第99話 ここで切り札を使うしかないのか……
双子の弟と妹といつか仲直りしてみせると決めた翌日、レオルドは清々しい朝を迎えていた。いつもならば仕事に向かわねばならないが、今は王都の公爵邸に滞在しており国王から褒賞を貰うまでは休暇のようなものだ。
そのおかげで、朝はなんの気兼ねもなく二度寝する事が出来る。なんて、素晴らしい生活だ。出来ることならば、一生このままがいいと二度寝の体勢に入るレオルドだったが、それは叶わなかった。
「朝ですよ、レオルド様」
「……イザベルか。もう少し寝かせて欲しいんだが」
「構いませんが、既にご当主様と奥様は食卓に着いておりますよ」
「すぐに行くぞ」
気持ちいいくらいに切り替えるのが早いレオルドはすぐに着替えて食堂へと向かった。レグルスとレイラはレオルドの顔を朝から見たくなかったのか、後で食べるとの事。それを聞いたレオルドは落ち込んだ。
朝食を終えるとレオルドは日課となっている鍛錬に励む。しかし、今回はオリビアが監視しているのでいつものような無茶は出来ない。なので、軽く運動するだけになっていた。
昼まで鍛錬は続いたが、昼食の時間となり休憩となる。昼食の前にレオルドは汗を流す為に身体を洗う。先日、オリビアが突撃してくるという事があったので、念の為に鍵を掛けておいて風呂に入った。
汗を流し、さっぱりとしたレオルドは昼食をとる。しっかりと味わい、満足したレオルドは午後からの事を考える。
午前中と同じように鍛錬にでも費やそうかと思っていたら、ベルーガから爆弾発言が放たれた。
「レオルド。明日なのだが、殿下がお前に会いに来るそうだ」
「……例の件で?」
「そうだ。心の準備はしておけ」
「分かりました」
自室へと戻ったレオルドは枕に顔を埋める。
(なんとかして婚約だけは断らなきゃ! 逃げる事は不可能だ。じゃあ、誰かと適当に婚約でもするか? いいや、無理だ。そもそも父上が断っているし、殿下が握り潰すに決まってる。だったら、方法は一つだ。まさか、ここで使うことになるとは思わなかったが、出し惜しみはしてられないからな!)
レオルドはとっておきの方法がある。ただ、それが果たして上手くいくかどうかは分からない。しかし、上手くいってもらわねばならないのだ。
上手くいかなければレオルドは
午後からの鍛錬へと赴いたが、動きが悪く集中していない事を指摘されてしまう。
「どうしたのです、レオルド様? 朝に比べたら動きがぎこちないですけど」
「むっ……すまん。悩み事があってな」
「悩み事ですか? 私で良ければ聞きますが」
「そうか? なら、聞きたいんだが殿下との縁談をどう断ればいいと思う?」
「どうやら、私ではお力になれませんね」
「お、おい! 諦めるんじゃない! 一緒に何か考えるくらいはしろ!」
「無茶言わないでくださいよ! そもそも殿下からの縁談なんて願ったり叶ったりじゃありませんか! むしろ、何故断りたいのか分かりません!」
「そうだが、そうなのだが! 俺は嫌なんだ!」
「だから、何が嫌なのですか? そこをハッキリと言ってくださいよ」
「実は殿下とは何度か話した事があるのだが、性格がどうにも歪んでいるのだ。恐らくだが、サディストの線が濃厚だ」
「レオルド様にはピッタリなんじゃないですか? 手綱を握ってくれる方なら相性良さそうに思えますけど」
「確かに上手く制御してくれそうだな。だが、やはり無理だ。考えても殿下とは有り得ん」
「でしたら、奥様にでも相談したらどうです?」
「そうしたいのは山々なのだが、母上は乗り気でな……」
「あー、では、どうするのですか?」
「まあ、手はあるから、それで何とかしようと思っている」
「それなら、別に良いでは無いですか」
「ぬおっ!」
カンっとレオルドの手から木剣が弾き飛ばされる。ちゃっかりバルバロトはレオルドの一瞬の隙を見逃す事無く叩いたのだ。
「隙ありですよ、レオルド様」
ドヤ顔を決めるバルバロトにイラッとするレオルドは弾き飛んで行った木剣を拾い上げて、鬱憤を晴らすようにバルバロトへと木剣を叩き込んだ。
「うわっ! ちょっと、再開するなら一言くらい言ってくださいよ!」
「ええい、うるさいっ! 戦場で攻撃する時に宣言などする訳がなかろう!」
「なっ! もしかして怒ってますか?」
激しく攻め立てるレオルドを見てバルバロトは怒っているのかと問い質す。
「怒ってなどおらん!」
「でも、先程より動きが雑になってますよ!」
「気の所為だっ!!!」
一際目立つように木剣を掲げたレオルドは勢い良く振り下ろして、バルバロトを吹き飛ばす。バルバロトは防いだが、木剣を持つ手が痺れていた。
「っ~! どう見ても怒ってるよな〜」
バルバロトはレオルドに聞き取れない声で呟く。明らかに怒っているレオルドはバルバロトがそんな事を呟いたとは知らずに距離を詰めて、再び連撃をバルバロトに叩き込んだ。
多少、動きは雑になっているがレオルドは強い。純粋に力も増しており、一撃が重たい。バルバロトは茶化した事を少し後悔しながらレオルドの攻撃をなんとか防いでいた。
だが、そのような無駄な動きばかりをしているレオルドは徐々に動きが悪くなり、やがてはバルバロトによって脳天を叩かれてしまった。
こうして、午後の鍛錬は終わり、レオルドは夕食を済ませ、風呂へと入り、一日を終える。
明日来るであろうシルヴィアに備えてレオルドは眠るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます