第108話 サディスティックに恋愛相談て厳しいわよ

 さて、ハプニングが続いていたパーティだったが、ようやく終わりを告げる。

 参加者もそれぞれ帰路へと着き、会場は無人となっていく。


「それでは、殿下。また、いずれ」


「寂しいですわ。ずっと、時が止まれば良かったのに」


(騙されるな、オレェッ! 演技だ、演技に決まっている!)


 本当に寂しそうな顔を見せるシルヴィアに心が揺れていた。しかし、あの顔は演技なのだと自分に言い聞かせて自我を保つ。


「ははっ。転移魔法が普及するようになれば、またすぐにでも会えるでしょう」


「そうですわね! うふふ、今から待ち遠しいですわね、レオルド様!」


 屈託のない笑みを浮かべるシルヴィアにレオルドは吐血してしまいそうだった。


(本当に演技なのか!? なんだかサディストだからって避けているのが申し訳なくなってきたんだが!)


 悩み始めるレオルドだったが、最後にもう一度挨拶をして別れる。


 レオルドは家族と共に屋敷へと戻り、シルヴィアは相談の為に国王の下へと向かった。


「お父様、相談があるのですが、今お時間よろしいでしょうか?」


「ああ、大丈夫だ。それに私もお前とは話したい事があったからな」


 向かい合ってソファに腰掛ける二人。そこへ国王が呼び鈴を鳴らして使用人を呼ぶ。お茶の用意を頼んでから、話は始まる。


「まずは聞こう。相談とはどういうものだ?」


「はい。先日、断られたレオルド様との縁談をもう一度お願いしたいのです」


「ふむ。そのことか。実は私もそれに関することでお前と話がしたかったんだ」


 シルヴィアの方から持ち掛けられるとは思っていなかったが、こういうことならば切り出しやすいと国王はレオルドが断った理由を話す。


「レオルドが縁談を断った理由なのだが、シルヴィア。お前の嗜虐性が嫌なんだそうだ」


「っ……そういうことでしたか。レオルド様が私を避けていることには気がついていましたが、そちらの方でしたか……」


「ん? 気がついていたのか?」


「はい。レオルド様は私を避ける傾向がありましたので、最初は第四王女という私の立場を気にしていたのではと思っていたのですが……」


「そうか。恐らくではあるが、その嗜虐性を直さない限りはレオルドとの結婚は難しいように思える。私としてもレオルドは手放したくない臣下だ。だから、お前でなくともいいと考えている」


 国王の言うとおりレオルドは国から見て、絶対に失ってはならない人材だ。転移魔法を復活させたと言う偉業は世界的に見ても大きいものだ。

 そして、レオルドは謎が多い人物になっている。シルヴィアが送り込んだ諜報員イザベルの調べでもレオルドはまだ何かを隠し持っているということだ。


 つまり、レオルドは転移魔法の復活以外にも国どころか世界を動かす何かを秘めているかもしれない。

 可能性の段階に過ぎないが、転移魔法を復活させた前例が出来たので国王は他国に取られてはならないと危惧している。


 しかし、今回レオルドには爵位を与えて領地まで与えた。他国へ逃げる事はないと思いたいが、まだ弱いと考えている。


 隣国の帝国ならばもっとレオルドの心を動かすようなものを用意するかもしれない。そう考えるだけで恐ろしい。レオルドが他国へと亡命すれば、何が起きるかは分からない。


 だったら、縛り付けるしかない。愛娘を道具のように扱って恨まれることになっても、レオルドだけは手放すわけにはいかないと国王は考えているのだ。


「それは嫌です」


「なに?」


「私はレオルド様を諦めるつもりはありません。お願いです、お父様。どうか、私にもう一度チャンスをください」


「……まさか、本気で惚れたのか?」


 カアッと顔を赤く染めて真っ赤になるシルヴィアは恥ずかしさに俯いてしまう。改めて言われるととても恥ずかしいのだ。


「最初は確かにレオルド様の反応が面白くてからかっていましたわ。でも、今はその……愛くるしいというか、好きというか……」


 モジモジと心情を吐いているシルヴィアに国王は天井を仰ぐ。


(はあ~。困った事になってしまった。まさか、本気で惚れ込んでしまうとは……国の為に娘の為にレオルドには頭を下げよう)


 国王はレオルドとの約束を破る事にした。許してもらえるかどうかは分からない。なにせ、レオルドは恩を仇で返されるようなものだから。


「分かった。ただし、今回だけだ。お前がダメだと分かったなら私は他の娘を彼に宛がうからな」


「は、はい! ありがとうございます、お父様!」


 許しを得たシルヴィアは国王と別れて、王妃である母親ミリアリアの元へと向かう。シルヴィアは母親に助言を貰おうとしている。


「お母様っ!」


「シルヴィア? どうしたの、そんなに慌てて」


「実はお母様にご相談がありますの」


「なにかしら? 貴方が私になんて珍しいわね」


「これはお父様には出来ない相談ですから」


「ふふっ。それじゃあ聞かせて貰おうかしら」


「殿方を堕とすにはどうすればよろしいでしょうか?」


「あら! あらあら、まあまあ!! シルヴィア、貴方好きな男の子が出来たの?」


「それは……その……はい」


「まあまあ! なんて素敵な日かしら! 聞かせて、貴方が好きになった人のことを」


「その……先日振られてしまいましたレオルド様です」


 ピシリと王妃は固まる。シルヴィアの口から飛び出したのは、王族からの縁談を断ったレオルドだからだ。


 そして、旦那である国王から断られた理由を聞いている。シルヴィアの嗜虐性を見抜いてのことだと。


「えっと……」


 どうやってアドバイスをすれば良いのだろうかと迷っている王妃にシルヴィアは、王妃が断られた理由を知っているのだと確信する。


「お母様。大丈夫ですわ。私もお父様からレオルド様がお断りした理由を聞いていますの。だからこそ、私は……その……レオルド様を虐めたいと言う気持ちを抑えながら、どのようにアピールすればいいのかお母様に教えて欲しいのです!」


 答え難いことを言わないでほしい。王妃も困ってしまう。どのような事を言えば正しいのか。しかし、娘がこんなにも懇願しているのだから答えてあげたい。だから、王妃は考えに考えてアドバイスをシルヴィアへ送る。


「シルヴィア。彼は貴方の事を嫌ってはいないはずよ。本当に嫌っているなら遠ざけるでしょう? でも、彼は今日貴方とずっと一緒にいた。それはつまり嫌っていない証拠よ。 だから、見極めなさい。どこまでなら嫌われないのか、どうすれば振り向いてくれるのか。それは、貴方自身で見つけることよ」


「見極める……レオルド様が喜ぶ事や嫌がることをですね!」


「ええ、そう。大丈夫。貴方ならきっと出来るわ」


 母親の助言に活路を見出したのか喜ぶシルヴィアを見て、母親ミリアリアはレオルドを心配する。


(ごめんなさい、レオルド。貴方には迷惑をかけてしまうでしょうね)


 分かっていても愛娘の願いを無下にする事など出来なかった。運命48ではサブヒロインであったシルヴィアだが、レオルドのメインヒロインになることは出来るのだろうか。


 果たして、シルヴィアの恋は実るのか。そして、レオルドの運命やいかに。

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