第72話 だから、どうして……!

 拍手喝采を浴びた二人に多くの人間が押し寄せた。と言っても全員男であるが。

 理由は勿論、シルヴィアにダンスの申し込みだ。レオルドはシルヴィアが多くの男性に囲まれている隙に逃げ出した。


 壁際にまで逃げ伸びると、やっと解放された事に一息つく。

 喉が渇いたので使用人から飲み物を受け取り、壁と同化するように佇む。


 遠くからシルヴィアが困っている様子を眺めながら喉を潤していく。喉を冷たい飲み物が潤してくれる感覚に小さく唸りを上げる。


「くぅ~~~! うめえ~」


 また音楽が流れ始めてダンスが再開される。今度は踊る必要もないのでレオルドは、ぼんやりとダンスを眺めていた。


 するとそこへ母親オリビアが近付いてきた。


「先程のダンスは見事だったわ、レオルド」


「お褒め頂きありがとうございます」


「一つ気になるのだけれど、どうやってシルヴィア殿下を口説き落としたの?」


「口説いてなんていませんよ。何故かは知らないですけど、気に入られたみたいです」


「あら~。よかったじゃない! もうレオルドは結婚出来ないかと思っていたけど、まさかシルヴィア殿下に気に入られるなんて!」


「と、突然何を仰るのですか、母上!

 俺のような罪人が殿下となんて、恐れ多いにも程がありますよ!」


「確かに貴方は罪を犯したわ。だけど、結婚が出来ない事はないはずよ」


「それはそうかもしれませんが……だからと言って相手が殿下ということもないでしょう?」


「あら、そう思う? レオルド。貴方は忘れてるのかもしれないけど、公爵家に殿下が嫁ぐ事はおかしくはないのよ?」


 オリビアの言うとおりだ。確かに王族の女性は他国との結びつきを強くする為に、他国へと嫁ぐ事も多い。

 だが、自国の貴族との結びつきも強くする為に降嫁に出ることもある。


 つまり、公爵家であるレオルドにも可能性はある。ただし、どちらかと言えば次期当主であるレグルスにこそ相応しいとも言える。


「可能性はあったとしても周りが認めないでしょう。それに陛下が何と仰るか」


「そうね。でも、なんとなくなのだけど私は大丈夫だと思うわ」


「どういうことですか?」


「母の勘です。それ以外ありません」


「ははっ、そうですか」


 レオルドはシルヴィアであってもジークに引き寄せられるのだろうと考えていた。今はレオルドに興味を持っているが、ジークと出会えばほだされてハーレムに加わるだろう。

 なにせ、運命48ではサブヒロインだったシェリアという実例を目の当たりにしてしまったのだから。


(まあ、関係ないか。俺は生き残る事に専念しよう)


 グビッと残り僅かだったワインを飲み干すレオルド。


 やがてパーティは終わり、解散となる。レオルドは家族と共に実家へと帰る。

 帰りの馬車では父親ベルーガにも母親と同じような質問を受けて苦笑いが絶えなかった。加えて双子の弟と妹からは、何か卑怯な手を使ったのではないかと憎悪に満ちた言葉をぶつけられていた。


 これにて王都での用事は終わった。明日はゼアトへと戻ることになる。レオルドはこれでようやく、頭を悩ませたり胃を痛めることがなくなる。

 安心して眠りについた。


 翌日、気分よく目が覚めたレオルドは、使用人に連れられて食堂へと向かう。食堂には父親ベルーガのみであった。

 挨拶をして席に着くレオルドだが、何を話せばいいかわからず沈黙する。


「レオルド。実はお前に話したい事がある。食事が終わり次第、私の仕事部屋に来てくれ」


「わかりました」


 唐突に言われたので焦ったレオルドだが、落ち着いて返事を返した。

 その後、母親オリビアと双子の弟と妹が食堂へとやってくる。家族が揃った所で朝食を取る。


 今日レオルドが帰ると知っているからか、レグルスとレイラの機嫌が良い。ただその一方で、オリビアの気持ちは沈んでいる。

 久しぶりに会えたと思ったのに、短い時間しか一緒にいられなかったので、オリビアとしては物足りなく感じていた。


 レオルドは家族のそんな対照的な反応を見つつ朝食を続ける。特に何か言う事はない。むしろ、何か言えば片方が大きく反応する。

 あっちを立てればこっちが立たずという状況だ。家族団欒と言うのに嘆かわしい。


 朝食を済ませたレオルドは、ベルーガに呼ばれていたのでベルーガの仕事部屋へと向かう。

 ノックをして返事が返ってきたら中へと入るレオルドは、久しぶりに父親と二人っきりになる。


「用件はなんでしょうか?」


「うむ。実はお前に一つ頼みたい事があるのだ」


「父上が私にですか? レグルスではなく?」


「ああ。お前にだ」


「なんでしょうか?」


「ゼアトの全権をお前に任せたい。つまり、ゼアトにおいては領主代理という形だ」


「ふぁっ……?」


 王都に来てから何度フリーズすればいいのだろうか。もうレオルドの頭はオーバーヒートして燃え尽きてもおかしくはない。


「ゼアトはお前も知っている通り、私の領地であり管轄だ。だが、今はお前がいる。そして、今回の功績は非常に大きく、また騎士達からの声援も多い。だから、レオルド。お前にゼアトを任せてみたいんだ」


「私は咎人ですよ!? 今まで通り父上が治めている方が民達は安心できるはずです。光栄な話ですが、やはり私には荷が重過ぎるかと……」


「やはり、そうか……」


(おお! わかってくれたか!)


「お前がそう言うと思っていた。だから、既に陛下から勅命を貰っている」


「ヴぁっ!?」


「これでもまだ嫌だと申すか、レオルド?」


「身命を賭してゼアトを治めてみせます!」


「頼むぞ、息子レオルドよ」


(ちくしょう! どうしてこうなった!)


 嘆くレオルドだが、全て身から出た錆びである。ただ生き残るだけならば、ひっそりと鍛錬を積み、来たる時にだけ力を見せればよかったのだ。

 しかし、今回は父親に命じられたという仕方のない部分もあるが、騎士を救おうと頑張ったのは自分の意思だ。


 ゆえに自業自得なのだ。

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