオルドも負けじと拳を受け止める。
至近距離となったところでレオルドが電撃を放つ。すると、男は強引にレオルドを引き離して距離をあける。
(くそ……電撃が厄介だな。それに無詠唱であんなにポンポン魔法を使いやがって。頭だけじゃなくて相当実力もあるみてえだな。それに俺の蹴りを受けてもあの動き、かなりタフな野郎だ。だけど、不用意に近付いてこないという事は、後ろの弟と妹がよっぽど大事だと見える。使わない手はないだろ!)
男の姿がブレるとレオルドを避けて、背後にいるレグルスとレイラに襲い掛かる。レオルドが先回りして男を食い止めるが、男は執拗に二人を狙う。
「お前の相手は俺だろうが!」
「ははははっ! 戦場では弱い奴を優先するのは当たり前の事だろう! 嫌なら見捨てちまえよ、お兄ちゃん!」
「誰が! 二人を見捨てるかっ! 俺の大切な弟と妹なんだ! 嫌われていても守ると決めたんだよっ!」
思いの丈を打ち明けながらレオルドは男と戦う。誰かを守りながら戦うという事を経験した事のないレオルドは思っている以上に苦戦していた。
(こいつ! さっきから二人ばかりを狙って!)
レオルドにフェイントを入れて、本命は二人と男は決めていた。レオルドの方が実力は上ではあるが、二人を守りながら戦うレオルドと男の力は拮抗している。
守られている二人はどうしてレオルドが必死に戦っているのかが理解できなかった。散々、恨み辛みをぶつけて酷い事ばかりを言ってきたのに、どうして傷だらけになりながらも守ってくれるのか分からなかった。
さっきだってそうだ。助けに来てくれたにも拘らず、感情のまま罵声を浴びせた。だというのに、どうして助けてくれるというのか。
「どうして……」
「なんで……」
二人の呟きは虚空に消える。レオルドは今も戦っているので聞くことはない。
少しでも二人から距離を取ろうとするレオルドだが相手はこの手の戦いに慣れているため、思い通りにはいかない。
焦りが生まれ始めるレオルドに男は気がついたのか、気付かれないように口角を上げる。
男が突然距離を取り、懐に手を差し込んだ。レオルドは男が何かする気だと分かった上で、距離を詰める。
(ここだっ!)
一気に勝負を決めようと焦るレオルドに対して男は笑った。
「はっはははははは! 引っかかったな!」
男が笑い声を上げて懐から取り出したのは、投げナイフであった。勢い良く男はレオルドに投げ付けるが、レオルドには通用しない。
だが、男の狙いはそこではない。レオルドが守っている二人であった。
レオルドに投げたのは四本のナイフで二人に向かって投げたのは四本もあった。レオルドを避けるようにナイフが飛んでいく。
その事に気がついたレオルドは男が風属性の使い手だと分かったが、今はそんな事はどうでもよかった。
(壁を、いや、間に合わない! なら!!!)
無詠唱で土の壁を発生させるよりも前にナイフが到達すると瞬時に理解したレオルドは己の身を挺して二人を守った。
レグルスがレイラを抱きしめて守ろうとしていた上にレオルドが覆いかぶさり二人を守ったのだ。
「なんで……どうして!!!」
「怪我はないか?」
レオルドの行動にレグルスは疑念をぶつけた。自分達を無視して、男に止めを刺す事も出来ただろうに、何故庇ったのか。
もう十分に理解した。レオルドが本当に自分たちの事を思っていてくれるのだと。
でも、それでも聞きたかった。
「どうしてですか……僕達の事を気にしなければ勝てたのに……なんで……自分が傷ついてまで守ったんですかっ!?」
「決まってる。俺はお前達の兄だからだ」
久しぶりに見る兄の笑顔。かつて、慕っていた兄のものだとレグルスは理解した。
しかし、兄妹の感動的な場面に水を差す者がいた。
「はーっはっはっはっは! お前なら必ずそうするだろうと信じてたぜ~!」
レオルドの背中には男が放った四本のナイフが刺さっていた。男はレオルドなら二人を守ると確信していたから二人へと投げナイフを放ったのだ。結果、レオルドは重傷を負い、勝負は決した。
「お前の敗因はその甘さだ。まあ、死なれちゃ困るから回復薬くらいは使ってやるよ。ただ、死なない程度にな」
今も二人を庇うように立っているレオルドの方へと男はゆっくりと歩いていく。勝利を確信した男はニヤニヤと笑っていた。
だが、レオルドの闘志はまだ燃え尽きてはいなかった。
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