第52話 誰がオークじゃい!

 魔物の軍勢の中心へと飛び込んだレオルドは、魔法を味方に誤射してしまう恐れもなくなった為、思う存分その力を発揮した。


「アクアエッジ!」


 詠唱を破棄してレオルドは魔法名だけを唱える。レオルドの背後に水の刃が形成されると、レオルドが脳内で指定した方向へと飛んでいく。


 本来ならば動作を加えて魔法を発射するのが当たり前だが、レオルドは動作をすることなく魔法を放つことが出来る。

 常日頃から、魔法の鍛錬を欠かさなかったレオルドが身に着けた得意技の一つだ。


 レオルドは魔法で遠くの魔物を殺し、近くの敵を剣で斬り殺す。同時に二つのことを行うレオルドの頭の中は一杯一杯だった。

 必死に頭で考えて、体を動かして並列作業を行っていた。冷静な顔を見せてはいるが、心のなかではヒイヒイ言っている。


 ただ、それでもレオルドは戦わねばならない。多くの騎士達から託された願いの為に。


「うおおおおおおおおお!!!」


 雄叫びを上げながらレオルドは跳躍すると、オーガに向かって剣を突き立てる。


「ゴアアアアアアアア!?」


 痛みに悶えるオーガが暴れるがレオルドは突き立てていた剣を振るい、首を刎ねる。ピューッと噴水のように血を流すオーガ。その血を浴びてしまったレオルドは自慢の金髪が赤く染まった。


 だが、一切気にする事はなく、次なる魔物を殺すためにレオルドは戦場を駆ける。

 戦場を駆け回るその姿は畏怖すべき対象なのだが、いかんせんレオルドの体型がどうしても別の物を想像させてしまう。


「るぅぅぅあああああああああ!!!」


 勇ましく咆哮を上げながらレオルドはバッサバッサと魔物を斬るのだが、その光景を見ていた一人の騎士がボソリと呟く。


「女を前に発情したオークみたいだ……」


 思わず口に出してしまった騎士は、仮にも公爵家の人間に、ましてや助けに来てくれた相手に対する評価ではなかったと口を塞いだが、時既に遅し。

 他の騎士も同意見だったようで頷いている。確かにその通りだ、と。


 かくしてレオルドの評価は上がったのだが、侮辱された名前を授かる事になる。

 レオルドは今はまだ知ることはないが、知った時どのような反応を見せるかは誰もわからない。


 対してレオルドはそんな評価を下されているとは知らずに、今も懸命に戦っている。

 そして、意図してやっているわけではないがレオルドはブフーブフーと息を荒げている。これのせいで余計な拍車が掛かってしまう。


 荒ぶる金色オークと。


 勿論、レオルドとしてはわざとやっているわけではない。返り血の所為で顔にまで血が付いてしまったので口呼吸をしたら、血を飲んでしまうかもしれないとレオルドは鼻で大きく呼吸をしているだけだ。


 ただ、傍から見れば鼻息を荒げて女を前に発情したオークにしか見えないそうだ。悲しき評価である。


「ロックインパクト!」


 レオルドは地面を踏みつけると、地割れが走り魔物の足元が爆発したように吹き飛ぶ。巻き込まれた魔物は動けなくなる。だが、這いつくばってでも前に進もうとしている。

 そこへレオルドは近付いて剣を突き刺して止めを刺す。剣を引き抜いたレオルドは飛び掛かってきた魔物に一閃。バラバラと真っ二つにされた魔物はレオルドの魔法で埋葬される。


「……数が減っている?」


 探査魔法を使っていたレオルドだからこそ気がつけた変化だった。先程までは、どんどん増えていたのに今は数が減りつつあった。


 もしかして、これが最後なのではと希望的観測を胸に抱いたが、現実はいつも非情で残酷だということ思い出して頭を振る。


「考えるのは止そう。今は目の前の敵に集中しなければな」


 レオルドは一旦考えるのを止めて、襲い掛かってくる魔物を迎え撃つ。


 そして、レオルドが無視したジェネラルオーガはレオルドを追わずに満身創痍で動けない騎士に注目していた。

 円柱の上にいるがジェネラルオーガからすれば、大した高さでもない。それに破壊することも可能だろう。


 醜悪な笑みを浮かべるジェネラルオーガは、飢えを満たそうと動き出す。

 しかし、その歩みは一人の人物によって止められる事になる。


「やれやれ、坊ちゃまは年寄りの使い方が荒いですな……」


 ジェネラルオーガは首を傾げる。先程まで、目の前には誰もいなかったはずなのに、どうして人間が立っているのだと。


 まあいい。この目の前にいる人間も喰らえば腹は多少膨れるだろう。そう思い。ジェネラルオーガはギルバートへと手を伸ばす。


「悲しい事です。平時のジェネラルオーガならば力量が測れていたでしょうに」


 ギルバートは悲嘆の息を吐く。モンスターパニックで理性を失っていないジェネラルオーガだったら、相手の力量も確かめずに手を伸ばすことなどしないというのに。

 嘆かわしいことだとギルバートは、ジェネラルオーガが伸ばした腕を蹴り上げた。


「ガ……ア?」


 伸ばしたはずの腕が、どうしてダランとして垂れ下がっているのだろうと理解が出来ていないジェネラルオーガ。

 そんなジェネラルオーガの眼前に影が飛び込んできた。影が何だったのかわからないジェネラルオーガは、いつの間にか視点が下がっており横を向いていた。


「眠るがいい。永遠とわに」


 立ち去っていくギルバートの後姿を見て追い掛けようとするが、ジェネラルオーガはゆっくりと瞼を閉じて絶命する。


 圧倒的な強さを見せ付けるギルバートに見ていた騎士達は開いた口が閉じなかった。

 レオルドの奮闘も目を見張るものがあるが、ギルバートのはそれ以上だ。


 ジェネラルオーガはオーガよりも何十倍も強く強靭な肉体を持っている。

 それを単独で討伐、しかも無傷の勝利。これには騎士達も言葉が出てこない。


 万全の状態のバルバロトでさえもジェネラルオーガが相手だと厳しいものがある。それを自分達の倍は歳を取っているギルバートが倒すものだから、驚くのも当たり前だろう。


 とは言ってもジェネラルオーガはゲームだと中盤以降に良く出てくる雑魚になる。多少、防御力と攻撃力が強いだけで他に特筆すべき点はない魔物なのだ。


 ゲームでは悲しき存在かもしれないが、ゲームの中だけだ。現実ではジェネラルオーガは十分脅威である。それを易々と倒せてしまう運命48の主人公ジークが異常なだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る