第124話 くるり、くるくる、世界は回る

 陛下からの依頼とあってレオルドはシャルロットと共に転移魔法を研究しているという場所へと来ていた。


「ふむ、ここだな」


「ふ〜ん。ここなら、多少何かあっても問題なさそうね〜」


 住宅街から離れた場所にあるので、シャルロットの言う通り何か事故が起きても被害は出ないだろう。ただし、研究者たちの命は保障されていない。


「不吉な事を言うな。行くぞ、シャル」


「は〜いっ!」


「いちいち腕を絡める必要は無いんだぞ」


「いいじゃない。減るもんじゃないんだし」


「はあ……好きにしろ」


 腕を絡めてくるシャルロットにこれ以上何を言っても聞かないと覚えたのでレオルドはそのまま研究所へと入っていく。


 中へ入るとレオルドとシャルロットを待っていたようで、一人の職員が対応した。


「お待ちしておりました。レオルド・ハーヴェスト伯爵にシャルロット様でございますね」


「ああ。陛下からの依頼で参った」


「承っております。どうぞ、こちらへ」


 職員に案内されて研究所の中を歩き回る二人は、研究所内を見学する。ある程度の設備が整っており、これならば問題はないだろうと二人は判断した。

 ただし、いくつかの改善点が見られたが、それは指摘するべきではないだろう。余計な事をして恨まれたくはないのだ。


「こちらで転移魔法の研究をしております。現在、レオルド様が復活させた魔法陣以外は未だに完成の目処はありません」


 軽く説明を聞いた二人は研究室へ入り、研究者達に挨拶をする。


「今日からしばらく転移魔法について教えることとなったレオルド・ハーヴェストだ。そして、こちらの女性は知っての通り、かの有名なシャルロット・グリンデだ。以降、よろしく頼む」


「よろしくね~」


 集まった研究者達は二人を歓迎するように拍手を送る。

 早速、二人は何で躓いているのかを確認する為、話を聞いていく。


 聞く所によると、魔法陣は問題がないと言う。確かめてみると、レオルドが発見した魔法陣を模写しているので、確かに間違いはないだろう。念のためにレオルドも確認してみたが、間違っている箇所は見つからない。


 では、魔力が足りないのかと思ったがそれも違う。じゃあ、場所も関係あるのかと思ったが、それも違うという。


 一通り、考えられる原因は全て試したらしい。これにはレオルドもお手上げである。どうしたものかと頭を悩ませていると、シャルロットに肩を叩かれる。


「ん? 何か分かったか?」


「あのね、もしかしてなんだけど、転移魔法について理解が足りないんじゃないかしら?」


「そうなのか? でも、俺は簡単に出来たぞ?」


「だって、それは貴方が特別だからよ。ほら、貴方には異世界の知識があるでしょ?」


「言われてみれば、そうだが……でも、お前も簡単に使ったじゃないか」


「それは、私が長い間研究していたからよ。だから、ある程度は転移魔法、いいえ、空間というものに理解があったからって話なの」


「あー、なるほど。でも、ゲームではヒロインが普通に使ったけど?」


「それは、ゲームだからって省略されたんじゃないかしら? もしくは、そのヒロインちゃんが本当に天才だったかのどちらかね」


「うーん。じゃあ、彼らには空間について詳しく話せば転移魔法も使用が可能になると?」


「多分、難しいと思うわ。そもそも、レオルドも転移魔法は使えないでしょ?」


「ああ。魔法陣があれば可能だが、単独での使用は不可能だ」


「単独での使用は恐らく相当な知識が必要よ。だから、魔法陣はその足りない部分を補ってくれているの」


「ふむ。ならば、やはり彼らには知識を与えるべきと?」


「時間はかかるでしょうけどね」


 解決法はわかったので、あとは実践するだけだ。レオルドとシャルロットは研究者達に空間についての勉強を教えることになる。


 一方、レオルドとシャルロットが転移魔法について勉強会を行っている頃、密かにレオルドへ魔の手が忍び寄っていた。


 王国内のとある場所で複数の男達が集まっていた。


「レオルド・ハーヴェストについて何か分かったか?」


「集めた情報によりますと、転移魔法を復活させる数年前までは典型的な悪徳貴族だったらしく、決闘に敗北した事でゼアトへと追いやられたそうです。

 それ以降は表舞台から姿を消していたようですが、モンスターパニックの際に才能の片鱗を見せた後から大きく変わったということ。

 そして、現在は子爵になりゼアトの領地を改革しているそうです。しかも、帝国の作りに似ているという話です」


「ほ~、なんとも怪しい話だ。帝国とのつながりはどうなんだ?」


「それが一切見つからないのです。このことから、レオルド・ハーヴェストには他にも何かあると思われます」


「ははっ。おかしな野郎だが、関係ない。俺たちは仕事をこなせばいい。レオルドの弱点はわかったか?」


「それが……」


「なんだ。言って見ろ」


「交友関係などを調べた所、標的には親しい人間がいませんでした」


「はあ? 一人もいないのか?」


「はい。元婚約者の方も調べましたが、どうやら仲違いをしているようで人質にしても応じる事はないかと。それから、家族の方も双子の弟と妹からは相当恨まれているようでして、こちらも人質としては弱いかと……」


「おいおい、マジかよ……」


「ですが、弟の方は次期当主らしくレオルドを差し出してでも助ける可能性は高いかと思われます」


「そうかもしれんが、お前は公爵家次期当主と現在圧倒的な功績を挙げている男。どちらを重要視する?」


「前者では?」


「まあ、普通ならそうだろう。公爵家の方が格上だから新興貴族なんぞよりも重要視されるだろう。だが、レオルドの価値は恐らく公爵家よりも上なはずだ」


「そんなまさか!」


「良く考えてみろ。俺たちがこうやって王国に来ているのもお上さんからの依頼だ。つまり、どうしてもレオルドが欲しいんだろうよ」


「しかし、どうやって誘き出すのですか?」


「妹の方を使うか。恨まれていても兄妹だ。来なかったら来なかったで別の手を考えりゃ良い」


「わかりました。では、早速行ってまいります」


「しくじるなよ」


 世界は回り、運命は動き出した。レオルドという一人の人間を巡って、遂に動き出したのだ。

 これから、レオルドは自分がどのような変化を世界にもたらしたのかを知ることとなるのであった。

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