第46話 詠唱は中二病だけど、カッコいいのよ

 魔物の殲滅は順調に行われていたのだが、ここで問題が発生する。

 魔法で戦局をコントロールしていたレオルドが片膝をついてしまったのだ。


「くっ……!」


 苦悶の汗を浮かべるレオルドは、ショックウェイブが効果的だと分かってから、ずっと連発していた。

 そのせいで、レオルドの魔力は限界に近付いていた。他の魔法使いよりも圧倒的な魔力量を誇るレオルドも短時間で詠唱破棄の魔法を連発すれば魔力が底を着くのは目に見えていた。


 だが、例え限界が分かっていたとしても一匹でも多くの魔物を殺そうとレオルドは必死になっていた。それを止めることが出来ようはずが無い。


 レオルドが片膝をついて荒い呼吸を繰り返している様子を見て騎士達は、レオルドが魔力切れなのだと悟る。


 騎士達はこれ以上の援護は期待出来ないと覚悟していたが、レオルドの目は死んでいなかった。

 まだやれる、まだ頑張れる、まだ戦える、とレオルドは己を鼓舞して立ち上がる。


「空を引き裂く雷鳴、天を焦がす黒雲こくうん、我が呼び掛けに応え給え」


 レオルドが詠唱を始めると空に黒雲が現れて、空を覆いつくす。ゴロゴロと雷鳴が響き渡り、レオルドの詠唱が完了をするのを待っている。


「穿て一条の光よ、轟けいかずち!」


 詠唱は終わる。レオルドが手を空にかざして叫ぶ。


「全員、避難せよ!!!」


 レオルドがこれから何をするのか理解した騎士達は顔を真っ青にして、その場を離脱する。

 全員が離脱した事を確かめるとレオルドは空にかざしていた手を振り下ろして魔法名を唱える。


「サンダーボルトッッッ!!!」


 ズガガガーンッと鼓膜を破壊するような轟音が鳴り渡り、視界を真っ白に染める光が目を覆いつくす。あまりの光量に目を開けることは出来ず、ただ音だけで判断した。


 光が収まり、目を開けるとそこには焼け焦げた魔物の死体が溢れかえっていた。

 信じられない光景に騎士達は度肝を抜かれて、戦々恐々と騎士達はレオルドを見詰める。


 対してレオルドはあまりの威力と光景に意識が飛んでいた。


(はっ! 意識が飛んでた……。 ってか、やば!!! 俺がやったんだよね!? 凄くない!? いや~、一度も試した事なかったけど、これは危険ですわ)


 恐らく落雷で焼け焦げた魔物と大地を見てレオルドはあまりの威力に控えようと決めた。

 しかし、殲滅戦においては莫大な戦果を得る事が出来るとわかった。だからといって、乱用するつもりはないが。


「よし。こっちから攻める――ぞぉ?」


 意気込んで攻めようとしたレオルドはふらついて倒れてしまいそうになる。そこへ、誰よりも早くギルバートが駆け寄りレオルドを支えた。


「大丈夫ですか、坊ちゃま?」


「あ、ああ。すまない。少しふらついてしまった」


 そう言って歩き出そうとするレオルドは、またふらついて倒れてしまいそうになる。そして、またギルバートがレオルドを支える。


「坊ちゃま。恐らくですが魔力を使い果たしてしまったのでは?」


「……そんなことはない」


「見れば誰でもわかるくらい消耗しております。隠した所で意味がありません」


「すまん……」


 申し訳なさそうに俯くレオルドにバルバロトが近付く。


「騎士、一同を代表して感謝します。レオルド様」


「一時しのぎに過ぎない。まだまだ魔物はいるだろう。だから、礼などいらん」


「確かに仰るとおりですが、一時でも休まる時間を貰えたのです。ならば、感謝の言葉を述べるのは当たり前ですよ」


「……そうか。なら、しっかりと身体を休めよ」


「はっ!」


 バルバロトは第一部隊と第三部隊に休息を取るように指示を出す。流石は鍛えられた騎士であって、誰一人文句を言うことなく休息を取り始めた。

 レオルドとしては、このような焼け焦げた死体が沢山ある中では休憩など考えられなかった。てっきり、砦に戻るものばかりだと思っていたから驚いている。


 束の間の休息が戦場に訪れる。つい、先程までは数え切れない程の魔物を相手にしていたのに、今は静寂が世界を支配している。

 これも全て、レオルドが放ったサンダーボルトのおかげだ。


 しかし、サンダーボルトはここまで強力な魔法だとは露程も思わなかったレオルドは首を傾げて考える。

 元々、サンダーボルトはライトニングの上位互換のような魔法だ。


 ライトニングが点の攻撃ならサンダーボルトは円の攻撃である。単体に対してならライトニングで、複数を相手にするならサンダーボルトが有効である。

 ゲームだった時は円の範囲にいる敵へダメージを与えて、円の中心に近いほど大きなダメージを受けていた。


 ただ、やはりここは現実なのでゲームとは違う。レオルドが放ったサンダーボルトは周囲一帯を雷で吹き飛ばした。

 結果だけを見れば最上なのだが、下手をしたら騎士達も巻き込んでいたかもしれない。そう考えると、やはりサンダーボルトの使用は控えようとレオルドは思った。


 それにしても、このモンスターパニックはいつになったら終わるのだろうとレオルドはぼんやりと考えた。全滅させるまでは終わらないと聞いていたが、これではこちらが力尽きてしまう。


 そもそも、ゼアトに駐屯している騎士団だけで対応しろと言うのが理不尽なのだ。仕方が無いとは言え、これではあまりにも惨い。


 万を超える魔物に数百人程度の戦力では太刀打ち出来るはずもない。一人で百殺せばいけるかもしれないが、普段よりも凶暴になっている魔物だ。しかも、死を恐れずに飢えを満たそうと襲い来る姿は精神的疲労も大きい。


 むしろ、よく持ち堪えている方だと褒めてやりたい。

 だが、残念ながら褒めて貰いたければモンスターパニックを終息させて生き残る他ない。

 中々に難しい案件ではあるが、レオルドとしてはシナリオどころかシナリオ外で死ぬなど以ての外だと鼻を鳴らした。


「ふん……気に食わん。何が何でも生き残ってみせるからな」

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