第50話 死ぬことが決まっていると書いて決死隊だ
ゼアト砦の森付近では、バルバロトを筆頭とした決死隊がモンスターパニックを食い止めていた。
夥しい数の死骸が転がっており、その上を魔物と騎士が戦っている。質では騎士の方が上であるが数は圧倒的に魔物の方が多い。
ゴブリンを始めとした魔物の集団は、どんどん膨れ上がっており決死隊だけでは持ち堪えれそうにない。
既に何体もの魔物がゼアトへと向かっている。砦が防衛拠点としての機能を発揮して、突破はされていないがゼアトの出入り口である門は魔物の攻撃により形を歪めていた。
「おおおおおおおおっ!!! これ以上は突破を許すな! 門が破られたらお終いだぞ!」
門を攻撃していた魔物をバルバロトが一掃する。しかし、どれだけバルバロトが奮闘しようとも魔物の数が多すぎる為、時間稼ぎ程度にしかならない。
最早、ゼアト砦が突破されるのは時間の問題である。
そこへさらに追い討ちを掛けるような報告が上がってくる。
「ゴブリンメイジとゴブリンナイトを確認しました!」
「なにっ!? ここに来て上位種だと……!」
「トロールです! トロールが現れました!!」
「なあっ!? くっ……ここまでなのか」
ゴブリンにも職業の名前を持つ種類が存在しており、職業持ちはゴブリンの中でも上位種として記録されている。
ゴブリンメイジは名前の通り、魔法を扱うゴブリンで格上の魔物すら殺せるが近接戦には滅法弱い。なので、発見した場合は魔法を撃たれる前に接近して殺すのがセオリーだ。
そして、ゴブリンナイトは騎士と同じく甲冑を身に纏い剣を携えているゴブリンだ。こちらは近接戦を得意としており、遠距離から弓矢で射るか、魔法で殺すのがセオリーとなっている。
「くっ、くそ!」
ゴブリンナイトと剣を打ち合う騎士は悪態を吐く。普通ならばゴブリンナイトは無謀な特攻はしてこないのに、今は理性を失い、ただ餌を求めて暴れている。
「グギャギャアッ!?」
「ぐわああああああ!?」
「なっ!? 味方ごと魔法を撃ちやがった!」
ゴブリンナイトと剣を打ち合っていた騎士は突如飛んできた火の玉に包まれて地面を転がる。そして、ゴブリンナイトの方は火に包まれて塵と化した。
「こ、こいつら……!」
あまりにも非道な行為に騎士達は怒りを感じていた。
だが、モンスターパレードとは違い、仲間意識すら無くした魔物はどれだけ残忍なのかを改めて思い知らされた。
「トロールだ! 囲め!!!」
別の場所では現れたトロールの対応に追われていた。
トロールは、オーガよりも弱いとされているが実際はトロールの方が厄介なのだ。トロールには再生能力があり、魔法以外では殺すのは難しい。
魔法以外だと、トロールの再生能力は魔力を消費するので、魔力が尽きるまで殺し続けるか、再生できないほど細切れにするしかない。
故に魔力がある限り不死身のトロールはオーガよりも相手にしたくない敵なのだ。
「足を切れ! とにかく動けなくして時間を稼ぐしかない!」
懸命に戦う騎士を嘲笑うかのように次々とトロールが姿を現す。
最早、希望はない。ここにあるのは絶望だけだ。
そこへ更なる追い討ちとしてオーガが姿を見せた。一体、二体、三体と森の中から次々と出てくる。
決死隊は死を覚悟はしていたが、ここまでの事態になるとは想定していなかった。
自分達はここで魔物の軍勢に蹂躙されるのだろうと剣を落とそうとした。
だが、その時――
「諦めるな!!! 我らはアルガベイン王国の誇り高き騎士であろう! 魔物如きに我らが誇りが砕けてなるものか! 祖国の為、愛する者の為に剣を捧げたのだ! なればこそ、誇りを胸に立ち向かう時だ! この命、平和の礎となるならば喜んで差し出してやろう! だが、貴様ら魔物如きに我が命はそう易々とくれてなるものかああああああっ!!!」
――門をたった一人で死守していたバルバロトが声高らかに飛び出した。
返り血で染まった鎧を身に纏い、血に濡れた剣を携え、バルバロトは魔物が集まる中心部に躍り出る。
「るぅぅぅおおおおおおおおおおお!!!」
修羅の如くバルバロトは暴れる。敵しかいない戦場はバルバロトに全ての枷を外させる。
縦横無尽にバルバロトが剣を振るうと鮮血が舞い、血飛沫が降り注ぐ。
全身が血に染まり真っ赤になったバルバロトの眼光はギラリと次の獲物に向けられる。
身体強化を施しているバルバロトのスピードは理性を失った魔物には捉える事は出来ない。
一つ、二つ、三つと魔物の首が宙を舞う。その光景は恐怖であっただろうが、騎士にとってはとても心強いものとなった。
折れかけていた心に再び炎がつき、闘志を帯びた瞳で騎士達は魔物を見据える。
『我らはここに在り! 誇りを胸に! 剣を振るおう! いざ、往かん!!!』
決死隊は自身の最期をこの場所と決めた。最初から決まっていた事だが、心のどこかに援軍を待ち望んでいる自分がいた。だが、バルバロトの奮闘を見て、その思いは消えた。
援軍など不要。
我らが強さをここに示そう。
理性を失った魔物と熱き闘志を宿した決死隊の最後の攻防が始まる。
獅子奮迅の活躍をしているバルバロトは複数のオーガを一人で相手していた。
オーガはバルバロトを殺そうとするが、バルバロトの速さに翻弄される。本気のバルバロトに手も足も出ないオーガは次々と殺されていく。
バルバロトは一旦オーガを狙うのを止めて、トロールへと向かう。
トロールは厄介な再生能力を持っているが、オーガほどの力はない。それでも、オークなどに比べれば力は強い。捕まったりすれば、忽ち握り潰されて殺されてしまうだろう。
だが、今のバルバロトを捕まえるのは至難の業。トロールでは捕まえる事などできはしない。しかし、トロールも一筋縄にはいかない。
バルバロトがどれだけ斬り刻もうと、再生して元に戻るのだ。
「だから、なんだと言うのだ! ならば、再生出来ぬ速度で斬り殺してくれる!!」
トロールがどれだけ再生をしようとも、バルバロトは再生を上回る速度でトロールを斬り刻む。何度も何度も斬り刻み、トロールの再生する速度を完全に上回ると、バルバロトはトロールを細切れにして見せた。
有言実行とはまさにこの事である。バルバロトは速度を落とすこと無く、次のトロールを細切れにした。
圧倒的な強さを見せつけるバルバロトに決死隊の騎士達も触発されていく。
魔物と決死隊の戦いは激しさを増していった。
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