第47話 子守は大変ですな

 レオルドは今、使い果たした魔力の回復に専念する為、目を閉じて瞑想を行っている。

 魔力とは運命48の世界にある謎の力であり、魔法を行使すると消費される代物だ。この魔力は、魔素と呼ばれる物質を体内に取り込むことで魔力へと変換するのだが、細かいことはよく分かっていない。


 さて、レオルドが瞑想を始めてからほんの数分。レオルドの魔力は僅かながら回復していた。瞑想を行えば魔力が回復するという設定はゲームには無かった。

 だがレオルドは、ものは試しだと一度瞑想を行ってみた時、それで魔力が微量ながらも回復することを知った。だから今瞑想を行い、魔力を回復させている。


 ただ瞑想による魔力の回復量は本当に微量な為、回復薬や睡眠に比べると物足りない。しかし、今は文句は言っていられない状況なので、目を閉じて魔力を回復させる為に瞑想を続ける。


「ふう……」


 魔力がどう言ったものかは理解出来ていないが、幼少の頃から、魔力とは目に見えぬ不可思議な力だという認識があるおかげで上手く扱える。

 真人の記憶から読み取れば何とも都合の良い力だと思うが、この世界は異世界なのだからと割り切っている。


 それに魔力という不可思議な力のおかげで、物理法則を無視した奇跡の所業とも言える魔法を扱えるのだから、これで文句を言ってはばちが当たるというものだ。


 しばらくの間休息を取っていた第一部隊と第三部隊だったが、森から魔物の咆哮が聞こえて来た為、臨戦態勢を整える。


「ちっ……もう少し休ませろ」


 レオルドはあまり休めなかったようと、思ったよりも魔力が回復しなかったことに愚痴を零すが、物理的にも精神的にも重たい身体を持ち上げて魔物の襲撃に備える。


 そうして、レオルドたちが臨戦態勢を整えて数秒後には魔物の大群が姿を現した。

 相変わらず馬鹿げた数に辟易するが、ここで負けるわけにも、諦めるわけにもいかない。


「さてと、やるかね……!」


 先陣を切ったのはバルバロトだ。津波のように押し寄せてきた魔物の大群へと真っ正面から突っ込んで魔物を斬り伏せた。

 バルバロトに続くように騎士達も続々と斬り込み、魔物を減らしていく。


 勿論レオルドも見ているばかりではなく、回復した魔力を消費して身体強化を施すと魔物の大群へと突撃した。

 敵味方入り乱れた乱戦の中、レオルドは必死に戦う。ただ、やはりまだまだ実戦経験が少ないレオルドは、何度か危ない場面に遭ってしまう。


 だがレオルドが傷つくことはない。なぜならば、レオルドを守るようにギルバートが立ち回っているからだ。


(ギルのおかげで周囲に気を配らなくてもいいけど、このままじゃいけないよな。俺はもっと強くならなくちゃいけないんだ。この身に待ち受けているであろう死の未来を変えるために)


