第86話 そんな馬鹿な!

 再び、王都へと向かう事になったレオルドは使者を引き連れて転移魔法陣がある古代遺跡へと向かう。


「あの、レオルド様。馬車をお使いにならないので?」


「ええ。貴方も知っての通り転移魔法陣があるのです。しかも、王都へと一瞬で着くのです。使わない手はありません」


「し、しかし、危険では?」


「はは、ご安心を。既に私が一度転移魔法を体験しておりますゆえ。貴方はどんと構えていてください」


 使者もレオルドにそれ以上何を言っても無駄だと分かり、大人しく付いていく。古代遺跡にはレオルドを始め、ギルバート、イザベル、バルバロト、そして王都からやってきた使者の一団に加えて数名の騎士。

 古代遺跡まで馬車で向かい、馬車は騎士達がゼアトへと返す手筈になっている。


 古代遺跡へと辿り着いたレオルド達は、臆することなく古代遺跡の中へと足を進める。レオルド、ギルバート、バルバロト、イザベルの四人は動じることなくレオルドについて行っているが、使者の一団は完全に怯えていた。


 古代遺跡は恐ろしい罠が仕掛けられており、強力な魔物が現れると知っているのだ。しかも、レオルド達が調査をしたということは聞いているが、安全と決まった訳ではない。

 だと言うのに、どんどん先へと進んでいく四人に驚きを隠せない。命知らずの馬鹿なのか、それとも全ての罠を熟知している賢者なのか。使者の一団は判断に困ったが、立ち止まって置いて行かれるよりはマシだとレオルド達に付いていく。


 そして、遂に転移魔法陣がある最深部へと辿り着いた。道中、報告にあったミスリルゴーレムの残骸が無造作に転がっており、レオルドの報告に虚偽はないということを嫌という程思い知らされた。

 だが、それでもまだ完全には信じる事は出来ない。なにせ、これから自分達は失われた伝説の魔法、転移魔法を経験するかもしれない。

 確かに報告にあった古代遺跡にミスリルゴーレムは信じよう。しかし、やはり転移魔法だけはにわかには信じ難い。


「これが転移魔法陣なのですか?」


「ええ、そうです。これこそが失われた伝説の魔法、転移魔法の魔法陣です。さあ、信じられないでしょうけど、魔法陣にお乗り下さい」


「は、はあ」


 どれだけレオルドが自信満々に転移魔法陣だと断言しても疑わずにはいられない使者は恐る恐る魔法陣の上へと移動した。

 全員が転移魔法陣の上に乗ったのを確認したレオルドは、最後にもう一度確認する。


「では、皆さん。魔法陣に乗りましたか? 言っておきますけど、魔法陣のその外に手や足などが出ていたら、どうなるか知りませんよ」


 恐ろしい事を言うレオルドに震える使者の一団はお互いの身体が密着するくらいに固まり、魔法陣の中に収まる。

 レオルドは全員が乗ったことを確認し終わり、魔力を注ぎ込む。すると、魔法陣から光が溢れて、眩い光と共にレオルド達は転移した。


「こ……ここは……?」


 眩い光によって閉じていた目を開けた使者は、先程とは違う部屋模様に驚いていた。だが、まだ信じない。先程の光は目くらましで、部屋の模様を替えただけかもしれないと疑っていた。

 そうとは知らずにレオルドは魔法陣から降りて、部屋の扉を開く。光が差し込み、先程の古代遺跡とは違う様子にレオルド以外が目を見開き驚いた。


「そんな……馬鹿な……」


「驚きましたか? ここは先程の古代遺跡ではなく、王都の近くにある古代遺跡なのです。貴方はここに来た事は?」


「あります……私が今回使者に選ばれたのもかつて古代遺跡の調査に加わっていたからなのです。だから、私は断言しましょう。ここは間違いなく王都の近くにある古代遺跡だと……」


「では、信じて頂けますね?」


「信じるも何も……このような光景を見せられれば誰もが口を閉じるでしょう。レオルド様、失礼ながら貴方を疑っておりました。お許しください」


「構いませんよ。失われた伝説の転移魔法があると言っても大半の人間は信じないでしょうから。貴方の反応は当然のものです。ですから、私は貴方を一切責めることはしません」


「寛大な御心に感謝を」


 レオルド達は古代遺跡を出てから、王都を見詰める。レオルド以外は王都と古代遺跡を交互に見ており、未だに転移魔法で移動してきたことが信じられない様子だった。

 その事にレオルドは可笑しくて笑ってしまうが、これから王都へと向かい国王陛下と対面しなければならないと緩んでいる顔を引き締める。


 本来ならば、レオルドが王都に着くのは数日も先のはずだ。きっと、驚く事間違いなしである。どのような反応を見せてくれるのか今から楽しみでもあった。

 ただ、また第四王女シルヴィアに会うのだけは気が滅入るレオルドだった。


 しかし、先日誓ったばかりである。運命に抗い、世界に見返してやると。であるなら、第四王女であるシルヴィアに右往左往させられる訳にはいかない。

 立場上、逆らう事は出来ないだろうが、決して良いようにされてなるものかとレオルドは心を燃やしていた。


 ただ、やはり、若干の不安はあるのでレオルドは腕のいい医者でも今度見つけようと秘かに思うのであった。

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