第109話 知らないイベントが進行してる!
「帰ってきた……!」
レオルドは王都での行事を全て終えてゼアトへと帰ってきた。前回と違い、帰る際に
なぜならば、転移魔法が普及すればいつでもレオルドに会えることが可能であるから。
それにしても、随分と長いようで短い滞在期間だったが遂にゼアトへと帰ってきたのだ。しかも、子爵になりゼアトを貰った。
そう、レオルドはゼアトの全てを手に入れたのだ。父親ではなく今後は国王に税収を報告する事になるが、そんな事はどうでもいい。
(ふっふっふ! 領地改革だぁーっ!)
ずっと考えていた。レオルドはどれだけ真人の記憶にある現代日本を羨んだ事か。魔法がなくても魔法のような科学が存在する世界。
便利な機械が世界には溢れており、この世界と比べたらどれだけ素晴らしい事か。
しかし、今その知識がレオルドにはある。これを使わない手はない。それに死にたくないと最初に誓ったのだ。ならば、守りは必要だろう。
隣国でもある帝国にも負けない魔法と科学の融合をここに見せてやろう。レオルドは胸の高鳴りが収まらない。
これから始めるのだ。内政チートを。領地改革チートを。
「さて、まずは計画書の作成だな」
早速、レオルドは領地改革に向けて計画書を作成する。入念な準備は当然である。ここは異世界であり、中世ヨーロッパ風な世界なのだ。何があるかは分からない。
計画書を纏め上げてレオルドは仕事場へと向かう。そこでは既に文官たちが、
レオルドがいない間、ずっと頑張っていたのだ。レオルドは労いの言葉を掛けてから、計画書を取り出した。
「皆、ご苦労。一先ず、手を休めて聞いて欲しい。この度、俺は子爵位を賜りゼアトを領地として受け取った。そこで、俺は領地改革を始めようと思う! これが、その計画書だ。まずはこれを見て欲しい」
文官たちは集まり、レオルドから渡された計画書を読み進める。段々と険しい顔になっていき、顔を顰めながらレオルドに計画書を返した。
「お言葉ですがレオルド様。些か、無理があると思うのですが……」
レオルドが最初に手掛けようとしていたのは、水道の設置であった。
ゼアトには水源となる川は存在しているが、水道が作れるかは微妙なものであった。
「問題ない。俺が魔法で水路を作る」
「仕事はどうするのですか?」
「書類仕事はお前達に任せる。俺の判断が必要な場合は対応しよう」
「なるほど。ですが、人材に資金はどうするのです?」
「人材については募集する。資金については陛下から頂いた報酬で賄おう」
「わかりました。私達もゼアトが良くなることには賛成ですので、この計画書はもう少し突き詰めていきましょう」
賛同を得たレオルドは文官たちと相談しながら、領地改革計画を進めていった。
翌日、完成した計画書を手にレオルドはギルバート、バルバロト、イザベルなどの近しい人物を呼び寄せて会議を行う。
領地改革計画は大まかに言えば真人の記憶にある現代日本の再現である。不可能と思えるがレオルドは魔法を組み合わせれば可能だと信じている。
それに帝国という魔法と科学を融合させた国があるのだから、決して不可能ではないのだ。
「これは本気ですか?」
「ああ、そうだ。イザベル、不可能だと思っているだろうが必ず成功する。俺を信じろ」
「……そうですね。レオルド様は転移魔法を復活させた御方です。きっと、この計画も上手くいくでしょう」
実際、イザベルも確信に近い事があった。ただ、この計画の内容があまりにも帝国に酷似しているのが気になっていた。
「よし、なら作業を開始するぞ。時間が惜しいからな!」
人一倍やる気を見せるレオルドに部下達は頼もしく思った。もしも、レオルドの計画が上手く進めばゼアトは、きっと国で一番、いや、世界でも一番の都市になるかもしれない。
しかし、レオルドは忘れていた。この世界は現実だという事を。
翌日、レオルドの前に絶望が姿を見せた。
いつものようにレオルドは朝を迎えて、仕事部屋で文官たちと書類仕事を片付けていた。
その時、一人の女性がレオルドの住むゼアトの屋敷へと訪れる。
「はい。どちらさまでしょうか?」
「う~ん、そうね~。お友達ってわけじゃないから、なんて言えばいいのかしら?」
屋敷に訪ねてきた女性が怪しいと見た門番の騎士は剣に手をかける。
「お引取り願えますか」
「ごめんなさい。それは無理」
「淑女に手荒な真似はしたくありません。お引取りください」
「そうよね。そうなるわよね。少し、眠って」
「な……にぃ……」
目の前の怪しい女性を取り押さえようとした門番は突如眠りに着いた。
物音に気がついた警備の騎士が駆けつけるが、女性の前に成す術はない。次々と倒れていく騎士達だったが、誰一人死んではいない。これは女性による魔法の効果だ。
女性は堂々と正面に入り口から屋敷へと侵入する。異変に気がついたバルバロトが駆けつけるが、敵うことなく眠りに就いた。
バルバロトが倒れるのを見ていたイザベルは女性が只者ではないと判断して、レオルドの元へ報告に向かおうとしたが、突然目の前に女性が現れる。
「っ! 何者ですか!」
「貴方に用はないの。じゃあね」
女性から距離を取り、何者かと問い掛けたイザベルも女性の魔法により眠らされてしまう。
バルバロトもイザベルも屋敷の中では極めて高い戦闘力を有していたが、女性の前に抗う事も出来ずに倒れてしまった。
女性はレオルドがいる部屋へと向かおうとした瞬間、パリンッという音が聞えて振り向いた。
そこには、驚愕に目を見開いているギルバートが拳を突き出していた。
「あら? もしかして、私の障壁を砕いたのかしら? だとしたら、凄いわ。一層でも砕くなんて中々出来る事じゃないわよ」
「……化け物め」
「まあ、酷い! レディに向かって化け物だなんて失礼しちゃうわ!」
怒っているのか頬を膨らませる女性だが、ギルバートは冷や汗が止まらない。先程、ギルバートが放ったのは間違いなく相手を絶命させる威力の拳だった。
それが呆気なく障壁に防がれてしまい、千載一隅のチャンスを逃したのだ。
「何が目的だ……」
「目的? そうね。レオルド・ハーヴェストに会いにきたって言えば通してくれるのかしら?」
「そのような世迷言を誰が信じるものかっ!」
敵は未知であり、脅威の存在。ギルバートは出し惜しむことなく全力で床を蹴り、女性へと迫り蹴りを放つ。
しかし、パリンッと先程と同じような音だけが鳴り渡り、ギルバートの蹴りは女性に届く事はなかった。
「凄いわ~。私の障壁を二度も破壊するなんて。でも、残念。眠ってちょうだい」
女性の魔法によりギルバートも呆気なく意識を失う。
(坊ちゃま……お逃げ……)
バタリとギルバートが眠りについたのを見て、女性は先へと進む。
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