第110話 最強キャラってどう扱えば分からんよね!

 ギルバートが眠らされてる頃にレオルドは屋敷の異変を察知した。


「先程の揺れはなんだったのでしょうか?」


 文官たちは先程ギルバートが戦闘の際に床を蹴って起きた揺れを気にしていた。レオルドもその揺れが気になって探査魔法を発動させたら、尋常ではない魔力の塊が屋敷にあることを知った。

 そして、こちらに向かってきていることにも気がついた。


(まさか……世界の強制力が刺客でも送り込んできたのか?)


 考えるレオルドだが答えはわからない。とにかく、ここにいては危険だと判断して文官たちに避難するよう呼びかける。


「今すぐ逃げるぞ。恐らく侵入者だ」


「ええっ!? どうしてここに!?」


「わからんが、俺に恨みを持っている奴は沢山いるからな。それよりも早く逃げるぞ」


 文官たちは冷静なレオルドを見て落ち着きを取り戻し、最低限の荷物を持って部屋を出て行く。しかし、そこへ侵入者である女性が立ちはだかる。


「あら~、手間が省けたわ。貴方達の誰かがレオルド・ハーヴェストなのかしら?」


 レオルドは有り得ないものを見たかのように震える。そこにいたのは、ゲームであれば出会うことのない存在。


 真紅の長髪に金色の瞳。穢れを知らない美しい肌に数多の男を魅了する麗しい顔立ち。そして、絵に描いたような大きなとんがり帽子を被っており、男の目線を釘付けするかのように肢体を見せ付けるマーメイドドレスを着た女性。


 その名はシャルロット・グリンデ。


 世界最強の魔法使いである。


「馬鹿な……どうしてお前がここにいる!」


「私を知っているの? あっ! 貴方がレオルドね!」


 訳も分からずどうするべきかと迷っている文官たちをシャルロットは魔法で眠らせる。

 そして、一番動揺していたレオルドだけを残す。レオルドは逃げる事は出来ないと観念して、大きな溜息を一つしてからシャルロットと対面する事になる。


 レオルドはシャルロットを連れて、応接室へと向かう。シャルロットがソファに腰掛けてレオルドは対面に座り、問い質す事にした。


「さっきも言ったがどうしてここにお前がいる?」


「その質問の前に教えて欲しいのだけど、どうして貴方は私を知っているの?」


「世界最強の魔法使いであるお前は有名だからだ。知らないほうがおかしいだろう」


「名前は知っていても顔までは知らないはずよ。現にこの屋敷で私のことを知っているのは貴方だけよ?」


 盛大に自爆したレオルド。これは誤魔化さないと何を言われるかは分からない。


「一度、お前を見た事があるんだ。ただ、それだけだろう」


「え? 私、ここ数十年以上は引き篭もっていたのに?」


 最早、何を言っても墓穴を掘るだけであった。

 ダラダラと嫌な汗を流すレオルドはシャルロットから顔を背けている。


「……」


「ねえ、貴方何を知ってるの? 私は長年研究してきた転移魔法を復活させた貴方に興味が湧いて会いに来たのだけど、もっと知りたくなったわ」


 選択肢を間違えたレオルドはもう逃げる事は出来ない。相手は世界最強の魔法使いであり、何者にも縛られないのだ。


 レオルドは酷く後悔した。対策を怠っていたばかりにシャルロットに目を付けられることになろうとは。


 本来、ゲームであったならシャルロットとは復活させた転移魔法陣の場所でしか会わないのだ。転移魔法を復活させると、『魔道の深淵に座す者』という仰々しい名前のイベントが発生して転移魔法陣のある場所へ行くとシャルロットが待ち構えている。


 その時にシャルロットは自分が転移魔法について研究していた事を話してきて、色々と質問してくるだけ。ただし、返答次第では戦闘になる場合がある。


 だから、レオルドは忘れていたのだ。シャルロットが会いに来るはずなど無いと。


 ゲームであったなら確かに会うことは無かっただろう。だが、しかしここは現実である。

 ただのイベントキャラであるシャルロットも意思を持ち動いているのだ。


(あ~、くそ! 油断してた……俺のミスだな)


 怠惰な自分の罪が降りかかって来ただけ。レオルドはがっくりと頭を垂れる。


「教えなきゃダメか?」


「別にいいけど、洗脳でもして無理矢理吐かせるわよ」


 運命48の世界にはいくつかの失われた魔法が存在している。転移魔法もその一つである。そして、今シャルロットが述べた洗脳も魔法の一つだ。


 洗脳魔法、正確に言うと精神干渉の魔法だ。他にも魅了や混乱に恐怖といったものを操る事ができる。

 ちなみにシャルロットが屋敷の人間に使ったのは睡眠の魔法だ。闇属性であり、相手を睡眠状態にさせる事ができる。


「はあ~……」


 恐らく全てを話さなければシャルロットは満足しないだろう。果たして言うべきか、言わないべきか。

 迷いに迷ったレオルドは遂に誰にも明かしていない秘密を話す事を決めた。


「シャルロット。今から言う事は俺の妄想じゃなくて全て本当の事だ」


 レオルドは全てを打ち明けた。この世界は真人が遊んだゲームと瓜二つであることを。

 そして、自分がいずれ死ぬ事を。


「……俄かには信じられないわ。だから、貴方が言っている事が本当だという事を証明して欲しいの」


「具体的に何をすればいい?」


「教えて、私が最も欲しているものを」


「……星屑ほしくずの欠片か?」


「……ふふっ、うふふふ! あははははは! 正解よ、大正解! 花丸あげちゃう!」


 レオルドが口にした星屑の欠片とは隕石のことである。シャルロットが何故、星屑の欠片を求めているのかと言うと、杖を作る為である。

 魔法使いは基本杖を必要とするもの。レオルドは使っていないが、杖を使えば威力が向上したり、消費魔力が減ったりするのだ。


 その為、シャルロットは自分の杖を作ろうとしたのだが満足する杖が出来なかった。なので、この星にはない物質で杖を作ろうかと考えた。そこで、出てくるのが星屑の欠片という名の隕石であった。


 それを使えば、自分に相応しい杖が出来るのではと推測しているのだ。


「一つ聞きたいのだけど、手に入るかしら?」


「ああ。ただ、偽物だがな」


「そう……なら、別の手を考えなきゃね」


 あっさりと諦めるシャルロットはどうしようかと考えたが、目の前に面白い人物がいることを思い出して笑う。


「決めたわ! レオルド、私貴方と一緒にいるわ!」


「……へ?」


「だって、貴方といると面白そうだもの!」


 こうして、レオルドは幸か不幸か秘密を共有した世界最強の魔法使いを仲間にするのであった。

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