第107話 悪いのは全部アイツのせいだ!
ポンコツと化したシルヴィアを連れてレオルドは会場を出ようと歩いていた。しかし、やはり主役であるので一々呼び止められてしまう。
何故かシルヴィアも使いものにならないので、レオルドは一人で対応している。もはや、シルヴィアはレオルドに引っ付いているマスコットになっていた。
「殿下、調子が良くないのであれば一度会場から出た方がよろしいのでは?」
「えっ、あっ、そ、そうですわね! でも、大丈夫ですわ!」
明らかに良くないように見えるが本人が大丈夫と言っているのでレオルドもそれ以上問い詰めることはしなかった。
「そうですか。ですが、これは無理だと判断したら直ぐにお知らせ下さいね」
「はうっ……!」
気遣ってくれるレオルドにシルヴィアは胸を締め付けられる。優しいレオルドにシルヴィアはキュンキュンだ。
とは言ってもレオルドとしては臣下として殿下の身を案じるのは当然なのだが、シルヴィアはそこまで考えが至らないでいる。
突然、胸を抑えるシルヴィアを見てレオルドはやはり只事ではないと真剣な表情でシルヴィアへ問い詰める。
「シルヴィア殿下!? やはり、お身体が!」
「だ、大丈夫ですわ……お気になさらず……」
「しかし……」
「大丈夫、大丈夫ですから……」
「分かりました。そこまで言うのなら」
食い下がっていたレオルドだが何度も大丈夫だと連呼するシルヴィアを見て引き下がる。
(いけません……一度意識してからは動悸が収まりませんわ……)
今も心臓がうるさいシルヴィアはまともにレオルドの方を見ることが出来ない。これまで多くの男性から縁談を持ち掛けられ、あしらって来たシルヴィアだがここまで男性に心を掻き乱されたのは初めてのことであった。
だから、どのようにこの気持ちを鎮めればいいのか分からないのだ。
(どうしたんだろう? さっきから胸を抑えてるけど……胸焼けでもしたのかな?)
こちらはこちらで鈍感であった。恐らくシルヴィアがどうして胸を抑えているかなど予想も付いていない。
何かの病気かとしか考えていない。別にレオルドは本当に鈍感なわけではない。悲しい事にレオルドはシルヴィアの事をサディストだと思っているから、自分に心揺さぶられているという事が思いつかないだけだ。
シルヴィアの容態が悪いと思っているレオルドは非常に困っていた。早く会場を出てシルヴィアを静かな場所へと連れて行こうとしているが、参加者がそれを許さない。
勿論、意地悪をしているわけではない。レオルドと少しでも仲良くしておこうと必死になっているだけだ。
レオルドもその事が分かっているから、無視する事が出来ない。どうしたものかとレオルドが困っている所に追い撃ちのように、レオルドが出会いたくない人物が立ちはだかる。
運命48のメインヒロインの一人であり、レオルドと同じく公爵家のエリナ・ヴァンシュタインがレオルドの前に立ち塞がった。
「ぶ――レオルド。貴方、先程から体調の悪そうな殿下を連れ回してどういうつもり?」
(こいつ、さっき豚って言おうとしなかったか?)
完全に誤解している。シルヴィアは確かに体調が悪そうに見えるが、決してそんな事はない。ただ、レオルドに見惚れて胸が高鳴っているだけだ。
しかし、そんな事など知らないエリナからすれば、苦しそうに胸を抑えているようにしか見えない。
「だから、今会場から連れ出そうとしているところだ」
「調子のいい事ばかり言って! そうやって本当は殿下を人気のないところまで連れて行って何かする気でしょう!」
「何を言っている、お前は……馬鹿馬鹿しい。お前の戯言に付き合っていられるか」
妄想が逞しいエリナにレオルドは呆れて、その場を去ろうとするが腕を掴まれる。
「逃がさないわよ! 殿下、こちらへ。私が医者の下までお供いたしますわ」
エリナはレオルドから助けるという名目でシルヴィアに手を差し伸べるが、それはやってはいけなかった。
「黙りなさい……」
パンッとシルヴィアはエリナが伸ばした手を打ち払った。
「え……?」
どうして助けようとしているのに、手を打ち払われたのか分からないエリナは呆然とする。
「エリナ。貴方がここまで愚かな人だとは思いませんでしたわ」
「で、殿下? どういう意味でしょうか?」
声量こそ小さいが明らかに怒っているシルヴィアにエリナは震える声で問いかける。
「まだ、貴方は自分の愚かさを理解していないのかしら? エリナ。今日は今ここにいるレオルド様の為に開かれた催しという事は存じていますわね?」
「そ、それは勿論です……」
「でしたら、何故貴方はレオルド様にそのような態度を取るのですか?」
「私は殿下の身を案じて――」
「烏滸がましいことを言わないで下さる? 貴方の言葉の端々からレオルド様への侮辱が感じられましたわ。私の為と言いながらレオルド様を責める格好の機会だとでも思っていますの?」
「だ、断じてそのようなことは――」
「今更、取り繕うのはやめなさい。貴方には失望しました。王国に多大な恩恵をもたらしたレオルド様を侮辱するとは……。あまつさえ、このような公の場でとは思いもしませんでしたわ。私の権限を持って貴方を罰してもいいのだけれど、ここはレオルド様にお譲りしますわ」
(元気一杯じゃないか、殿下は! てか、ここで俺にパスするっ!? いや、まあムカついたけど、原作でもエリナが俺のことを嫌ってるの知ってるし……。ただ、時と場所は選んだほうがいいとは思ったけど、どうするかな~)
今も頭を下げて震えているエリナを見下ろしながらレオルドは考える。あまり無茶な事をすれば今以上に恨まれるのは分かりきっている事だ。
だから、レオルドは穏便に済ませようと決めた。
「ああ~、エリナ。お前が俺のことを嫌っているのは知っている。だから、突っかかってくるのは構わない。だけど、時と場所は選んでくれ。流石に俺も庇いきれなくなる」
「お優しいのですね、レオルド様は」
「いえ、殿下が私の代わりに叱ってくださいましたから」
「当然の事ですわ!」
えっへんと可愛らしく胸を張るシルヴィアにレオルドは感謝する。サディストな部分もあるが、自分の為に怒ってくれる優しい子なのだと改める。
(どうして……私が! レオルドは確かに偉業を成したわ。だからと言って今までの罪が許されるなんておかしいじゃない! 今更、善人になれるはずがないわ! 見ていなさい。必ず、貴方の本性を暴いてみせるんだから!)
レオルドに許されたのでエリナは二人の前から姿を消していた。そして、憎悪を燃やしながらレオルドを遠くから睨み付けるのであった。
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