第45話 やはり、主役は俺!

 既に怯えはない。

 バルバロトの勇姿をしかと見た。


 ここは戦場。見渡せば周囲は魔物だらけで囲まれている。

 だが、恐れる事はない。教えて貰ったのだ。ギルバートとバルバロトに戦う術を。


 先程のような失態はもう許されない。見てくれているギルバートとバルバロトに落胆されたくないから。

 だから、レオルドは自分の両頬を思いっきり打つと、気持ちを入れ替えた。


「行くぞ……!」


 身体強化を施して戦場を駆け抜けるレオルドは、その勢いのまま剣を振り抜き、魔物を両断する。

 上半身と下半身に分けられた魔物はドシャッと音を立てて倒れる。だが、死んではいない。

 上半身だけになった魔物は這い蹲るようにレオルドへと手を伸ばす。レオルドはまだ生きている魔物に感心しながらも脳天へと剣を突き刺して止めを刺す。


(やば……! 真っ二つにしても死なないのか。横じゃなく縦が正解か。しかし、見た感じ腕を切っても足を切っても襲ってくるみたいだな。痛みを感じていても食欲が痛みを凌駕してるってことか……)


 レオルドは魔物を斬り殺しながらも冷静に戦場を観察する。

 騎士が魔物の腕を斬り落としているが、魔物は痛みに悶えながらも騎士へと襲い掛かっている。

 普通なら、本能に従って逃げ出すような場面だが、これがモンスターパニックの恐ろしい所なのだと理解した。


 確実に殺さなければ、敵は四肢をも失おうとも飢えを満たす為に襲い掛かって来るのだ。

 本能が食欲で支配され理性を失った凶暴な魔物は脅威としか言い様がない。例え、油断していなくても一つのミスが命取りになりかねない。


「ちっ……」


 忌々しいとレオルドは舌打ちをする。ギルバート、バルバロトの両名に毎日鍛えられているおかげでゴブリン、コボルト、オーク程度ならば相手にはならない。

 だが、いくら実力が勝っていようとも数の上では圧倒的に不利なのは頂けない。


 現に疲弊している騎士の魔物を殺す速度が落ちている。それに加えて魔物からの攻撃を受けて負傷者が増えている。

 衛生兵として回復術士はいるが、負傷者の数が多くてカバーしきれていない。


 このままだと、しばらく経たない内に撤退を余儀なくされるだろう。既に、戦い続けている第三部隊はバルバロトを除いて疲労がピークに達している。


 今、戦っていられるのはバルバロトが見せた光景が大きく影響しているからだろう。体力ではなく気力で動いているに違いない。


 それにとレオルドは共に応援として来た第一部隊に目を向ける。第三部隊に比べると、まだ動けてはいるが肩で息をしている者が増えている。

 休息を取ったがまともに休めていなかったのだろう。仕方がない。今は、モンスターパニックと言う非常に厄介な災害が起こっているのだから安心して休めるはずもない。


「……バルバロト! 跳べっ!」


「御意!!!」


 最前線で獅子奮迅の活躍を見せていたバルバロトにレオルドは指示を飛ばす。すかさず、バルバロトは跳躍をして空へと移動する。

 バルバロトが空へと移動したことを確認してレオルドは詠唱を破棄して魔法を発動させる。


「ショックウェイブ!」


 レオルドの手から扇状に電撃が放たれる。前方にいた魔物は避けることも出来ずに電撃を浴びてしまう。

 しかし、電撃を浴びた魔物は死ぬことはなかった。詠唱を破棄したから威力が出なかったのかと騎士達は疑うが、レオルドは気にせずバルバロトへ指示を出した。


「バルバロト! 敵は麻痺して動けないはずだ! 今のうちに数を減らせ!」


「ッ! はい!」


 一瞬レオルドが何を言っているか理解出来なかったバルバロトだが、レオルドが言う事に間違いはなかったと信頼を寄せて着地したバルバロトは麻痺して動けない魔物を斬る。


(本当に動かない! やはり、レオルド様は凄い! これなら戦局を変えることもできる!)


 バルバロトは本当に動かない魔物を楽々と殺していく。一切の抵抗をしない相手など、赤子の手を捻るよりも簡単だった。


 だが、バルバロトが次の魔物へと斬りかかった時、魔物は動き出して抵抗してきた。だからと言って、バルバロトの敵ではない。


 その様子を見ていたレオルドはバルバロトへと質問を投げた。


「バルバロト! 魔物はどれだけの時間、麻痺していた?」


「およそ十五秒! 今の所個体差はありません!」


「良い情報だ! 助かる!」


 レオルドはショックウェイブで麻痺させられる時間が分かると笑みを浮かべる。

 ショックウェイブはゲームだと前方に扇状の波形で電撃を浴びせる魔法だ。範囲は広いが威力はほとんどない。しかし、その代わりに受けた相手を麻痺状態にして一ターン行動を阻害するといった効果がある。


 だが、しかしここは現実であってゲームではない。つまり、一ターンという概念は存在しない。なら、ショックウェイブを撃てばどうなるかを検証するしかなかった。


 人相手に試す真似はレオルドには出来なかったので、今まで効果があるのか、一ターンではなくどれくらい麻痺が続くのか分からなかった。

 しかし、ようやく判明させることに成功した。

 ショックウェイブは魔物を麻痺状態にして十五秒もの間動けなくするということが分かった。


 戦場でこの十五秒がどれだけ大事かはバルバロトが証明してくれた。

 あとは、ショックウェイブを使い騎士と連携して戦局を覆すだけだ。


「この場にいる全騎士に告げる! これより先、俺が魔法で魔物を止める! 止められる時間はおよそ十五秒! 十五秒を過ぎると敵は動き出すので注意せよ! では、ゆくぞ!!!」


『はい!!!』


「ショックウェイブ!!!」


 レオルドが放つ扇状の電撃は魔物たちを襲う。電撃を浴びた魔物は次々と麻痺して行動不能になる。

 最大の好機を得た騎士達は動けない魔物を殺していく。そして、十五秒が経過して動き出す魔物から騎士が離れると、見計らったようにレオルドがショックウェイブを放つ。


「勝機は我らにあり!!! 行くぞ、皆の者!!!」


 バルバロトが最前線で剣を振り続け、レオルドがショックウェイブで活路を見出す。


「今の坊ちゃまを旦那様がご覧になったら、腰を抜かすでしょうなぁ……」


 密かに笑みが零れるギルバートの周囲には、首から上が存在しない魔物の死体が溢れていた。全て一撃で殺している上に返り血を全く浴びてない所を見ると、やはり伝説の暗殺者は伊達ではない。

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