第69話 ワタクシ、貴方に大変興味がありましてよ?

 レオルドはベイナードとの会話を楽しんでいたが、ベイナードはレオルド以外にも交流がある。

 区切りのいいところでベイナードはレオルドに別れを告げて、他の所へと移動していった。


 また一人になったレオルドは使用人からワインを受け取り、壁際で寂しく会場を眺めながら呑む。

 その時、主催者である国王がパーティ会場に姿を現して盛り上がった。


 なにやら大層な事を言っているがレオルドは興味が無いので聞き流していた。

 近くに来た使用人に空いたグラスを渡して、レオルドは国王から離れた場所へと移動する。


 遠目で見ると、国王以外にも王妃、王太子、王子、王女と、王族の面々が揃っている。気に入られようと必死なのか、王族の周りは多くの貴族達で一杯だ。そんな事をして何の意味があるんだろうと、レオルドは鼻で笑う。


 取り入った所で王族は全員が怪物、傑物という恐ろしい集団だ。武芸に長けている者、政治に長けている者と区別はあるが、中でも一番の化け物は第四王女だろう。


 運命48では王都襲撃イベントが存在している。王都にモンスターパレードが押し寄せてきて騎士団が対応するのだが、数が尋常ではない為に学園からも応援が出る事になる。

 そこでは主人公のジークフリートも応援として参加する事になるのだが、大した活躍は出来ない。


 理由はただ一つ。第四王女が持つスキルのおかげで王都は無傷の勝利でモンスターパレードを終わらせるからだ。

 第四王女が持つスキル。その名は神聖結界。

 能力は極めて強力で、魔物の侵入を一切許さず、魔法をも弾く鉄壁の守りを見せる。

 そして何よりも重要なのが、その効果範囲と持続時間だ。


 効果範囲は分かっているだけで王都全域、持続時間は使用者が生きている限り。ただし、発動時間は本人の意識がある時に加えて任意で発動するタイプだ。

 単純に第四王女が気絶、もしくは睡眠といった状態になれば発動していたスキルは消える。


 魔法や魔物相手なら無敵なスキルである。


 しかし、残念な事にサブヒロイン扱いで死ぬ運命さだめにある。

 主人公ジークが王女ルート、ハーレムルートを選ぶと魔王が現れて、脅威となる第四王女を暗殺してしまうのだ。

 今の所、その兆しはないので死ぬ事はない。それにジークが王女かハーレムルートに進まない限りは死なないので問題はない。


 ただし、何度も言ったがレオルドは全ルートで死ぬ。


「はあ~」


 溜息を吐いてレオルドは新しい飲み物を貰い、窓際へと避難する。何も考えずに窓から夜空を見上げていると、周囲が騒がしくなる。


 視線を会場へと戻すと、国王がレオルドの方へと近付いていた。レオルドは国王が近付いてきたのを見て慌てて礼儀正しく振舞う。


「国王陛下。本日はこのような催しに呼んでいただき、ありがとうございます」


 当たり障りのない挨拶をしてレオルドは退散しようと試みたが、国王は許してはくれなかった。


「良い。今日はお前が主役だ。そのように畏まる必要はない」


 そんな事を言うが国王が相手なのだ。下手な発言などしようものなら、罪に問われるのはレオルドだ。だからレオルドは、謙虚な態度を崩さずにその場から立ち去ろうとする。


「いえ、私のような罪人が主役などとは恐れ多いことです。大人しくゼアトに閉じ篭っている方が世の為人の為です」


「何を言う。お前はこの国の為に素晴らしい働きをしてくれたではないか」


「命令に従ったまでのことです」


「なるほど。つまり、本心は別にあったということか?」


「い、いえ! 決してそのような事は!」


(やばい! ミスった~!)


 これは不味いことを言ってしまったと焦るレオルド。先程の発言だと、まるで命令されなければ何をしていたかはわからないような言い方だ。

 これでは不興を買ってもおかしくはない。


「はっはっはっは。すまん、すまん。少し意地悪だったな」


「は、はは……」


(心臓に悪いわ! くそ! お茶目なオジサンって呼ぶには抵抗がありすぎる!)


 これ以上は身が持たないので、レオルドは二、三言葉を交わすと、早足で国王の元から逃げ去った。


 やっと一息つく事ができ、束の間の平穏が訪れると思ったレオルドの背後に忍び寄る影。


「久しぶりですね。レオルド様」


「ふぁっ!?」


 振り返ると、先程までいなかったはずの女性がレオルドの背後にニコニコと笑いながら立っていた。


「し、失礼しました。シルヴィア王女殿下!」


「お気になさらず。わたくしが驚かせてしまったのがいけないのですから」


「いえ、そのような事はございません。私が第四王女であるシルヴィア殿下に気がつかなかったのが悪いのです!」


「そうですか? でも、背後から忍び寄って声を掛けた私の方が悪いのではなくて?」


「決してそのような事はありません!」


(くそぅ。滅茶苦茶可愛いな~)


 レオルドの目の前にいるのは第四王女ことシルヴィア・アルガベインである。

 破格のスキル、神聖結界を所持し、政治に関しても強いという才色兼備な女性である。

 見た目は綺麗な金髪、肌はシミ一つない美しい陶器のようで、空を彷彿とさせる青いパッチリとした大きな瞳。

 瑞々しい唇は果実のようで、男ならばむしゃぶりつきたくなるだろう。

 まだレオルドよりも若く、十四歳でありながらも、既に女性らしい身体つきになっている。将来は絶世の美女と称される事は間違いないだろう。


「それより、どうして挨拶に来てくれなかったのですか?」


 運命48のゲーム世界ではレオルドとシルヴィアは関与しない。だが、ゲームでは語られていないがレオルドとシルヴィアは僅かながらも交流があった。


 王族の誰かが誕生日を迎えればパーティが開かれる。高位の貴族だけが呼ばれるので公爵家であるレオルドも呼ばれていた。

 その際、シルヴィアの誕生パーティの時にレオルドはシルヴィアと少しばかりではあるが会話をしている。


 とは言ってもその頃にはレオルドは屑人間になっていたのでシルヴィアとは打ち解けることは出来なかったが。


 そう、打ち解ける事は出来なかったのだ。だから、シルヴィアが自らレオルドに挨拶しに来るなど本来であれば有り得ない。


「私のような卑しき罪人が、恐れ多くも第四王女であられるシルヴィア殿下に挨拶などできようはずもありません」


「貴方、本当にレオルドなのですか? 以前お会いした時とは別人と言ってもおかしくないほどの変わりようですわ。レオルドが用意した影武者ではありませんよね? だとすれば人格が変化したのでしょうか? それともレオルドの皮を被った別人でしょうか? なんにせよ、私、貴方に興味を持ちました。これからは、どうぞよろしく。仲良く致しましょうね、レオルド様」


(あへ?)


 本日三度目のフリーズである。関わりたくないと思っていた王族に目をつけられてしまったレオルド。

 しかも、サブヒロインのシルヴィアにだ。死を惜しまれ、メインヒロインよりも人気を博していたシルヴィアがだ。


 これは一体何の間違いなのだろうかと、レオルドは思考が停止するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る