第126話 おいおい、ちょっと短絡すぎじゃない?

 怒りで頭が真っ白になっていると思われたがレオルドは冷静であった。王都を駆け回るのではなく、人を匿える場所であり、人気のない場所に来ていた。


 今、レオルドがいる場所は旧市街地と呼ばれている場所で、人は住んでいるが現在の市街地に比べたら少ないもの。

 そして、浮浪者や犯罪者に密入国者などがいる場所でもあった。実際、ゲームでも旧市街地は犯罪者の巣窟であった。


 もしも、人を攫って隠すならここしかないだろうとレオルドは当たりをつけていたのだ。


 そして、レオルドの予想は当たっていた。レグルスとレイラを攫ったのは、帝国から密入国した犯罪組織である。

 今回、二人を攫ったのは帝国からの依頼でレオルドを確保するというものであった。命は保障されるが多少は痛めつけても問題ないとされている。


(さて、ここまで来たけど、どうやって二人を探すかだ。敵は俺のことをどれだけ知っているかわからない。だが、レグルスとレイラが俺の弟と妹だという事を知っていたということは俺の顔もバレているはず。なるべく、見つからないように動かないとな。騎士が動いていることを知ったら相手がどうするか分からない。早く、二人を助けないと)


 探査魔法を駆使してコソコソと旧市街地を探し回るレオルドはステルスゲームでもしているかのような気分であった。

 しかし、探査魔法では居場所までは把握出来ても、誰かはわからない。レオルドは地道に捜索活動を続けていく。


 どれだけ探し回っただろう。レオルドは旧市街地をくまなく探し回った。しかし、レグルスとレイラを攫った組織らしき人物はいなかった。


(ここじゃないのか?)


 少しずつ焦るレオルド。一度、旧市街地から離れて頭を冷やした方がいいかもしれない。レオルドは旧市街地を離れようとした時、話し声が聞こえてくる。


「あの女の方は遊んじゃいけないんすかね〜」


「バカな事言ってんじゃねえよ。人質に手を出したら、ボスに殺されちまうだろ」


「でも、あの女は上玉ですよ。滅多に味わえるもんじゃないだから、一口くらい」


「一口くらいなんだ?」


 気配を隠して、レオルドは話をしていた男達の背後に降り立つ。怒りに身を任せてしまいそうだったが、声を掛けるだけで踏みとどまった。


「だ――」


 振り返った男の一人を電撃で気絶させて、もう一人の口を押さえ付けて壁に叩き付ける。


「質問だけに答えろ。もし、大声でも上げたら、その首へし折る」


 殺気にあてられて壁に押し付けられている男は涙目になりながら、コクコクと首を縦に振る。


「さっき、お前が話していた女と言うのは公爵家から攫った女で間違いないか?」


 必死に頭を振る男を見て、レオルドは獰猛な笑みを見せる。ついに、見つけたと。レオルドは男の首を絞め上げて、睨み付ける。


「案内しろ。さもなくば、殺す」


「わ……わがっ……だ……だがら……だしゅ……」


 苦しそうに藻掻く男から手を離した。持ち上げられていた男は、地面に尻もちを着く。首を絞められていたので、苦しそうに咳き込んでおり、涙目でレオルドを見上げている。


「言っておくぞ。俺はいつでもお前を殺せる。妙な真似をしてみろ。その時、お前の命はない」


「は……はひ……」


 怯える男はレオルドをレグルスとレイラが捕まっている場所へと案内していく。旧市街地の端まで男に案内されると、古びた教会に着いた。


「こ、ここです……」


「ここだと……? 嘘じゃないな?」


「う、嘘じゃありません! ここの建物は地下室があるんです。そこに――」


「ご苦労さん。眠ってろ」


「あぐっ……」


 案内した男へレオルドは電撃を浴びせて眠らせた。教会の中へと足を進めると、中には誰もいないが探査魔法で調べてみると、複数の反応を感知した。


「数は……ひとつふたつみっつ――」


 探査魔法で感知した魔力反応を数えると全部で十二であった。その内、いくつかは固まっているが、二つだけピッタリとくっついている魔力反応があった。

 レオルドは恐らくその二つがレグルスとレイラと当たりをつける。


 すぐに助けに向かいたいが、地下室への入り口はどうやら一つのようだ。もし、このまま侵入すればたちまち気付かれてしまい、二人に危険が及ぶ可能性がある。


 それは、避けなければならない。レオルドは必死に考えるが、時間を掛けるのもよろしくはない。二人の精神状態も気になる。恐らくかなりすり減っているに違いない。


 ならば、ここは強行突破しかない。


 二人へ被害が及ばないようにレオルドは細心の注意を払って土魔法を発動させた。教会の地下室へと穴を空けて侵入する。


 レグルスとレイラの二人が閉じ込められているであろう場所へと一直線にレオルドは向かう。その際に、敵に気付かれてしまったが、既にレオルドは二人のいる場所へと辿り着いていた。


「良かった……」


 二人の安否を確認したレオルドは安堵の息を吐いたが、二人の目は憎悪に染まっていた。


「何が良かったですか……あなたのせいで……お前のせいで僕とレイラがどれだけ傷付いたか分かっているのか!!」


「っ……すまない。だが、今はここから出るのが最優先だ。その後にいくらでも俺を責めればいい」


「おいお〜い、逃がすと思ってるのか?」


 背後から声がした瞬間、レオルドの身体は吹き飛ぶ。壁に叩き付けられたレオルドは大きく息を吐き出して、地面に手を着く。


(いつの間に……くそっ。油断した)


「お前がレオルド・ハーヴェストか。手間が省けたぜ。まさか、そっちからのこのこやって来てくれるなんてな〜。嫌われてても弟と妹は見捨てられなかったか〜?」


「当たり前だ。二人は俺の大切な弟と妹だ。これ以上、傷付けることは許さん」


「はははははっ! こいつぁ、傑作だ! 助けに来た兄貴に恨み言を吐いた弟と妹を助けるつもりでいる。ああ、なんて美しき兄弟愛か………………反吐が出る。おい、レオルドだけ生かして後は好きにしろ」


 男の言葉に後ろで控えていた男達が喜びの声を上げる。これから始まる惨劇に男達は楽しみで仕方がないようだ。


「やらせると思うか? この俺が断じて許さん!!!」


「はっ……俺の蹴りをまともに食らっておいて大口叩きやがる。お前ら、そいつの目の前で弟と妹を好きにしてやれ」


 呆れるように笑った男の言葉を待っていたかのように男達はレグルスとレイラに向かって飛び掛かった。

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