第71話 嘘がお上手ですこと

「レオルド様、楽しんでおられますか?」


「はい」


「先程から無機質な返事ばかりで私、寂しいですわ」


「勿論、楽しいです! シルヴィア殿下のように麗しき御方と共にいられるとは、幸福の極みにございます!」


「まあ、そこまで喜んでくださるなんて!

 私も嬉しいですわ!」


(こ、このアマ~!)


「どうしたのですか、レオルド様? お顔が引き攣っていますわよ?」


「シルヴィア様に見惚れていましたので」


「ふふ、お上手ですわね」


(ぐぎぎぎ……)


 エリナはシルヴィアの怒りを買ったと思ったのか、二人からは離れていた。


 二人で行動しているシルヴィアの方は本当に楽しんでいるかのように見えるが、レオルドは先程から顔が引き攣ったりと楽しんでないように見える。


 周囲の貴族からすれば、王族であるシルヴィアと共に行動できるだけでも名誉な事なのに、レオルドの様子はそうでもない。


 レオルドも先程から何度も向けられる嫉妬の視線には気がついていた。代われるのなら代わりたい。むしろ、代わってあげたいとさえレオルドは思っている。


 どうしてこのような計算高い腹黒女といなければいけないのかとレオルドは苛立っていた。

 外見は確かに好みではあるが、中身は側溝に溜まったヘドロとしか思えない。


 よくよく思い出してみれば、運命48でのシルヴィアは聖女のような扱いであった。登場シーンも少なめで、どういう人物かはあまり記されてはいない。

 公式のキャラ設定でも才色兼備の美少女としか書かれていない。王女ルート、ハーレムルートでは死んでしまうので儚いイメージもある。


 しかし、現実で会ったシルヴィアはとんでもない女性であった。だが、よくよく考えれば王族は誰しもが怪物、傑物ばかりだ。

 ならば、シルヴィアもそういう認識で間違いないだろう。ただ、なぜレオルドに興味を示したのかはわからない。


 確かに過去のレオルドと今のレオルドは違う。それだけで興味を引くかと言われればノーと答えるだろう。

 気にはなるだろうが、興味を持つほどではない。なんと言ってもレオルドは、既に公爵家から廃嫡されており、ゼアトという辺境の地に幽閉されている身分なのだ。


 今回、功績を挙げたからと言って執心する意味がない。褒めたら終わりなのだ。レオルドという存在は。


「シルヴィア殿下。いつまでも私の側ではなく、他の方の所にも行かれたほうが良いのでは?」


「そんな! レオルド様。私が側にいてはお邪魔だと?」


「いえ、そのような事はないです! 嬉しく思います!」


「まあ! でしたら、いいではありませんか」


(よくない! よくないよー!!!)


 恐らくレオルドの内心を読み取っているシルヴィアは楽しんでいる。

 そもそもシルヴィアは王族であるので、多くの貴族と腹の探りあいをしてきた。故にレオルドが考えている事など容易に読み解く事が出来る。


(ふふふっ。レオルド様は分かりやすい方ですわね。以前お会いした時は取り入ろうと必死になっていましたけど、今では別のことを考えていますわね)


 色々な魂胆で近付いてきた者達は多かった。その中にはレオルドも含まれていたが、今は違う事に興味が湧いている。

 どうして心変わりしたのかとシルヴィアは興味が尽きない。


 今まで心変わりしたかのような貴族は見たが、レオルドほどではなかった。だからこそ、シルヴィアがレオルドに興味を持つのは不思議な事ではない。


 しばらくの間、二人は共に行動をしていた。


 すると、パーティ会場に音楽が流れ始めていくつかのペアがダンスを始める。レオルドは絶対に御免だと、ダンスをしている場から遠ざかろうとしたが、そこでシルヴィアに腕を掴まれる。


「あら、どこへ行こうというのですか、レオルド様?」


「お腹の調子がよくないので……」


 咄嗟に嘘をつくレオルドだがシルヴィアは騙されない。


「先程も美味しそうにワインを飲んでいたではありませんか。嘘はよろしくないですわ」


「……勘弁してください」


 泣きそうなレオルドにシルヴィアはどこか興奮を覚える。ゾクゾクとした新たな感情に戸惑うシルヴィアだが、レオルドを逃がすような事はしない。


「踊りましょう、レオルド様」


「嫌と言ったら?」


「うふふふ。私、陛下に何を言うかわかりませんわ」


「シルヴィア殿下。どうか、私と一曲踊って頂けませんか!」


 もう形振り構わずだ。跪いてシルヴィアに手を差し伸ばすレオルド。シルヴィアは万人を魅了するであろう可憐な微笑みでレオルドの手を取り、了承する。


「喜んで」


(可愛いな、ちくしょう!!!)


 レオルドも例外ではなかった。やはり外見だけはレオルドにも魅力的に映っていた。これで中身も伴っていれば、さぞ素晴らしい事であったのにとレオルドは残念に思う。


 華やかな音楽と共にレオルドはシルヴィアと踊る。意外なことに思うだろうが、レオルドは普通に踊れる。しかも、割と上手にだ。

 シルヴィアとレオルドが織り成すダンスは多くの貴族を魅了した。


 やがて音楽が止み、ダンスが終わる。レオルドとシルヴィアのダンスを見ていた貴族達はお世辞抜きの賞賛をして、二人は拍手喝采を浴びる。

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