第105話 過去からは逃れられない
どんどん押し寄せてくる貴族にレオルドは頑張って対応していた。
そして、人の波がやっと途切れて、休憩できると喜んでいた束の間、レオルドにとっては会いたくない人達と相対する。
「ヴァネッサ伯爵……っ! ご無沙汰しております」
レオルドの前にいるのはヴァネッサ伯爵夫妻。二人はレオルドの
そして、レオルドにとっては義理の親になっていたかもしれない相手だ。
思わずレオルドは怖気付いてしまったが、すぐに取り繕い挨拶をした。
しかし、ヴァネッサ伯爵からの返答はない。やはり、クラリスにした事を今も怒っているのだろうとレオルドは目を閉じる。
まだ、真人の記憶が宿る前にレオルドはクラリスに対して酷い事を沢山してきた。爵位が上であり、クラリスが大人しい性格をしていたからレオルドは余計に凶暴となった。
さらには学園という親の目が届き難い場所も相まってレオルドは酷くなる一方であった。
そして、無理矢理クラリスに肉体関係を迫って、断られた腹いせに仲間と共に襲った。
しかし、その途中に主人公であるジークフリートによって阻止されてしまった。邪魔をされた事に腹を立ててレオルドはジークフリートと決闘を行い、敗北して今に至る。
レオルドは変わったが過去の罪が消えたわけではない。
今、レオルドの前には過去の罪が姿を現したのだ。
「久しいな、レオルド君。君に会うのはいつぶりだろうか」
「一年以上かと……」
過去のレオルドはクラリスの実家に顔を出すのを面倒くさがっていた。そのせいで、ヴァネッサ伯爵と対面するのは凡そ一年ぶりであった。
気まずい空気が流れており、周囲の者達もレオルドとヴァネッサ伯爵にある確執があることを知っており、近寄れないでいた。
「今日は目出たい日だ。だから君への恨み辛みは忘れよう」
「……その節は誠に――」
「謝るな。謝ってもらった所で君を許しはしないし、娘の傷が消えることはない」
「……はい」
「一つだけ言わせて欲しい――どうしてもっと早くに変われなかったのかと……それだけだ」
「ッッッ……」
その問いにレオルドは答えることは出来ないし、どうすることも出来ない。今のレオルドは真人の記憶が宿ったおかげであるのだから、過去を悔いても変える事は出来はしないのだ。
無責任な事を言うようだが、運が悪かったとしか言えない。
(改めて言われるとキッツイな~)
過ぎ去っていくヴァネッサ伯爵の背中を見つめながらレオルドは酷く惨めになる。
流石に今の状況でレオルドに話しかけるような人間はいなかった。
だが、いつまでも凹んではいられない。レオルドは気を持ち直して、顔を上げた。丁度、そのタイミングで国王が入場する。
レオルドも挨拶へと行き、少しだけ話をする。
「楽しんでいるか、レオルド?」
「はい。勿論です。私の為にこのような催し開いてくださり、本当にありがとうございます」
「なに、気にするな。この程度どうということはない。むしろ、お前が成した事は国を挙げて祝ってもいいくらいなんだぞ」
「それは流石に遠慮します。私は十分満足していますので」
「そうか。私としてはやってもよかったのだがな」
その後、国王と別れてレオルドは会場の隅に移動しようとしたら捕まってしまう。
「あら、どちらへ行かれるのですか?」
「少々、お手洗いにでも行こうかと」
「出入り口とは反対方向に向かっていましたのに?」
(ちっ、良く見てやがる)
内心で舌打ちをするレオルドは誤魔化すように微笑んだ。
「酔ってしまったかもしれませんね」
「でしたら、私がお支えしますわ」
レオルドが逃げる事を見抜いているのかシルヴィアはがっしりとレオルドの腕を掴んだ。
傍から見れば恋人のように腕を組む二人。主役であるレオルドに第四王女として有名なシルヴィアだ。当然、注目の的である。
それに加えて、前回は二人が見せたダンスが目に焼き付いていたままである。
多くの者が勘違いをする。二人は恐らく相思相愛なのだと。
あながち間違ってはいない。シルヴィアはレオルドのことを考えてるし、レオルドもシルヴィアと関われば彼女のことばかりが頭に浮かぶ。
ただ、愛がないだけだ。
「殿下。婚約者でもないのに腕を組むのはどうかと思うのですが?」
「いいではありませんか。私とレオルド様の仲を見せ付けるいい機会ですわ」
(こ、この野郎! 可愛いからって調子に乗るんじゃねえぞ……!)
陥落寸前である。中身がどうのこうの言っているがレオルドはシルヴィアの魅力には抵抗出来ないでいた。
(うふふふ。逃がしませんわよ、レ・オ・ル・ド様)
男と女の熾烈な駆け引きが始まろうとしていた。
「おっと、忘れていました。殿下、私はまだ挨拶をされていない方がいますので」
「私もご一緒しますわ。まだレオルド様は酔いが醒めていないご様子ですから」
腕を握る力が強くなる。レオルドはこの細い腕のどこにこのような力を秘めているのかと驚いている。
シルヴィアは決して離すまいと力を込めている。恐らく、人生で一番力を込めている。
「殿下と少しお話をしていたら酔いが醒めましたので結構ですよ」
「ああっ、ごめんなさい。私、少し気分が……」
フラつくシルヴィアはレオルドにしなだれる。完全に演技であるがレオルド以外には分からないものだった。
(くっ、可愛い……っ!)
分かっていても抗えない魅力にレオルドもたじたじである。いっそのこと受け入れてしまった方がいいのかもしれない。
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