第95話 なにメンチ切ってんのや? いてこますぞお!
バルバロトは公爵邸という事もあって、緊張していた。その様子を見たレオルドが新鮮なものを見たとバルバロトを茶化す。
「どうした、バルバロト。動きが固いぞ?」
「レ、レオルド様。意地悪なことを言わないでくださいよ。ただでさえ、俺のような爵位が低い出自の騎士が公爵邸に招かれるだけでも恐れ多いのに……」
「はははっ。そんな事気にするな。母上も父上も気にしないだろうからな」
「公爵様達はそうでしょうけど……」
「ん?」
緊張して固まっているバルバロトが見ている視線の方向を追うと、そこには公爵邸の警備を担当している騎士がいる。誰も彼もがバルバロト以上の爵位であり、実力も申し分ない。
つまり、バルバロトは居心地が悪いのだろう。自分よりも身分の高い騎士達に見られているのが。
「ふむ……ならば、黙らせてやろう」
「レオルド様? 何をするつおつもりで?」
「何、ちょっとした物を見せてやろうとな。そうすれば、奴等も考えを改めるだろう」
レオルドが何を企んでいるのか分からないバルバロトは首を傾げるばかりだ。だが、レオルドが言うのだから何も問題はないだろうと気にするのをやめた。
「いつものように行くぞ、バルバロト!」
「はい! いつでもどうぞ!」
二人は掛け声を出した後、ぶつかり合う。木剣がぶつかり合う音が、カンっと公爵邸の中庭に鳴り渡る。
だが、次の瞬間、恐ろしい速度で木剣のぶつかり合う音が鳴り響く。カカカッとぶつかり合う音を聞き、警備の騎士達が見に向かうと、そこではレオルドとバルバロトが高次元の戦いを繰り広げていた。
公爵邸の警備を任せられている騎士達も実力は相当なものではあるが、レオルドとバルバロトの両名には及ばない。二人はそれほど強いのだ。
「ぜあっ!!」
「ふっ!!」
対して二人は既にお互いしか眼中に無い。何せ、少しでも目を逸らせば負けるのだから。レオルドの剣の実力は既にバルバロト並である。そして、バルバロトはそんなレオルドに負けてはならないと、鍛錬を積み重ねておりレオルドには未だ一本も与えていない。
故にバルバロトの方が剣術は上である。そう、剣術だけに限ればだ。レオルドは魔法を使えば、バルバロトを超えている。だが、魔法は使用しない。あくまで剣術の鍛錬であるからだ。だから、レオルドは剣術だけでバルバロトから一本を取って見せようと思っているのだ。
「はあっ!」
「くっ!」
やはり、僅かにバルバロトの方が上である。バルバロトの一撃がレオルドの頬を掠める。避ける事は出来たが、一撃を貰ってしまった。レオルドとバルバロトは動きを止めて、お互いに頭を下げる。
そして、レオルドはどさっと地面に腰を下ろした。
「あーっ! いけると思ったのだがな」
「流石に剣術ではまだ負けませんよ」
「そうだな。ところで、緊張は解けたか?」
「ええ、それはもう。むしろ、緊張していた事が馬鹿らしく思いましたよ」
「はははは! それは何よりだ。それよりも見てみろ。警備の騎士達の顔を。俺達の鍛錬を見て間抜けな顔をしているぞ」
言われてから思い出したバルバロトはこちらを眺めている騎士達に目を向ける。すると、そこにはレオルドが笑っていたように間の抜けた顔をしている騎士達がいた。
「くくっ。そうですね。今はとても愉快な気分です」
「ははっ! そうかそうか。じゃあ、続きをやろうか」
「良いでしょう。次も俺が勝ちますから」
「抜かせ。今度こそお前から一本取ってみせるからな!」
再び始まった稽古を警備の騎士達は食い入るように見入った。しかし、警備長が来て、二人の稽古に見入っていた騎士達は叱られて現場へと戻っていく。
まだ見ていたいと多くの騎士達がもどかしさを感じていた。出来ることならば自分も混ざりたいとも思っていた。
そして、レオルドとバルバロトの稽古を見ているのは騎士達だけではない。オリビアも紅茶を飲みながら、楽しそうに見守っていた。息子の成長が喜ばしい事にオリビアはニコニコと微笑んでいる。
「ふふっ。レオルドったらあんなに楽しそうにしちゃって。やっぱり男の子なのね。私と買い物してる時よりも良い顔してるわ」
それが少しだけ嫉妬してしまう。でも、またあのような笑顔を見せるレオルドが見られたので、些細なことである。
「ねえ、ギル。私には分からないのだけれど、レオルドはどのくらい強いのかしら?」
「そうですな。恐らくは同年代では今の坊っちゃまと、まともに戦える方はいないかと」
「レオルドが決闘で負けたジークフリート君もかしら?」
「それは、何とも言えませんな。坊っちゃまが負けてしまったのは、数年も稽古をサボり続けていたせいですので。ですが、もしも、再戦する機会があれば今の坊っちゃまなら勝てるかと思います」
「そう……でも、再戦の機会は無さそうね。レオルドはきっとこれからとっても忙しくなるだろうから」
「坊っちゃまが泣き叫びそうですね」
「そうしたら、私の所に来ないかしら? 昔みたいに沢山甘えてくれると嬉しいのだけれど……」
「ははは。流石に坊っちゃまも恥ずかしいでしょうから、奥様には泣き付かないでしょう。でも、時には親に甘えたくなる時もありますので可能性は十分にあるかと」
「そうよね! うふふ。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけでもいいからレオルドにはまた我儘を言って貰いたいわ」
ほんの少し前までは我儘ばかりのレオルドであったが、ここ最近のレオルドは立派に成長している。おかげで、母親としてやってあげられることが少なくなっている。
それは嬉しいことでもあるが、少しだけ寂しいと感じるオリビアであった。
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