第87話 太陽が眩しい
久し振りというほどではないが、レオルドは再び王都へとやってきた。相変わらず、ゼアトとは比べ物にならないくらい活気付いている都市だ。そもそも人口が違うのだから当たり前だろう。
さて、レオルドは呑気に王都を観光しに来た訳ではないので、真っ直ぐに王城へと向かう。
王城へと辿り着くと、門番が驚いてしまった。どうやら、送り出した使者の一団が帰ってくる予定を大幅に短縮していた事に驚きを隠せなかったのだろう。
色々と説明を求められたが、使者は件のレオルドを連れて来たので早急に中へ案内するように命じた。門番も使者には逆らえないので、渋い顔をしながらもレオルド達を中へと通した。
中へと通されたレオルド達は、やはり驚かれた。使者が一緒にいることから、ゼアトから共に来た事は分かるが、予想していたよりも早かったからだ。
レオルドが気を利かせて王都へと向かっていたのではと考える者もいた。残念ながらその予想は外れである。まあ、正解である転移魔法の行使という答えは誰も出せそうにないが。
大体、失われた伝説の魔法である転移魔法を使ったと言って誰が信じるだろうか。恐らくはいないだろう。
レオルドはそういうことは想定済みなので質問されても無視している。答えるべき相手はただ一人、国王陛下だけだ。
それにレオルドは腐っても公爵家の人間だ。自分よりも低い爵位の人間の質問など無視しても問題はない。
既にレオルドと使者が戻ってきた事は伝わっているようで、そのままの足でレオルドは国王と謁見する事になった。
「レオルド・ハーヴェスト。王命に従い、参上致しました」
「うむ。遠路遥々ご苦労と言いたい所だが、早すぎはせんか?」
「その点に付きましては、既にご報告済みかと」
「例の古代遺跡で発見したという転移魔法か?」
「はい。その通りにございます」
「にわかには信じ難い。私が呼ぶ事を想定して先回りしていたのではないか?」
「仰る事は理解できます。しかし、断言しましょう。私は失われた伝説の魔法、転移魔法を使ったと」
堂々と言い切ったレオルドに周囲に控えている全ての人間が動揺する。
国王の言うとおり、レオルドが呼び出されることを想定して先回りしたと言う方が信憑性がある。だが、レオルドははっきりと言ったのだ。
失われた伝説の魔法、転移魔法を使ったと。国王の前でだ。
「もし、嘘ならばどうなるかは理解しているのか?」
「ええ、勿論でございます」
玉座の間にはさらに動揺が走る。もしも、嘘だと発覚した場合は死刑は免れない。国の最高権力者である国王への虚偽は国家に対する敵対行為と見なされ国家反逆罪で一族、並びに親族までもが処罰される。
「ふっ……ならば、当然証明出来るのだろうな? レオルド・ハーヴェストよ」
「はい。ただし、移動する必要がありますので、証明する為にも誰か協力して貰いたいのですが」
「構わん。どこへ行けばいい?」
「まさか自らで試すおつもりで?」
「うむ。かの伝説の転移魔法を一度は体験したいと誰もが思うだろう。無論、私もだ」
「しかし、陛下の身に何かあれば――」
「やはり、嘘だと申すか?」
「いえ、そういう訳ではございません。ただ、陛下は唯一無二の御方。この国に必要不可欠な存在です。ならば、別の御方に任せるのが良いかと」
「いいや、ダメだ。私が直々に確かめる」
「ですが……」
「それに、レオルド。既にお前が試したのだろう?
ならば、安全だと保証されたも同然だ」
「そう言われると何も言えませんが……」
しばらく考え込むレオルドだが、陛下が望んでいるのだから応えるのが臣下の務めだろうと国王の同行を許可した。
「分かりました。転移魔法を証明してみせましょう。陛下、これから王都の近くにある古代遺跡へとご同行願えますか?」
「うむ! 楽しみであるな!」
新しい玩具を与えられた子供のように喜ぶ国王陛下にレオルドは苦笑いだ。
しかし、トントン拍子に話が終わったかと思えたが、ここで邪魔が入る。
「なりませんぞ、陛下!」
「宰相よ。これは決定事項だ。どれだけお前に言われても覆らんぞ」
「分かっております。ですが、陛下御一人に行かせる訳にはいきません。護衛の者をお付け下さい」
「それくらいは分かっておる。リヒトー。お前も私に着いてこい」
「陛下のご命令とあれば」
玉座に国王、その左右に宰相と騎士が立っている。国王は騎士の方へ振り向き、名前を呼んで同行するように命令する。
レオルドは国王が呼び寄せた騎士を見て、鳥肌が立った。国王が呼び寄せた騎士リヒトーは王家直属の騎士であり、近衛騎士と呼ばれている。
王国騎士団が国の守護者ならば、近衛騎士は王族の守護者である。一人一人が強者であり、騎士にとっては憧れであり目標の存在でもある。
そして、その近衛騎士の中で最強と称されているのが国王の横に控えていたリヒトーである。さらに、リヒトーはもう一つの渾名がある。それは、王国最強。
あの王国騎士団、団長のベイナードよりも強いとされているのだ。
国王の懐刀であり、王家の切り札とも言われている。もしも、国王を手に掛けるのならリヒトーを越えなければならない。
「人数制限はないのだろう?」
「ええ。ありませんので多少人数が増えても問題ないかと」
「よし、では、宰相。お前も着いてこい」
明らかに嫌な顔をしている宰相だが、断る事は出来そうにないので宰相は嫌々ながらも同行する事を決めた。国の重鎮が離れても問題ないのかと思ったが、国王が来るのだから今更かとレオルドは諦める。
国王、宰相、リヒトー、レオルドの四人は転移魔法陣がある古代遺跡へと向かう事となった。
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