第98話 もう一回頑張るんやで

 とんでもないハプニングがあったがレオルドは記憶を封じる事にした。夕食までの空き時間は魔法の鍛錬に費やしていたレオルドの所にイザベルが食事の準備が出来た事を伝えに来る。


「レオルド様。お食事の準備が整いました」


「わかった。すぐに行く」


 色々と疲れているのでお腹が減って仕方がなかったレオルドはすぐに食堂へと向かう。食堂へと向かう途中、レオルドは昼間に姿を見ていなかったイザベルが何をしていたのか聞いてみる事にした。


「イザベル。お前、昼は何してたんだ?」


「屋敷のお手伝いをしておりましたが、何か?」


「そうか。それならいい」


 てっきりイザベルはシルヴィアの元に何か報告にでも行ったと予想していたが、普通に屋敷の手伝いをしていたらしい。少しだけ警戒した自分が馬鹿らしく感じるレオルドだった。


 食堂へと辿り着いたレオルドは既に家族が揃っている事を確認する。前回と同じようにベルーガの近くが空いていたので、そこに座る。


 運ばれてきた料理に、レオルドは目を輝かせながら食べる合図を待つ。

 そして、ベルーガが一言述べて料理へと手を伸ばす。


「では、頂くとしよう」


 ゆっくりと優雅に食事を進めていくレオルドにベルーガが声を掛ける。


「レオルド。オリビアから聞いたのだが、ギルに蹴り飛ばされたそうだな」


「ええ、まあ。でも、母上にも話しましたがアレは日課の鍛錬なので、心配は無用です」


「だからってあんな光景を見せられたら誰だって驚くわ。私は本当に心配したんだから!」


「そのことについては本当に申し訳ありませんでした」


「ベルーガ! 貴方からも何か言ってあげて!」


 恐らくオリビアは父親ベルーガに一言ガツンとレオルドを叱ってもらいたいのだろう。怒りながらオリビアはベルーガに顔を向ける。


「まあまあ、いいことではないか。レオルドが頑張っているのだし」


 甘かった。やはり、ベルーガもなんだかんだレオルドの成長が喜ばしくあり、頑張っているレオルドを叱りつけることが出来なかった。


「もう! 貴方がそんなだからレオルドも無茶をするのよ!」


「ははっ。オリビア、君の気持ちも分かるがレオルドに今更やめろと言っても聞かないだろう。そうだろう、レオルド?」


「はい。母上にはご心配をお掛けしてしまいますが、私はギルとの鍛錬をやめるつもりはありません」


「全く、どうして男の人ってこうなのかしら!」


 オリビアは本気で怒っているわけではない。ただ、やはりレオルドの身が心配なのだ。ベルーガが注意すれば改善されると思っていたが、ベルーガはレオルドの味方である。


 三人が楽しく話している時、カチャンという食器にフォークなどをぶつけた音が鳴る。それも、二つ同時にだ。

 そちらに目を向けてみると、レグルスとレイラが不機嫌な顔をしていた。あからさまにレオルドの事を睨んでいるようだった。


「ご馳走様です。僕は部屋に戻って勉強しています」


「私もご馳走様です。では、母様、父様、レグルスお兄様、それでは」


 家族団欒で楽しく食事をと思っていたが、やはりまだ双子の弟と妹との溝は深い。改めて、自分のした事がどれだけ酷かったかを思い知るレオルドは暗くなる。


「気にしないで、なんて言えないわ。でもね、レオルド。あの子達は本当は貴方のことが大好きなのよ」


「えっ……でも……」


「今は貴方のことを恨んでいるけどね。あの子達は、ほら、貴方が少しやんちゃだった頃に周りの人から色んなことを言われたの。貴方のことも含めてね。だからね、許せなかったのよ。大好きな兄が変わった事で馬鹿にされるのが。だからこそ、あの子達は馬鹿にされても平気そうにしている貴方がもっと許せなかったの」


「そんな……」


「思い出して、レオルド。小さい頃はあの子達は貴方にずっとくっ付いていたでしょう?」


 言われてみれば、確かに小さい頃の思い出ではレグルスとレイラは何処へ行くにもレオルドに着いてきていた。良くも悪くもレオルドは小さい頃から自信に満ち溢れており、頼り甲斐のある兄であった。

 ただ、成長するにつれて増長してしまったが、それまでは二人との仲は悪くなかった。


「レグルスもレイラも貴方のことを馬鹿にされて悔しがって反論してたけど、やんちゃな貴方を見て嫌気が差したのでしょうね。それに、二人は優しいから私達の事も心配していたから余計に貴方が許せなくなったと思うの」


「……俺は、どうしたら……」


「レオルド。もう分かっているだろう?」


「父上? どういうことでしょうか?」


「お前は変わった。ならば、貫き通せ。誰にも馬鹿にされないように今のお前を」


「今の俺を……」


「そうだ。失った信頼はすぐには取り戻せない。だが、それでもお前が地道に最後まで貫き通せば二人もきっと分かってくれる。だから、レオルド。迷うな。真っ直ぐに歩き続けろ。それが、唯一にして一番の方法だ」


 レオルドは一度視線を下げてからベルーガとオリビアに目を向ける。


「はい! 俺はまたあの二人にとっての自慢の兄になります!」


「うむ。それでいい」


「うふふ。楽しみね。また皆で笑い合える日が来るわ、きっと」


 今度は取り戻そう。失ってしまった二人の信頼を。時間は掛かるだろうけど、レオルドは必ず二人と仲直りするのだと心に刻む。

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