第113話 ダイエット成功!
遂に、一年が経った。レオルドがゼアトに来てから二回目の春を迎えた。
冬は突貫工事でゼアトに水道を整えるだけで終わったが、春からはもっと人を雇って領地改革を進めるつもりだ。
そして、もう一つ重要なお知らせがある。
「うおおおおおおおっ! 遂に遂に俺は痩せたぞおおおおおおっ!!!」
レオルドは痩せた事に歓喜の咆哮を上げていた。一年と言う月日をかけてレオルドはダイエットに成功したのだ。
しかも、それだけではない。日々の激務に加えて行っていた鍛錬のおかげで戦闘に適した筋肉がついている。
見せる為の筋肉ではない。動くのに最適な筋肉だ。理想の体型になったレオルドは私室にある鏡を見て何度も己の身体を見直した。
「思えば一年……痩せるまで長かったな」
レオルドの言うとおりである。この一年ダイエットを継続してきた。それも、途中からは領主としての仕事をこなしながらだ。
常人であれば、ギルバート、バルバロトとの鍛錬で三ヶ月もあれば痩せるのは間違いない。にも拘らず、レオルドは痩せなかった。
異常としか言い様がない。だが、もうそんな事はどうでもいいのだ。レオルドは痩せたのだから、それで十分だった。
努力が報われた瞬間であった。
しかし、これで終わりという訳ではない。むしろ、ここからが本番と言っていいかもしれない。レオルドは真人の記憶通りなら、近い将来死ぬ事になるのだから。
それを防ぐ為にもレオルドは足を止めるわけにはいかないのだ。この先、多くの困難が待ち受けている事は間違いない。だから、固く誓ったのだ。
運命に抗ってみせると。
さて、朝から気分が良くなったレオルドは朝食を取る為に食堂へと向かった。いつの間にか背後に控えているイザベルを引き連れて。
「おはよう~。レオルド、先に頂いてるわ~」
「構わんが、髪型くらいセットしてきたらどうだ?」
「ええ~。面倒だもの。レオルド、やってくれないかしら?」
「俺は一応この屋敷の主なんだぞ。他の使用人にやらせておけ」
「なんだか、暴れたくなっちゃったな~」
「……イザベル。櫛をもってきてくれ」
「畏まりました、レオルド様」
櫛を受け取ったレオルドは朝食を取っているシャルロットの髪を梳かしていく。
「いたっ! いたたっ! レオルド! 貴方、わざとかしら!?」
「すまん、すまん。何分、女性の髪を梳かす事などしたことがないからな」
「むっ~。もういいわ。自分でやるから!」
「最初からそうしろ」
朝食を済ませたレオルドは、いつものように書類を片付けていたら、レオルドの屋敷に客が訪問してくる。
対応したギルバートは相手がとんでもない大物だった為、急な訪問でも丁寧に対応して応接室へと案内した。
そして、すぐにレオルドへと客が来たことを知らせる。
「坊ちゃま。お客様です」
「誰だ?」
「アルガベイン王国第四王女シルヴィア様にございます」
突然の客人にレオルドは困惑したが、相手がシルヴィアだと聞くと、仕事の手を止めてすぐに応接室へと向かった。
応接室にはシルヴィアがソファに腰掛けており、イザベルが淹れた紅茶を飲んでいる最中であった。
「御機嫌よう、レオルド様」
「お久しぶりでございます、殿下。本日はどのようなご用件でゼアトまで?」
「はい。実はこの度、レオルド様にお願いがあって参りました」
「お願いですか? なんでしょうか?」
「レオルド様が復活させた転移魔法なのですが、上手く運用が出来ないのです。そこで、もう一度レオルド様に転移魔法について詳しいお話を聞けたらと思いまして、王都まで同伴していただけないでしょうか?」
(う~ん……領地改革で忙しいんだけどな。でも、転移魔法が活用出来れば、王都から有能な人材を引っ張ってこれるか)
現在、ゼアトは領地改革を進めているが、まだ水道工事くらいしか出来ていない。他にも計画はしているのだが、やはり人手不足なので手が足りないのだ。
しかし、今回の話は渡りに船である。王都へと行き、転移魔法でゼアトと行き帰りが瞬時に出来るようになれば、人手不足も解消されるだろう。
そのように考えたレオルドは二つ返事で了承した。
「私でよければ力になりますよ」
「ありがとうございます。では、いつからなら移動は可能でしょうか?」
「すぐにでも構いませんよ。私も転移魔法の運用は重要ですから」
(イザベルから報告を聞いていましたが、領地改革が忙しいのでしょうね。ただ、帝国の作りにそっくりというのは……少々勘繰ってしまいますわね)
信じたくはないがイザベルの報告はこれまで嘘はなかった。ならば、イザベルの報告通りレオルドが行っているのは帝国と同じこと。
それは、つまり裏切りの可能性を示していた。
「でしたら、私は少々長旅で疲れていますので、三日ほど空けてからでよろしいでしょうか?」
確かめなければならない。レオルドが王国を裏切って帝国を招き入れる準備をしているのか。そうではないのかを。
「ええ。いいですよ。ただ、一つお伝えしなければならないことがあるのですが……」
「なんでしょうか?」
シルヴィアは気になる。やはり、隠しておきたい事があるのだろうかと疑っていると、レオルドが困ったように話した。
「実は一人、私の相談役がいるのですが……殿下にご無礼を働いてしまうかもしれません」
シルヴィアは首を傾げてしまう。レオルドがそこまで困ったように言うことは、レオルド自身も制御できない人物だということだ。一体どのような人物なのだろうかとシルヴィアは考える。
「そのような方がいるのですか?」
シルヴィアはレオルドに尋ねるようにイザベルへと視線を向けた。イザベルは肯定をするように首を縦に振った。
「まあ、会えば分かるかと……」
困ったように眉を下げるレオルドを見て、シルヴィアはその人物に興味を抱く。
(レオルド様がここまで困るなんて……敵であれば容赦はしませんわ!)
燃える乙女心。レオルドをこのように困らせていいのは自分だけだと思っているシルヴィアは、謎の人物に敵対心を募らせる。
シルヴィアとシャルロットが出会えば、どのような化学反応を起こす事になるのやら。
果たして、レオルドの胃は二人のぶつかり合いに耐えることが出来るのだろうか。
誰か早くレオルドに腕のいい医者を紹介してあげるべきだろう。
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