第88話 こっち見んなや!
王都の近くにある古代遺跡へは何事もなく辿り着いた。と言っても、王都から古代遺跡までは道が整備されており、魔物の脅威はあまりない。あまりないだけで、全くない訳ではない。
ただ、今回は運良く魔物に遭遇しなかっただけである。一応は騎士達が巡回して駆除をしているが取りこぼす事もあるので遭遇することも稀にあるのだ。
四人は古代遺跡の中へと入る。道中は、暇だったのか国王がよく喋る。標的にされたレオルドは国王と話すのだが、代わって欲しいと宰相に目を向けたりしている。
しかし、宰相も国王の話し相手は面倒くさいのかレオルドが向ける視線をそっと逸らした。宰相がダメならとレオルドはリヒトーへと目を向けると笑って誤魔化されてしまう。味方はいないのだと悟ったレオルドは死んだ目で国王との会話を続けた。
レオルドの案内によりすんなりと転移魔法陣のある部屋へと辿り着いた。
「ここか……」
「はい。ここです」
「ふむ。この足元にあるのが転移魔法陣で間違いないのか?」
「その通りです、宰相。この魔法陣こそが失われた伝説の転移魔法なのです」
「へぇ〜」
キンッと鍔鳴りが聞こえた。ブワリと脂汗が溢れ出すレオルドはリヒトーに勢い良く振り向いた。振り向いた先にはリヒトーが剣に手を掛けているではないか。レオルドは王国最強の男が剣に手を添えたのを見て、緊張で動けなくなる。
「一応言っておくけど、僕はまだ君の事信用してないから」
「……は、はい」
「妙な真似はしないでね。じゃないと斬っちゃうから」
リヒトーの姿がブレると同時に一筋の閃きを目にしたレオルドのすぐ側にリヒトーはいた。肩を叩かれたレオルドはビクンッと大きく震えてリヒトーの横顔を見た。
その時、レオルドの前髪が落ちる。驚きのあまり、呼吸を忘れてしまうレオルド。まさか、さっきの一瞬で剣を抜き、前髪を少し斬ったと言うのかと。
「驚いたね。僕が抜剣したのを認識してたんだ」
何も答えることは出来ない。神業を目の前で見せられたレオルドはなんと言えばいいのか分からなかった。ただ一つ言えるのは王国最強という名は伊達ではないという事だった。
ようやく我に返ったレオルドは三人に転移魔法を経験してもらうことにした。
「では、これより転移魔法を体験して貰おうと思います。御三方、魔法陣の上にお乗り下さい」
国王は躊躇うことなく魔法陣へと上がり、宰相は恐る恐ると言った感じで魔法陣へと上がり、リヒトーはレオルドから一切目を逸らさずに魔法陣へと上がった。
レオルドはリヒトーからの視線が怖くて仕方ないが、国王を守る立場の人間からすれば当然の警戒なので我慢する事に決めた。
三人が乗ったことを確認したレオルドは最終確認を取る。
「では、これより転移魔法を発動させます。とてつもない光に目をやられるかもしれませんが、害はありませんので。それでは、行きます!」
レオルドは四度目となる転移魔法を発動させる。目を開けてはいられないほどの光が四人を包み込んだ。
四人が次に目を開いた時、部屋の内装は大きく変わっていた。レオルドが見つけた古代遺跡であり、大量の本が保管されている本棚が四人の前にあった。
「これは……本当に転移したのか?」
「部屋の内装は変わっていますが……」
「……」
(リヒトーの目がめっちゃ怖い! まだ信じてなさそう……)
未だに信じられない二人は部屋をキョロキョロと見回して、リヒトーはレオルドの方を笑顔で見詰めている。ただ、目は笑ってはいない。恐怖を感じながらもレオルドは三人に証明する為に動き出す。
「信じられないでしょうけど、転移は成功しました。ここは私が見つけた古代遺跡でございます。この部屋の外には報告したミスリルゴーレムの残骸がありますので、それを見れば信じて頂けるかと」
「ほう。では、早速向かおうではないか」
上機嫌な国王と怪しむ宰相にいつでも斬る準備万端のリヒトーを連れてレオルドは部屋の扉を開ける。その先にはレオルドが以前倒したミスリルゴーレムの残骸が転がっていた。
流石にこの光景を目にした三人は疑いようもなかった。転移魔法は存在したのだと。レオルドの報告は全て事実であったと。
国王はミスリルゴーレムの残骸に近寄り、触って本物かどうかを確かめる。砕けたミスリルゴーレムを手に取る国王は確認終わったのか砕けたミスリルゴーレムの欠片を床に置いた。
「偽物とは思えんな。流石にあの一瞬の目眩しではここまで用意は出来ないだろう」
「では、陛下。転移魔法は間違いないと?」
「ああ。宰相、これは嘘などではない。レオルドよ、散々疑ってばかりですまないな」
「い、いえ! 陛下が謝る事ではありません。全ては私の行いが招いたことですので。これが父上だったなら、陛下は疑う事などしなかったでしょう」
「どうだかな。お前の父であるベルーガは確かにお前とは信頼度が違おう。だが、転移魔法があると言われてもすぐには信じれん。この目で確かめるまではな」
「それでは……お認め下さるという事でよろしいでしょうか?」
「うむ! 私が認めよう。アルガベイン王国、六十四代国王のアルベリオンがお前の偉大なる発見を讃えよう!」
喜びに打ち震えるレオルドは感極まって雄叫びを上げてしまいそうだったが、すぐに跪いて頭を下げる。
「有り難き幸せにございます!」
「むしろ、礼を言うのはこちらだ。お前はこの国だけではない。この世界に対しても多大なる貢献をしたのだ。私は嬉しいぞ、レオルド。お前のような臣下を持つ事が出来て」
「勿体なき、お言葉でございます」
「ふっ……では、一先ず外へと出ようではないか。案内を頼むぞ」
「はっ。お任せを!」
レオルドは三人を連れて古代遺跡の外へと出る事になった。
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