第104話 あの時のこと忘れてねえからな?
式典の為にレオルドは着替えて、家族と合流する。相変わらず冷たい視線を送ってくる双子の弟と妹。だが、母親から二人の事を聞かされているので今までのような不快感は一切ない。
(いつか、また慕ってもらえるように頑張るから、見ていてくれ)
二人と必ず仲直りすると決めたのだから、二人を責める事などしない。過去の自分が壊してしまった兄弟仲をレオルドはまた築き上げる為に頑張るのだ。
ハーヴェスト一家は式典の会場へと向かう。
会場には既に多くの参加者が集まっていた。そして、レオルドが会場に入場すると、予想していた通りレオルドの元に多くの人間が集まる。
煩わしいが無視をするわけにもいかないのでレオルドは作り笑いを顔に貼り付けながら、一人一人に挨拶を返していく。
ようやく、挨拶が終わったかと思えば今度は娘アピールが始まった。
「レオルド殿。貴殿は婚約者がいないと聞きました。どうですかな、うちの娘などは」
先程からずっとこれだ。いい加減に鬱陶しくなってきたレオルドは作り笑いが徐々に崩れ始めそうになっていた。ヒクヒクと頬が引き攣り、いつ怒っても不思議ではない。
しかし、相手は気付かない。どんどんレオルドへ自分の娘を宛がおうと人が群がるのだ。いくらなんでもこれは無理だ。
この人数を相手にずっとは作り笑いをしていられない。レオルドは耐え切れずに、適当な言い訳をしてその場から逃げる。
「はあ~……疲れた。ったく、綺麗に手の平を返しやがって。お前らが散々馬鹿にしてきたくせに。まあ、当然か」
一先ずレオルドは休息を取る。給仕係から飲み物を受け取り、喉を潤してから食事を受け皿に取っていく。
すると、その最中に以前レオルドのことを馬鹿にしていた貴族を発見する。向こうはレオルドに気がついていない。今が復讐する絶好の機会だとレオルドは自然と笑ってしまう。
「これはこれは、お久しぶりです。貴方も参加していたのですね」
以前レオルドを馬鹿にしていた貴族に声を掛けるレオルドは満面の笑みを浮かべている。
対してレオルドを馬鹿にしていた貴族は、声を掛けられて振り向いた瞬間、レオルドだと分かると面白いくらい顔を真っ青に染めた。
「おやおや? 顔色が悪いようですがお体でも優れないので?」
「い、いえ、こ、これはですね……」
あからさまに動揺している貴族にレオルドは笑いが止まらない。
しかし、同時にこの程度の人間に好き勝手に言われていたのかと思うと、レオルドは酷く虚しくなった。
「もしや、金色の豚が目の前にいるのが原因ですかな?」
「そ、そのような事は決してございません! レオルド様に至っては大変素晴らしい御方だと思っております」
「本当にそう思っています?」
「は、はい!」
「そうですか、そうですか……言っておくぞ。お前が以前俺のことを馬鹿にしていた事は知っている。だから、覚えておけ。次はこの程度では済まさん」
怯えている貴族の耳元にレオルドは顔を近づけて小さな声で脅した。それを聞いた貴族は真っ青だった顔から真っ白に染まり、壊れた人形のように首を縦に振っていた。
「さっさと消えろ。俺の前に現れるな」
レオルドを馬鹿にした貴族はドタバタと慌てるように会場を出て行った。
スカッとしたレオルドは満足したように息を吐いた。
(ふう。スッキリした。あと、何人かいるけどさっきのやり取りを見てた奴は勝手に消えたな。まあ、これくらいで十分か)
小さな復讐は終わった。胸の内に溜まっていたモヤモヤもなくなったレオルドは、これで気持ちよくご飯が食べられると受け皿にたっぷりと料理を乗せて楽しんだ。
しかし、そこへ見知らぬ女性陣が近付いて来る。レオルドは目を向けると、容姿端麗なレオルドと同年代に見える女性達がいた。
何事かと思ったが、レオルドは先程の事を思い出す。恐らく、彼女達は親の指示でレオルドに近付いたのだろう。
「お初にお目にかかります。私は――」
連続する自己紹介にレオルドは処理が追いつかない。そもそも、自己紹介などされても困るのだ。大方、親から媚を売るように言い付かっているのだろうがレオルドには通用しない。
残念ながらレオルドは女性に
ただ、好みの問題であった。今、レオルドの前に女性陣も見目麗しい者ばかりであるがレオルドは心が動かない。
(綺麗なんだけどな~。やっぱり見た目だけならシルヴィアなんだよな~)
俗な事を考えていた。しかし、レオルドの言うとおり、目の前の女性よりもシルヴィアの方が綺麗なのは確かであった。
レオルドはわざわざ挨拶に来てくれた女性達を無下には出来ないので、当たり障りのない会話でその場を乗り切った。
女性達と別れたレオルドは、給仕係から飲み物を受け取り、喋りすぎて疲れていた喉を癒す。
しかし、今回はなんと言ってもレオルドが主役であるので絶え間なく色々な人とレオルドは話す事になった。
作り笑いばかりで頬の筋肉が固まってしまい、永遠に笑い続けるのではないかとレオルドは想像してしまう。
それはゾッとするような光景だ。一生ニコニコと微笑む自分など気持ち悪くて仕方がない。そんな未来は望んでいないレオルドは、早く式典が終わる事を願うのであった。
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