第48話 虚勢は張ってなんぼじゃろがい!
サンダーボルトを放ち、第二波と呼べるような魔物の大群と戦っていると、第一部隊と交代した第二部隊が応援に駆けつけてきた。
既に疲労がピークに達して、やっとの思いで動いている第三部隊は救援に来てくれた第二部隊に喜んだ。
「バルバロト! 第二部隊が到着した! 我々、第三部隊は一時後退し休息を取る! 急いで戻れ!」
第三部隊の隊長がバルバロトに向かって告げるが、バルバロトは戻ろうとしない。
「バルバロト! 聞こえないのか!」
「聞こえています! 私は残りますので、隊長は隊員を連れて先に行ってください!」
「馬鹿なことを言うな! お前は確かに強いが無限に戦えるわけではないだろう! いいから、戻って来い!!!」
「後で追いつきますから、俺のことは気になさらずに!」
レオルドは二人のやり取りを聞いていて、このままでは埒があかないと判断して口を挟んだ。
「バルバロト。上官命令には従え」
「しかし、レオルド様。俺が抜ければ戦線は傾きますよ?」
「ほう? 俺がそんなに頼りなく見えるか?」
「そうは思っていませんが全体的に見れば、自分でも分かるでしょう?」
実際、バルバロトの言うとおりで全体的に戦場を見渡せば多くの騎士が疲弊しており、息も絶え絶えで今を凌ぐのが精一杯という状況だ。
もし、ここでバルバロトが抜ければ、今までバルバロトが抑えていた前線が崩れてしまい、一気に戦況は魔物側に傾くだろう。
「随分と俺を見くびっているようだな。俺が本気を出せばこの程度どうということはない」
「ははっ。強がりはよして下さい」
少々、レオルドの言い方にバルバロトは苛立ったようで近くにいた魔物を乱暴に殺した。
「俺の魔法を見ただろう? あれを見たのに俺を信じれないのか?」
「確かに凄まじい威力ではありましたが、あれはレオルド様も万全な状態だったから出来たこと。今のレオルド様にもう一度撃てますか?」
「はっ! 舐めてもらっては困るな。俺が出来ると言うのだ。できるに決まっておろう」
「……そこまで言うのならば見せて貰いましょうか」
レオルドを信じてはいるが、虚勢を張るのは許せないバルバロトは怒気を含んだ静かな声でレオルドへと願う。
「ああ。なら、よく見ておけ」
レオルドは後方へと下がり、詠唱を開始する。
「母なる大地よ、我が意思に共鳴せよ。飲み干せ大地、暴食の晩餐は今ここに!!」
ゴゴゴッと地鳴りが響き渡り、魔物も騎士も立っていられないほどの揺れが起こる。
「グラトニーガイア!!!」
大地が裂けると、奈落が生まれて魔物が吸い込まれるように落ちていく。逃げようとした魔物も足元にヒビが入ると、地面が裂けて魔物は飲み込まれていく。
次々と魔物が奈落の底に飲み込まれる光景を見た騎士達は恐怖に震える。レオルドがまだこれほどの力を秘めていたことに。
そして、多くの魔物を飲み込んだ大地は抜け出そうとしている魔物を容赦なく潰した。引き裂かれた大地は元に戻り、残ったのは騎士たちだけであった。
「ふ……」
鼻で笑い、バルバロトにドヤ顔でも見せてやろうかとしたが、レオルドはそのまま横に倒れた。
倒れたレオルドに慌ててギルバートが駆け寄り、レオルドを抱き起こすもののレオルドは完全に意識を失っていた。
「坊ちゃま!? 坊ちゃま!」
ただ事ではないと衛生兵が駆け寄り、レオルドの様子を確かめる。
脈も正常で心臓も機能しているのを確認した衛生兵はレオルドが魔力切れを起こしたことを知る。
「落ち着いてください。恐らくレオルド様は魔力切れを起こしてしまったようです。しばらくは目が覚めないでしょうが、命に別状はありません」
「そうですか……よかった」
単なる魔力切れと知ってギルバートは安心する。ギルバートはレオルドを抱えると、バルバロトへと視線を向ける。
「坊ちゃまが稼いだ時間を無駄にするおつもりか?」
「っ! 直ちに砦へと避難しましょう」
ギルバートの一言で正気を取り戻したバルバロトは第三部隊と共に砦へと避難する。レオルドが大規模な魔法を使ったおかげで、後退はスムーズに行われた。
砦内へと戻ったバルバロトとレオルドを抱えたギルバート。ギルバートはレオルドを医務室へと運び、ベットに寝かせるとバルバロトと共に砦の外壁へと上る。
「静かですな」
「……」
「バルバロト殿。貴方にしては珍しく坊ちゃまに腹を立たせておりましたな」
「申し訳ない。分かっていたのですが、あの状況ではどうしても許せなかったのです。多くの騎士が疲弊しており、剣を振るうのもやっとという者もいる中、レオルド様の発言は不用意に希望を持たせるものでした。確かにレオルド様はサンダーボルトで一時は魔物を殲滅させました。しかし、誰が見ても魔力が切れて立っているのも不思議なくらい消耗していた。にも関わらず虚勢を張った。いくら少し回復したといってもサンダーボルトをもう一度撃てるほどではないだろうと私は思ってしまった。だから、虚勢を張るのはやめろと、無闇に希望を持たせるのはやめろと、怒ってしまったんです」
一度、そこでバルバロトは言葉を区切り、重苦しく息を吐いた。
「もしも、レオルド様の発言が虚勢だけであったならば、気力だけで立っていた騎士は崩れ落ち、戦線は崩壊していたでしょう。そう考えると、怒らずにはいられませんでしたから」
「仰るとおりですな。正直、私も耳を疑いました。ほんの少し前の傲慢な坊ちゃまに戻ってしまったと落胆しましたから。ですが、坊ちゃまは強がりでもなく、純然たる事実を叩き付けて見せたのです。現に私は坊ちゃまが倒れるまで、目の前の光景に目を奪われておりました。これでは従者失格です」
「悔しいですね。レオルド様のことを信じていたと自分では思っていたはずなのに」
「本当にその通りです。自分が情けない」
落ち込む二人は同時に溜息を吐いた。
二人が落ち込んでいる間、レオルドは目を覚まさなかった。
日が暮れて夜が来る。夜は魔物の味方で人の敵であった。視界が悪い中、第一部隊と第二部隊は懸命に戦った。
だが、バルバロト、レオルド、ギルバートの三人が欠けたのは致命的であった。
負傷者が増えて、戦線を下げることになってしまう。幸い、まだ死者が出ていないことだけが救いである。
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