第68話 陰口は聞こえないように言おうね
オリビアによるレオルド着せ替え大会が終わり、レオルドはベルーガが用意した馬車に乗り込む。
馬車には両親と双子の弟と妹。そして、ギルバートを含めた使用人。
これから、馬車に乗って向かうのは王城である。モンスターパニックを無事に乗り切った祝いだという。
(猛烈に帰りたいな~)
馬車の中では両親と会話はしているが、双子の弟と妹は目を合わすだけで舌打ちをされる始末だ。レオルドはそれを悲しむが、こんな態度を取られるのも自業自得なのでどうしようもない。
今は弟と妹がこれ以上不機嫌にならないように努めるしかない。
無限にも感じた馬車の移動時間は終わった。レオルドは今、朝方に訪れた王城を再び見上げている。中からは明かりが漏れており、パーティが始まろうとしているのがわかる。
これから向かうのは高位の貴族が待ち構えているパーティ会場だ。権謀術数に長けた
レオルドも公爵家の一員ではあるが、歴戦の猛者に比べれば赤子に等しい。
とは言っても、レオルドは次期当主から外れており、ゼアトに引きこもっている身だ。レオルドを手中に収めても旨みはない。
なので、擦り寄ってくる相手はいないと言ってもいいだろう。
ただ今回は、モンスターパニックの終息を祝っての催しだ。そして、レオルドは国王に褒賞を貰えるほどの活躍を見せている。つまり、モンスターパニックを終息に導いた立役者なのだ。
注目されているが、中にはこれまでのレオルドの素行から見て信じていない者もいる。
しかし、騎士団長であるベイナードがレオルドについて触れ回っていた。勿論、レオルドとの模擬戦のことを。
つまり、レオルドが何か汚い手を使ったわけでもなく、自分の力で得た結果だという事が判明している。
それでも、半信半疑のようではあるが。
いざ
視界に広がるのは立派なシャンデリアに大理石で出来た綺麗な床。そして、パーティ会場に広がっている数多くの丸テーブルに並べられている豪華な料理。
使用人達がお盆にワイングラスを載せて歩き回り、そこから好きなのを手にとっていく貴族たち。
フィクションの中でしか見た事がないような光景が目の前に広がっている。レオルドは目を輝かせたが、すぐに思考を切り替える。
自分は今からこの中へと赴き、無事に帰らなければならないのだと。
過去の所業から嫌味を言ってくる者もいるだろう。だけど、弱気な姿は見せられない。今日は自分が主役の一人でもあるからだ。
そして、公爵家の人間として恥ずべき行動をしてはならないとレオルドは息を吐き、気を引き締める。
ハーヴェスト公爵家一行が会場に入ると、早速他の貴族たちが集まってきて各々挨拶をする。
一応主役とあってか、レオルドにも挨拶をして来た。挨拶が終わると囲んでいた貴族たちはいなくなり、レオルドは一安心する。
(なにも言われなかったな~。まあ、明らかに馬鹿にしているような視線は向けられたけど)
レオルドへと向けられた視線は半数以上が見下したような視線であった。恐らくは内心で馬鹿にしているのであろう。
だが、レオルドは特に気にはしていない。多くの人間に馬鹿にされても真に理解してくれる人が少数でもいてくれるなら、自分は大丈夫だとレオルドは思っている。
しばらくは家族と共に過ごしていたが、各々別れて仲の良い友人のもとへと散る。
そしてレオルドだけが一人残された。何せ、王都にレオルドと仲のいい友人などいないのだから。学園ではよく一緒に行動していた人間はいたが、それらは公爵家の権力が目当ての寄生虫のようなものだ。
レオルドという圧倒的な権力者に縋りつき、甘い蜜を吸うだけの寄生虫だ。
(う~ん! ぼっち!)
悲しくはない。だって、今は美味しい料理があるのだから。会話はないが、胃袋は喜んでいるので他の事は気にならない。
「見ろ、金色の豚が卑しくもフォークやナイフを使っている」
「くくっ。本当だ。味がわかっているのだろうか」
(聞こえてるからな? 陰口なら聞こえない所で言えよ。それとも俺が反撃しないと思って、ワザと聞こえるようにしてるのか?)
美味い飯も不味くなるからと、レオルドは離れた場所で一人料理を食べる。陰口を言ってきた人間を叩き潰すのは簡単だが、そんなことをすれば両親に迷惑が掛かってしまう。
折角、自分を信じてくれた二人の思いを裏切る事は出来ない。
そんな風にレオルドが一人で料理を食べ進めていると、いきなり肩を叩かれる。振り返ってみると、そこには騎士団長ベイナードがはにかみながら立っていた。
「ベイナード団長!」
「よく来たな、レオルド! また会えて嬉しいぞ!」
「俺もです。とはいってもそんなに時間は経ってませんが」
「はははっ! 確かにな!」
「それより聞きたいんですけど、もしかして陛下に俺のことを話しました?」
どうしてもレオルドは気になっていた。あまりにも国王がレオルドの情報を知っていることに。これは、誰かが話したに違いないと。
そしてその誰かは、陛下が信用するに値する人物に違いないと感じていた。
「うむ! 部下からお前の事を聞いてな! これは陛下にお伝えせねばなるまいと、俺が話しておいた!」
「道理で……」
レオルドは過去の所業からあまり信じては貰えないだろうと思っていたのに、割とあっさり信じてくれたのだから戸惑うのも無理はない。
しかし、答えが分かってしまえばどうということはない。
今、目の前にいる、王国でも信頼が厚い騎士団長の言葉だ。国王も疑うはずがないだろう。
「それより楽しんでいるか? 先程から一人で寂しそうにしているが」
「料理は美味しいですよ。ただ、他の方とは気が合わないので」
「ああ、そうか。確か、お前は悪さばかりして嫌われていたのだったな! はははっ! すっかり忘れていた。まあ、お前が仕出かした事など可愛いものだがな。だが、婚約者を他の男に襲わせたのは見過ごせんが」
「うっ……はぃ」
「しかし、わからんな~。今のお前を見る限りではそのような事をする人間には思えん。もしかして、悪魔にでも乗っ取られていたのか?」
「いえ、そんなことはないです。ただ、強いて言うなら決闘で思いっきり殴られた衝撃で、色々と思い出しただけです」
「ぷっ、はははっ! そうかそうか! 殴られた衝撃か! それなら、もっと早くに父親かあの執事にでも殴られるべきだったな!」
「ええ、全く……」
気心の知れた相手というわけではないが、一度剣を交えて戦った相手だ。他の貴族を相手にするよりもよっぽど気分がいい。
レオルドは笑いながら、ベイナードとの会話を楽しんだ。
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