第51話 待たせたな! ヒーローは遅れてやってくるものさ

 激しい戦闘を繰り広げていた決死隊であったが、ついに限界が訪れる。


 それは最悪の形で。


 最前線で一騎当千の力を振るっていたバルバロトが地面に片膝を着いたのだ。

 バルバロトが戦う事を放棄したわけではない。連戦に次ぐ連戦でバルバロトの体は、疾うに限界を超えていた。

 しかし、気力だけで動かしていた体もバルバロトの意思に反して動かなくなってしまった。


「なぜ、なぜ、今なんだ! 頼む! あと少しだけでいい! 動いてくれ……」


 動く事ができないバルバロトは自分の足を殴るが、既に立ち上がる力さえも尽きていた。


 精神的支柱となっていたバルバロトの離脱に決死隊の騎士達も釣られるように戦闘不能に陥っていく。


「ここまでなのか……!」


 まだ心は戦えると叫んでいるのに、身体が応えてはくれない。

 動けないバルバロトにジリジリと魔物が周囲を囲むように近付く。

 だが、そんな絶望的な状況でもバルバロトは決して諦めない。


「来い……! 足は動かずとも腕は振るえるぞ! 剣の錆にしてくれるわっ!!!」


 強気の発言をするバルバロトだが魔物には通じない。魔物からすれば瀕死の獲物が多少強がっている程度にしか見えていなかった。


 だから、餓えていた魔物はバルバロトを食べようと一斉に飛び掛った。


(さらばです。レオルド様!)


 最後の力を振り絞ってバルバロトは飛び掛ってきた魔物へと剣を突き出したが、バルバロトの下から地面が盛り上がり円柱になる。円柱の上にいたバルバロトは窮地を逃れる。


「な、何が……?」


 戸惑うバルバロトは周囲を見渡すと、他の騎士達もバルバロトと同様に土で出来た円柱の上にいるのを確認する。


「これは……! まさか!?」


 このような芸当が出来る人間は限られている。土属性を扱う魔法使いだ。そして、決死隊の全員を救えるような人物にバルバロトは心当たりがある。


 見上げた先にいたのは、太陽の光に反射され煌く金髪にずんぐりむっくりなシルエットの男。


 レオルド・ハーヴェストである。


「危機一髪といった所か」


 レオルドは砦の上から見下ろしている。最初は正面から向かうつもりだったが、門を開ける必要があったので急遽階段を必死に駆け上がった。

 おかげで大分遅れてしまったが、ここ一番と言う所で間に合う事は出来た。


「では、反撃と行こうか」


 砦の上に格好付けて立っていたレオルドはギルバートを引き連れて飛び降りる。

 身体強化を施しているレオルドはかなりの高さがあった砦から降りても平気であった。

 華麗に着地して決まったと心の中で賛美を送ろうとしたが、尻の方からビリッと嫌な音が聞える。

 恐らく、ズボンが破れてしまったのだろう。幸い、防具を付けているのでバレる事はないがギルバートには分かってしまうだろう。


 チラリと後ろにいるギルバートを見ると、呆れたように溜息を零していた。羞恥に顔を赤く染めるレオルドは気を取り直して、立ち上がる。


「決死隊の騎士達よ! よくぞ、ここまで持ち堪えてくれた! お前達の奮闘がなければ今頃ゼアトは落ちていただろう。誇れ、お前達は偉業を成し得たのだ! このレオルド・ハーヴェストが証人となろう!」


 その言葉にどれだけの騎士達が感銘を受けただろうか。

 自分達はここで死にゆく運命さだめと覚悟をしていたのに、まさか生き延びるとは思いもしなかったのだから。


 だが、まだ終わってはいない。確かに決死隊の命は救われただろうが、戦いは終わってはいないのだ。


「我が双肩には多くの想いがある。我が背中には多くの願いを託された。ならば、この想い、この願い! 俺が叶えてみせようぞ!!!」


 レオルドが天高くに向かって声を出す。

 そして、詠唱を始める。


「審判の時来たれり、いかずちを司りし神よ。その鉄槌を以って、我が敵に判決を下せ!」


 快晴だった空に暗雲が現れると空を覆い尽くす。雷鳴が鳴り渡るかと思えば、静かな空で不気味な雰囲気だ。


 そして、レオルドが魔法を紡ぐ。


「ジャッジメントサンダー!!!」


 天から雷が降り注ぐ。

 それは神が下した罰の証。


 幾百、幾千と雷は降り注ぎ魔物を殲滅していく。サンダーボルトとは比べものにならない圧倒的な光の量に熱量であり、発動したレオルドもビビッて動けないでいる。ゲームではマップ内にいる指定した敵全てに雷を落とす仕様で、敵の数だけ雷が降り注ぐ魔法だ。まさか、これ程とはレオルドも予想していなかった。


 その光景はまさに神罰という言葉が相応しい。


 やがて、雷が収まり、暗雲が晴れて太陽が世界を照らす。

 レオルドの眼前には焼け焦げた魔物の死体が溢れている。ようやく、終わったとレオルドは一安心したが、探査の魔法にはまだ沢山の魔力反応があった。


 勿論、それが人か魔物かは区別が出来ない。ゲームならば判別出来たが、現実世界ではそれが出来なかった。


 一安心していたレオルドも警戒をして、こちらへと近付いて来る魔力反応に備える。

 そして、森の中から出てきたのは想定を遥かに上回る魔物であった。


「ジェネラルオーガだとはな……」


 ジェネラルオーガは通常のオーガよりも何十倍も強い。例えるならば、赤子と大人くらいの差がある。


 先頭にジェネラルオーガを確認して、後ろにはオーガに加えてオーク、コボルト、ゴブリンの軍勢がいた。


 ぐちゃぐちゃと仲間であっただろう同族を口にしている魔物は次なる獲物を見つけたと、レオルドを見て喜んでいる。


「さすがにもう一発は撃てそうもないか」


 そうは言うがまだまだ撃てる魔力をレオルドは保有している。現在、多くの騎士と魔力を共有しているレオルドの魔力は数百人分である。


 大規模な広範囲魔法で殲滅する方が早いのだが、そうそう連発は出来ない。

 甚大な被害を土地に与えてしまう事もあるが、モンスターパニックの終わりが見えない状況では魔力を大量に消費する事はよろしくない。


 後先考えずに撃ち続ければ、先日のように魔力切れで意識を失ってしまうかもしれない。それに、ここでレオルドが倒れてしまえば決死隊の努力も、レオルドへ想いを託した騎士達の全てが無駄になってしまう。

 それだけは絶対にあってはならないことだ。


「ふう……いい運動になるかもしれないな。ギル、背中は任せたぞ!」


「お任せください。何人たりとも坊ちゃまへは指一本触れさせませんから」


「頼もしい限りだっ!」


 ギルバートの返事を聞いたレオルドは飛び出す。ジェネラルオーガを相手にするのは危険だと判断したレオルドはジェネラルオーガを無視して魔物の軍勢へと飛び込んだ。

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