 ギルバートの力を借りながらもレオルドは魔物を次々と殺していく。

 バルバロトやギルバートに比べればお粗末な戦い方ではあるが、普通の騎士達からすればレオルドも十分に凄まじい戦果を上げていた。


 ただ、レオルドはどうしても二人と比べてしまうので自己評価が低い。傍から言わせれば嫌味な感じであるが、レオルドは口にはしないので誰にも文句を言われる事はない。


「おおおおおおおお!!!」


 バルバロトが最前線で吼える。相手はどうやらオーガのようだ。厄介な敵が出てきたが、バルバロトがいる限りは問題ない。

 ただし、複数の場合は異なる。バルバロトがオーガを圧倒できると言っても複数のオーガに襲われればバルバロトも無事では済まない。


「ちぃっ!!!」


 一体のオーガを斬り捨てるバルバロトに、五体ものオーガが襲い掛かる。流石に五体も同時に相手は出来ないバルバロトは、大きく舌打ちをしながら後方へと下がる。


 それを見ていたレオルドは、側にいるギルバートへと指示を出した。


「ギル。バルバロトの援護に向かってくれ」


「それは出来ませぬ。私はベルーガ様より坊ちゃまを守るように言われてますので」


「頼む。お前だけが頼りなんだ!」


「……申し訳ありません」


 動こうとしないギルバートに苛立ちを隠せないレオルドは歯軋りをする。ギリギリと苛立つレオルドは、襲い掛かってきた魔物を力任せに剣を振るって殺した。


「なら、俺が助けに向かう。それならば、問題はないだろう?」


「なりません! 今の坊ちゃまではオーガを相手にするのは危険です!」


「ふ……お前がいる。背中は任せたぞ、ギル」


 レオルドはニヤリと口角を上げると、バルバロトの元へと一直線に駆け出した。


「お、お待ちください! 坊ちゃま!!」


 手を伸ばすギルバートだがレオルドは魔物を斬り伏せてバルバロトの元へと向かった。

 レオルドがバルバロトの元に近付くと、バルバロトと戦っていたオーガがレオルドへと標的を変えた。


 バルバロトよりもレオルドの方が弱いと判断した結果だ。その事にレオルドは悔しくなるが、事実なので何も言えない。


(俺なら殺せると思ってるんだろ? なら、後悔させてやるさ! 俺を狙わなければ良かったってな!)


 オーガは猛スピードでレオルドへと飛び掛る。オーガの手がレオルドの顔を掴むかと思われた時、レオルドへと伸ばしたオーガの腕が鮮血を撒き散らしながら宙を舞った。


 突然のことにオーガは理解出来なかったが、レオルドの後方に水の刃が浮かんでいるのが目に飛び込んできて理解した。自分の腕はあの水の刃で切り裂かれたのだと。


 理解した時にはもう遅かった。レオルドの後方に浮かんでいた水の刃はオーガを細切れにする。


「バルバロト! 跳べっ!」


 レオルドが何をするかも分からないのにバルバロトはレオルドの指示に従って跳躍した。

 跳躍したバルバロトをオーガが追い掛けようとしたが、オーガは突然下に落ちる。

 何が起こったかわからないオーガは落下してくるバルバロトに脳天を貫かれて絶命した。


「察しが良くて助かる」


「レオルド様が何をしたいかなんて手に取るようにわかりますよ」


「ありがたいことだ。では、続きと行こうか!」


 ようやくバルバロトの元へと辿り着いたレオルドはオーガに囲まれてしまう。いつのまにか、数を増やしていることに苛立ちを見せたが、すぐに苛立ちは治まった。


 レオルドとバルバロトを囲んでいたオーガは音もなく首を無くしたのだ。倒れるオーガの背後から、少々ご立腹であられるギルバートが姿を現す。


「坊ちゃま。私が何を言いたいか分かってますね?」


「……説教は後にして欲しいんだが」


「はあ~。わかっていますとも。まずはここを切り抜けましょう」


「ギルバート殿と肩を並べて戦える日が来るとは光栄ですな」


「バルバロト殿。無駄口は叩かないように」


「ははっ! これは手厳しい。では、参るとしますか!!!」


 朗らかに笑ったバルバロトは顔を引き締めると、一人飛び出して魔物と戦い始める。

 オーガといった脅威になる魔物が確認され、全体的に数も増えてきた。


 そんな中、レオルド、バルバロト、ギルバートの三人は次々と魔物を殺していく。

 その光景を遠目に見ていた騎士達は息を呑む。三人が活躍する姿に。


「バルバロトは当然だが、あの執事は何者なんだ?」


「あの人はバルバロトが言っていた人だと思うが恐ろしく強いな……」


「それよりもレオルド様もあんなに強かったんだな。悪評ばかり聞いてたから、大したことはないと思ってたんだが……」


「昔は強かったらしいぞ。最近は悪さばかりしていたって話だが……」


 噂とは当てにならないものだと騎士達は思ったが、後に噂は事実だと知って驚くことになる。

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