第97話 あらあら、まあまあ、大きくなって……
レオルドは
大量の汗をかいたレオルドは公爵邸に備えられている浴場で汗を流すことにした。
「久しぶりに一緒に入りましょう」
「ふぁっ!?」
この提案には流石のレオルドも断固拒否という反応を示した。
「こ、子供の頃なら分かりますが、私はもう十六歳なのですよ!? 母上と一緒に入るような歳ではありません!」
「でも、久しぶりに貴方の背中を流してあげたいのだけれど、ダメかしら?」
「ダメですっ! こればかりは譲れません!」
「お願い、レオルド! 私は脱がないから、いいでしょ?」
「ダメったらダメです! 母上のお願いならば聞いてあげたいです。でも、こればかりはどうしても無理です」
「そう……わかったわ。貴方がそこまで言うのなら今日は諦めるわね」
(今日はって明日もお願いしに来るつもりかーいっ!)
オリビアの言葉に内心で盛大にツッコミ入れるレオルドは疲労からか溜息をこぼしてしまう。
この疲れを癒す為にも早く風呂へと入ろうとレオルドはフラフラしながら使用人に付いて行った。
脱衣所に着いたレオルドは手早く服を脱いで行き、公爵邸のだだっ広い浴場へと足を進めた。ゲームで見た事ある古代ローマ式お風呂にレオルドは童心が蘇る。
(おっと、いかんいかん。つい、はしゃぎたくなるが、先に身体を洗わねばな!)
レオルドはベタベタしている身体を洗おうとした時、風呂場に誰かが入ってくる。誰だろうかと顔を向けるが、湯気で分からない。
「お背中を流しに参りました」
「あ? その声はイザベルか。一人で出来るからいらん。さっさと帰れ」
「そう言う訳にはいきませんので、失礼しますね」
「仕事だからとかそんな事なら気にしなくていい。そもそも俺は一人で風呂に入りたいんだ。だから、早く出ていけ」
既に真後ろにまで来ているイザベルに向かってレオルドは冷たく突き放す。しかし、イザベルも負けじと反論する。
「では、せめてお背中だけでも流させてくれませんか?」
「あのなぁ……別にいいって言ってるだろ」
「お願いします。背中を洗ったら出ていきますので」
「はぁ〜……わかった。背中だけ頼む」
「はいっ!」
ズルズルと問答を繰り返すのが面倒になったレオルドは背中だけ洗う事を許可した。喜ぶイザベルにレオルドは呆れ果てる。
(何が嬉しいんだろうか……)
さっさと終わらせようとレオルドは頭を洗い始めて、背中をイザベルに任せる。すると、背中に痛みが走り、爪が当たった事を知ったレオルドはイザベルに怒鳴り声を上げる。
「お前、わざわざこんな嫌がらせをする為に……あひゅっ?」
「ご、ごめんなさい、レオルド。ちょっと失敗しちゃった」
「は、母上ぇっ!?」
思わず逃げるレオルドだが、慌てていたせいで何故か落ちていた石鹸を踏んづけてしまい派手に転んでしまう。不運な事に後頭部を強打して、意識を失ってしまった。最後に聞いたのはオリビアの叫び声であった。
目が覚めたレオルドは勢い良く飛び起きる。いつの間にか、私室のベッドで寝ていたのだ。勿論、全部覚えている。
恐らくだが、オリビアはイザベルを利用してレオルドの入浴中に突撃してきたのだろう。そして、イザベルが話してオリビアが実行する。足音で気付いてもおかしく無かっただろうが、そこはイザベルがオリビアに合わせていた。才能を発揮する場所を間違えてはいるが、オリビアの目論見は見事に達成された。
しかし、最後にオリビアは失敗した。久しぶりに愛息子の背中を洗っていたら爪を立ててしまったのだ。痛みにより、振り返ったレオルドに全部バレてしまった。
だが、レオルドの方が驚いてしまい、後ずさった時に踏んづけてしまった石鹸により派手に転んで後頭部を強打してしまい意識を失ったのだ。
そうここまではレオルドが覚えている範囲だ。しかし、その先はオリビアとイザベルしか知らない。
イザベルはオリビアの悲鳴を聞いて風呂場に戻って来て、レオルドが倒れておりオリビアが抱えているのを目撃する。
何があったかは分からないイザベルだが、大方レオルドがオリビアに気が付いてビックリして転げたのだろうと推測する。大正解だ。イザベルの推測は百点満点である。
一先ずイザベルはオリビアと意識を失っているレオルドに駆け寄り、状況の確認をする。
「何があったのですか?」
「レオルドが私に驚いて、後ずさったら石鹸を踏んでしまって転けちゃったの。その時に頭を強く打ったらしくて……」
「ふむ……」
イザベルはレオルドが生きている事を確認してオリビアを安心させる。
「ご安心を。レオルド様は生きておりますので、奥様は何も心配しなくても大丈夫です。それよりも、先に身体を洗って差し上げましょう。その後、着替えさせてベッドに運びましょうか」
「それは良い考えね!」
年頃の男の子にとっては耐え難い事であった。知らない内に身体を洗われており、着替えまでさせられている。つまり、全身余すことなく見られているのだ。
レオルドはその事実を知り、枕に顔を埋めて獣のように唸り声を上げた。
「ぐおおおおおっ!!! 殺せっ! 殺してくれぇぇぇえええええ!!!」
ちなみにオリビアはレオルドの成長具合に喜んでいた。
「あらあら、まあまあ。うふふ、立派に成長したわね、レオルド」
後にイザベルからこの話を聞いてレオルドは喜怒哀楽の全ての感情を失った。
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