第44話 主役は俺じゃないけど、それでもいい!
少し漏らしてしまったレオルドだが、しっかりと役目を果たす為に前へと出る。
剣を抜いたレオルドに魔物が襲い掛かる。新しく現れた餌を前に魔物達は衝動を抑えきれない。
食欲に支配されている上に、多少は痩せたがまだまだ贅肉だらけのレオルドは魔物達からすれば極上の肉にしか見えなかった。
「悪いが俺を食っても美味くはないぞ」
襲い来る魔物をレオルドは一閃。そのまん丸な身体で、よくそれだけ動けるものだとレオルドを見ていた騎士達は感心している。
レオルドは一切気を緩めずに襲い来る魔物を次々と斬り伏せる。しかし、数が多すぎる。レオルドは僅かながら集中を乱してしまい、魔物の攻撃を許してしまう。
「しまっ――」
眼前にゴブリンの爪が迫ったと思ったら、あらぬ方向に爪は伸びていく。
一体何が起こったのかとゴブリンを見たレオルドは目を見開く。
レオルドに襲いかかったはずのゴブリンは首から上が存在しなかったからだ。噴水のように首から血を噴き出してゴブリンは倒れる。
どういうことなのかと疑問に感じたが、すぐにその疑問は晴れる。
「モンスターパニックは常に魔物が襲い来るのです。敵を倒したからと言って気を緩めることなく常に気を引き締めるように」
「あっ、はい……」
戦場だと言うのにギルバートは集中を乱して魔物に攻撃を許してしまったレオルドを説教する。
ここが戦場だと言うことを忘れているのかと、怒鳴りつけたくなる光景なのだが先程から襲い掛かる魔物は悉く頭をギルバートに粉砕されている。
四方八方から絶え間なく魔物が襲い掛かっているが、ギルバートは涼しい顔で魔物を確実に殺しながらレオルドへの説教を続けた。
とんでもない光景に騎士達は目玉が飛び出るのでは、と言うくらい凝視してしまう。
勿論、魔物はそのような事情は知ったことないと襲い掛かるが簡単にやられるほどゼアトの騎士は弱くない。
次々と騎士達は魔物を殺し数を減らしていく。だが、騎士達が奮闘するも魔物の数はどんどん増えていく。
減っていく速度よりも圧倒的に増える速度の方が早く、騎士達の表情も曇っていく。
そして、戦い続けていた第三部隊に怪我人が続出する。疲労が溜まっていた所を狙われてしまったようだ。
怪我人の援護と救援に向かう人員を割いて、戦線が崩れかける。
「うわああああっ!」
「ぐあああっ!?」
「ぎゃあああっ!!」
このままでは一気に戦局が傾き、不利になると判断したギルバートだが動こうとはしなかった。
何故ならば、ここにはもう一人頼りになる人間がいるからだ。
「はああああああああああっっっ!!!」
大きく跳躍したバルバロトが剣を地面へと突き刺した。
すると、バルバロトを中心に地面がひび割れて魔物達は体勢を崩した。ここが好機だと全ての騎士が駆ける。
「おおおおおおお!!」
「死ね! 死ね! 死ねぇぇえ!」
「くたばれ!!」
魔物への恨み辛みを吐きながら騎士達は魔物を殺していく。
その様子にレオルドは若干引いているが、ここが本物の戦場なのだと理解させられる。目を背けることは許されず、目を瞑ることは出来ず、ただその光景を脳裏に刻みながらレオルドも魔物を殺し回る。
「ゴアアアアアアアア!!!」
突如として戦場に魔物の咆哮が響き渡る。とてつもない声量にビリビリと空気が震えて、騎士達は耳を塞いだ。
「くっ……この鳴き声は!」
バルバロトが憎らし気に振り向く先にいたのは、真っ赤な身体に人間の倍はある巨体を持ち二本の角を生やした
ゴブリン、コボルト、オークなど前座に過ぎない。真の恐怖は絶望は惨劇はこれからが本番だとオーガは空に吠える。
そして、他の魔物同様に正気を失って凶暴性を増しているオーガが走り出した。一歩一歩が尋常ならざる力で地面を陥没させている。
我武者羅に走って迫る姿は恐怖そのものだ。ただでさえ、オークを上回る巨体を持つオーガだ。怖くないはずがない。
現に多くの騎士とレオルドは恐怖に呑まれていた。どうしようもなく恐怖に怯えてレオルドは動けない。動こうにも足が言うことを聞かない。
逃げなければいけないのに、逃げる事すら出来ないレオルドは助けを求めるようにギルバートに目を向けるが、ギルバートはゆっくりと腕を伸ばして前方へと指を指した。
前を見ろ、とギルバートは示している。ならば、疑うことなどなくレオルドは前を見る。
そこには、剣を構えて威風堂々とオーガの前に立ち塞がるバルバロトがいた。
「我が武勇を見よ!!! 恐れるな! 前を見よ、俺がいる!!! 我が眼前にいかなる敵がいようとも悉くを斬り伏せて見せようぞ!!! ならば、恐れる必要は無い!!」
剣を掲げてバルバロトは大きく息を吸って腹の底から声を出す。
「戦士よ、立ち上がれ……剣を取れ! 今こそ己が武勇を示す時だ!!!」
恐怖に呑まれていたレオルドはその言葉に、その背中に確かな勇気を感じた。
自身よりも強大な相手だろうと退くことをしないバルバロトは誰よりも格好よく見えた。
「バル……バロト……ッ!」
「うぅぅぅおおおおおおおおおおおっ!」
バルバロトがオーガと同じように咆哮を上げて駆け出す。オーガとバルバロトが遂にぶつかる。
ただ喰らう為に。
ただ殺す為に。
互いに一切の思考を捨てて、眼前の敵を喰らおうと、眼前の敵を殺そうと。
オーガは丸太のように太い腕を振るい、バルバロトは一条の閃きを繰り出した。
「ゴアアアアアアッ!?」
オーガの腕が宙を舞い、バルバロトの剣がオーガの腕を斬り落としたことを証明する。
正気を失っていても痛みは分かるオーガは苦悶の雄叫びを上げている。
「
「ガッ……アァ……」
痛みに悶えているオーガの首を斬り落としたバルバロト。血飛沫がバルバロトを濡らしている中、レオルドは見惚れていた。
(カッコよ!!! 怖いけどめっちゃカッコイイ!! やばっ、興奮してきた)
バルバロトの勇姿に当てられたのか、レオルドは興奮してしまう。
自分もいずれあのようなカッコイイ男になりたいと願ってしまったのだ。なら、ここで怯えている訳にはいかない。
覚悟を示す時が来たのだ。
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