第120話 最強ならば慢心して当然なり

 またまた王都へと帰ってきたレオルドはシルヴィアと共に王城へと向かう事になる。ただ、一つ問題なのがシャルロットがいる事だ。


「シャル。大人しくしておけよ」


「分かってるわよ。それくらい!」


「まあまあ。レオルド様。シャルロット様ならば陛下も咎めませんよ」


「しかし、殿下。それではシャルが調子に乗るだけですよ?」


「もう〜! 別に問題ないでしょ? 今回は私とレオルドが作った魔法の袋もある事だし、大抵の事は許されるわ!」


「シャルロット様の仰る通りだと思いますよ。まさか、帝国に一つしか無いとされていた魔法の袋を作り上げた功績は、爵位を得てもおかしくありませんから」


「そうよ! シルヴィアはいい子よね〜。どこかの頑固者と違って〜」


「頑固者とは誰の事だ?」


「貴方に決まってるじゃな〜い!」


「ほう? お前がいい加減なのが悪いんだろうが!」


「きゃあ〜、怒った〜! 助けて、シルヴィア」


「レオルド様、あまりシャルロット様を責めても何も変わりませんよ」


「くっ……はあ……取り乱してしまいました。お許しを殿下」


「これくらい全然構いませんわ」


「私に謝罪するのが先でしょ〜?」


「……」


 無言で電撃を浴びせてやろうかと本気で考えるレオルドだが、シャルロットは常に魔法障壁と物理障壁を同時展開並びに計八層にも重ねている。

 レオルドが本気で魔法を撃ち込めば、破壊できるがシャルロットも本気を出す事になるだろう。


 ここでレオルドとシャルロットが本気を出して戦うことになれば、間違いなく王城は崩壊するだろう。

 レオルドも鍛錬を続けており、シャルロットから直々に魔法を学んでいる。相当な実力になっているのでシャルロット相手でも善戦するだろう。


 近接戦闘のみに持ち込む事が出来たなら、レオルドが勝てる。だが、シャルロットは転移魔法を習得しているので近接戦闘に持ち込むのは相当に厳しいが。


 さて、そんな事は置いといてレオルド、シルヴィア、シャルロットの三人は玉座の間に辿り着く。国の重鎮達が肩を並べており、三人を見詰めている。


「陛下。レオルド・ハーヴェスト子爵とシャルロット・グリンデ様をお連れしました」


「うむ。ご苦労」


 シルヴィアは一礼すると国王の横へ並び立つ。リヒトーと宰相とシルヴィアの三人が国王の左右に待機している。


 そして、国王が跪いているレオルドと自然体で佇んでいるシャルロットへと顔を向ける。


「貴方がかのシャルロット・グリンデで相違ないか?」


「ええ。間違いないわよ」


「そうか。お初にお目にかかる。私はアルガベイン王国六十四代国王のアルベリオン・アルガベインである」


「よろしくね〜」


「貴様っ! 陛下に対して――」


 両脇に待機していた貴族は突如膝から崩れ落ちてしまう。分かっているのはシャルロットが噛み付いてきた貴族に目を向けた事だけである。


「他に文句のある人は?」


『……』


「勘違いしないで欲しいのだけど、私はどこか一つの国に肩入れするつもりは一切ないわ。だから、たとえ王様だろうと私に文句があるなら覚悟して欲しいわ〜」


「なるほど。十分に理解した。以降、発言には気を付けよう」


「あ、それと、私を利用しようなんて考えない事ね。私はこの国じゃなくてレオルドの仲間であって味方では無いから〜。勿論、レオルドを通して私を利用しようものならその時は一切容赦しないわ。私だけでなく私の大好きなレオルドを利用するのだから、当然よね」


 シャルロットの発言に両脇にいた貴族達は騒然とする。先程、シャルロットが述べた言葉の意味が正しいのならばレオルドは強力無比の存在を手中に収めているのだから。


「陛下。少々、訂正を。シャルロットが私に好意を抱いているとお思いでしょうが違います。シャルロットは私が成した転移魔法を復活させた知識に興味が湧いているので、友愛、親愛、恋慕ではなく好奇心という認識でお願いします」


「そうか。つまり、お前の知識を欲してのことか」


「はい。その通りにございます」


「そう思っていいのだな?」


「まあ、その通りね。私が長年研究していた転移魔法を復活させたレオルドには興味が湧いたから、これからもしばらくは一緒にいるつもりよ」


「わかった。ならば、臣下達には私から言い聞かせておこう」


「ありがとね、王様〜。あっ、それとさっきから私に殺気をぶつけて来てるお兄さん、死にたいのなら相手してあげるわよ?」


 シャルロットが見つめる先にはリヒトーがいる。国王が振り返ると、そこには険しい顔をしているリヒトーが見えた。


「リヒトー。私を思う気持ちは分かるが、今は弁えろ」


「申し訳ありません。陛下、シャルロット様」


「いいのよ〜。王様に対して無礼な振る舞いをしてる私の方が悪いんだし〜」


「分かっているのならやめろ」


 自覚しているシャルロットに注意するレオルドだが、シャルロットは聞かない。


「嫌よ。だって、私はこの国に忠誠を誓ってるわけじゃないんだから」


「良い、レオルド。シャルロットよ。部下が失礼な事をしてしまったな。許してくれ」


「別に怒ってないからいいわよ。でも、次は気を付けてね」


 世界最強の魔法使いと王国最強の男。どちらが強いかと言えば世界最強の魔法使いシャルロットだろう。

 勿論、近接戦闘に持ち込む事が出来るのならリヒトーにも勝ち目はある。だが、転移魔法を習得したシャルロットの前には敵わないだろう。


「では、今回レオルドとシャルロットが開発してくれた魔法の袋について話そう」


 既にシルヴィアが国王へ報告済みであったので、謁見はスムーズに行われる。今回もまたレオルドの功績は非常に大きく、扱いに困ってしまったが、今後の事を考えれば都合が良かった。


 いずれは王家に取り込む予定なので爵位を上げることとした。

 レオルドは今回伯爵位へと昇進する事が決まったのだった。

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