第114話 え? 殿下? いたっけ?
しばらく、会話を続けていたレオルドとシルヴィアだったが、レオルドはシルヴィアが滞在すると言う事なので宿を用意すると提案する。
「そう言えば、殿下はゼアトに滞在するという事でしたが宿は決まっているのでしょうか? もし決まっていないなら、私の方で用意致しますが」
「その事についてなのですが、この屋敷に泊まることは出来ないでしょうか?」
「えっ……」
婚約者でもない女性を、しかも王族のシルヴィアをレオルドは泊めることには反対であった。良からぬ噂を立てられても困るし、レオルドはどう断ろうかと思案する。
それに、ゼアトは防衛拠点と言う王国にとっても重要な町であり、帝国と隣接しているので交易と言うほどの交易は無いが、商人達が立ち寄る町なので宿泊施設は整っている。
だから、レオルドはゼアトでも一番の宿泊施設を提供しようと考えた。
「殿下。ゼアトにはこの屋敷よりも素晴らしい宿泊施設がありますので、そちらをご利用願いたいのですが」
「私がここにいると何か不都合があるのでしょうか?」
「いえ、そういう訳では無いのですが、婚約者でもない女性を、ましてや王族であられるシルヴィア殿下を屋敷に泊めるのは、少々問題があるかと……」
「問題ありませんわ、レオルド様」
ニッコリ微笑むシルヴィアにレオルドは顔が引き攣る。恐らく、これ以上何を言っても断る事は出来ないだろうとレオルドは諦めてしまう。
「……イザベル。殿下のお世話を頼むぞ」
「かしこまりました、レオルド様」
「まあ! 無理なお願いをお聞きくださり、ありがとうございます、レオルド様」
手を叩いて喜んでいるシルヴィアにレオルドは困惑してしまう。
(本当に喜んでいる……? 久しぶりにイザベルと話せるからか? なんにせよ、シャルにはキツく言っとかないとな~)
この後、シャルロットにシルヴィアの事を話しに行くのが億劫なレオルドだった。
レオルドはシルヴィアをイザベルに任せて、シャルロットがいる所へと向かう。ただ、自由人であるシャルロットは何処にいるか分からない。
いつもはレオルドに引っ付いているのだが、今日はいない日だ。偶にあるが、その場合はシャルロットに用意した部屋で自身の研究を進めていたりする。
なので、レオルドはシャルロットの部屋へと赴く。ノックをするのが常識なのだが、シャルロットは研究に没頭しているとノックしても気が付かない事があるので、レオルドはノックもなしにシャルロットの部屋へと入る。
「シャル、いるか?」
「あら、レオルド。どうしたの?」
「何をしている?」
シャルロットの部屋は何やらおぞましい物に溢れていた。何の骨かは分からないが頭蓋骨らしきものが転がっていたり、血で描かれたのか真っ赤な色の魔法陣が床に描かれている。
「悪魔召喚よ~!」
「やめんか! お前が召喚したら、どんなのが来るか想像するだけで恐ろしいわ!」
「もう~、ちょっとした冗談よ。今は転移魔法を応用してる所なの」
「む? そうなのか? それは気になるな。どういう事をしてるんだ?」
「ほら、古代遺跡から前に魔法の袋が見つかった事があるでしょ? 質量とか無視して何でも入れられる魔法の袋」
「ああ。確か、帝国の宝物庫に保管されてるやつだな」
「そう、それ。転移魔法って空間に作用するでしょ? だから、なんとか再現出来ないかなって」
「ふーむ。なるほど。確かに再現出来たら便利だな。それなら、俺も少し知恵を貸そう」
「本当? 助かるわ~。異世界の知識なら、上手くいくかもしれないわ~!」
先程、レオルドが述べたように帝国には存在している。ただし、一つしかない。
かつて、トレジャーハンターが古代遺跡から持ち帰った物だ。その効果は質量や物量を無視して生き物以外なら収納する事のできる。さらには、時間経過による劣化も無いため、食料や飲料水などの持ち運びも可能である。
しかも、水や服を入れても混ざる事は無いので濡れたりしない。
これだけの能力を帝国が見逃すわけがない。当時の皇帝は献上された魔法の袋を技術者に渡して、再現するように命令を下した。
しかし、解析はおろかどのような原理でそうなっているかを解明する事が出来なかったので魔法の袋はついぞ再現される事はなかった。
「へえ~。アニメ? そんなものがあるのね。それで、異空間? そう言うものには色々と説があるのね~」
「ああ。まあ、役に立つかは分からんが」
「そんな事ないわよ。意外な所から閃きは生まれるものよ」
「そういうものか」
「ええ。もっと詳しい話を聞かせて」
「いいだろう。俺としても魔法の袋が再現出来たなら嬉しい事だからな」
レオルドはシャルロットと魔法の袋の事に夢中になっていた。シルヴィアの事で注意をしようと来たのに、すっかり忘れていた。
異世界の知識にシャルロットは夢中になり、レオルドも話しているのが楽しくなって時間を忘れてしまう。
この後、どのような悲劇が待っていようかなどレオルドは知らなかった。
どんどん熱が入っていく二人は扉がノックされる音に気が付かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます