第60話 ちょっとは成長してるのよ
レオルドが意識を失った事で、勝負はベイナードの勝利で幕を閉じる。
気絶して倒れているレオルドへギルバートが駆け寄り抱き起こす。レオルドに大きな怪我はなく、ベイナードが手加減してくれたのがわかると、ギルバートはベイナードへと顔を向ける。
「実に見事な試合でした。恐らく、坊ちゃまも多くのことを学べたでしょう」
「ははは。それはこちらも同じ事だ。久しぶりに面白いと思った」
それはお世辞ではなく、先程の戦いを純粋に面白いと思ったからこその言葉だった。多くの敵と戦ってきたベイナートがそう評価したのだ。
これは諸手を挙げて喜んでいいほどの評価であるが、残念ながら評価されている本人は気絶してしまっている。
「剣を教えたのはギルバート殿ではないな。バルバロトか?」
「は、はい。私がレオルド様に指南しております」
「そうか。なら、苦労しているだろう。レオルドの才能に」
「ええ。それはもう。指南役として日々負けじと励んでいます」
「ははははは。羨ましい限りだ。俺もこれ程の男を育ててみたいものだ」
チラリとレオルドを見て、ベイナードは話を続けようかとした時、一人の騎士がゼアトから走ってくる。
「こ、ここにおられましたか……」
息を切らしている騎士は恐らくベイナードを探し回っていたのだろう。
ベイナードは何事かと騎士へ振り返る。
「何かあったのか?」
「いえ、報告がございまして、周辺地域を調査した結果、モンスターパニックは完全に終息したとのことです」
「おお! そうか。では、王都へ帰還するとしようか」
「はっ!」
騎士は礼儀正しく敬礼すると、踵を返してゼアトへと戻っていく。
騎士を見送った三人は続くようにゼアトへと帰還する。
ギルバートは抱えているレオルドを医務室のベッドへと寝かせると、医務室を後にした。
しばらくしてレオルドの目が覚める。見上げた先には以前から見たことのある天井がある。レオルドは自分が敗北した事、気絶して運ばれた事を理解する。
上体を起こして周囲をぼんやりと見回す。自分以外誰もおらず、レオルドはもう一度ベッドに寝転がる。
少しの間天井を見続けていたが、次第にレオルドの視界は滲んでいく。
(悔しいな~。本気でやったのに、まるで通じなかった。ギルやバルバロトとは違って俺の手の内を知らない相手だったのに、何も通じなかった。手加減されてたのがよくわかる……。頑張ってきたのに、まだまだだな。俺は)
今まで必死に頑張ってきたのに、その努力が全く報われなかった事にレオルドは悔しくて涙を流しそうになる。
だが、その時、医務室に誰かが入ってくる。レオルドは慌てて目元を擦り涙を拭う。
「誰だ?」
「坊ちゃま。起きられたのですか」
「ギルか……」
医務室にやってきたのはギルバートだった。レオルドは上半身を起こして、ギルバートと向かい合う。
「一人だけか?」
「はい。あの二人からは目が覚めたら教えてくれと頼まれてますので」
「そうか」
二人とは恐らく、バルバロト、ベイナードの二人の事だろうとレオルドは予想する。ギルバートはレオルドと少し話しをすると、レオルドが完全に目が覚めた事を二人に知らせに戻った。
やがて、ギルバートが二人、バルバロトとベイナードを引き連れて医務室へと戻ってくる。レオルドが二人に声を掛けようかとした時、ベイナードがレオルドが声を掛けるよりも先に近付いて声を発した。
「起きたか、レオルド!」
「は、はい。ご心配をお掛けして申し訳ない」
「そんな事はどうでもいい。俺としては、先程の模擬戦で見せたお前の戦いっぷりを語りたくて仕方がないのだ!」
「は、はあ。えっと、どこを説明すれば?」
「うむ。やはり、サンダーボルトが直撃したところだな!」
「ああ、あそこですね。あの時は魔法障壁と物理障壁の同時展開、及びに土の壁を形成して衝撃を防ぎました」
「なんと! 器用な事をするのだな!」
単純に器用な事だと褒めているが、実のところレオルドが行った魔法障壁と物理障壁の同時展開は至難の業である。
運命48の世界では、魔法を防ぐ魔法障壁と物理攻撃を防ぐ物理障壁の二つが存在する。これらはどの属性にも分類されない魔法で誰でも習得可能だ。ただし、両方を同時展開となると途端に難しくなる。
なぜなら、異なる障壁を二つ同時に展開し、それを維持し続けなければならないのだから。
ゲームでの場合は一ターン毎に使用が出来る。同時に展開出来るキャラは一人しか存在していない。勿論、レオルドではない。
ただ、レオルドが出来る様になったのは魔法の鍛錬中に起きたアクシデントが切っ掛けであった。
たまたま暴発した魔法を防ぐ為、反射的に障壁を張ったら2つ同時に出来たのだ。その時は咄嗟にやった事でどうやったのかは分からなかったレオルドだが、一度出来たのならまた出来るはずだと猛特訓した成果が、異なる障壁の同時展開だ。
「それよりも、ベイナード団長は最後に俺の魔法を受けましたよね?
なんで効かなかったんですか?」
「あれか? あれはレジストしたに過ぎんよ」
「あ、ああー! そうか。レジストがあったか……」
レオルドはやっと気がついた。元々、運命48では魔法に対して
ショックウェイブは格下の相手には確定で決まるが、同格には半分程度で、格上には一割程度しか決まらない。
そして、ベイナードはレオルドにとって間違いなく格上の相手であるため、レジストされたのだ。
「まだまだ甘かったわけですね……」
「まあ、そうだな。だが、お前の戦いは見事なものだったぞ。今後も怠ることなく鍛錬を励めば俺を超えることも出来よう」
「~~~ッ!」
王国で最強に近い男から、評価された事にレオルドは感動に震えた。
自分の努力は確かに実を結ぶことはなかったが、それでも認めてもらえる事が出来たのだ。レオルドは涙を我慢するのが精一杯であった。
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