第41話 軍事力は把握してるんだよぉ!
ベルーガからの一報により王城は騒然としていた。大臣達が慌しく動き回っており、騎士を纏める騎士団長も忙しそうに走り回っている。
ベルーガからの報告から既に三日が経っており、迅速な対応を求められ彼を含む公爵家が王城に集められていた。
重苦しい雰囲気で机を囲んでいる貴族たちの前に国王が姿を現す。席に着いていた貴族たちは立ち上がり国王へと頭を下げる。
「これより緊急会議を始める。既に周知していると思うが、此度ゼアトにてモンスターパニックが発生した」
モンスターパニックと言う言葉にざわめく貴族達であったが、国王の一言により静かになる。
「静粛に。前回、モンスターパニックが確認されたのは今から三十年ほど前だ。当時の被害は村が三つ、町が一つで犠牲者の数は行方不明者を含めれば千を超えている。故に此度のモンスターパニックに私は騎士を一万、ゼアトへと派遣させようと思う」
「陛下。恐れながら、騎士を一万も派遣するのは些か過剰ではありませんかな? 聞くところによると、ゼアト近郊でモンスターパニックが発生したとのこと。堅牢な砦に守られているゼアトならば、一万の援軍は必要ないかと思いますが?」
「ふむ。確かにゼアトの守りは堅牢であろうが、モンスターパニックは昼夜を問わず、普段よりも凶暴性を増した魔物が襲い掛かってくるのだ。私は一万でも少ないと思うのだがね」
「ですが、陛下。ゼアトにも駐屯している騎士がおります。彼らは常日頃から、魔物という脅威からゼアトを守っている屈強な騎士たちです。もしも派遣するなら数を減らすべきです。一万は補給物資も馬鹿になりませんからな」
「なるほど。だが、ゼアトが落ちれば次に狙われるのは、どこか分からぬぞ。モンスターパニックはモンスターパレードと違い、明確な目的もなく、ただ食料を求めているのだからな」
これには意見を述べていた貴族も押し黙る。国王の言うとおり、モンスターパニックは食料を求めて無闇矢鱈と周辺の村や町を襲うのだ。
モンスターパレードであればゼアトの次に狙われるのは間違いなくベルーガが治める領地ではある。
モンスターパニックは地震や台風と同じで人知を超えた災害なのだ。だから、人が理解しようなど不可能に近い。
「さて、他に意見はないか?」
国王はもう一度貴族たちを見渡して意見を求める。すると、一人の貴族が手を挙げる。
手を挙げたのはモンスターパニックが発生したゼアトを治めるベルーガだ。
「陛下。恐れながら私も一万の援軍は過剰かと」
静観していた貴族達に動揺が走る。今回、モンスターパニックが発生したゼアトを治めているベルーガが反対意見を言うなどと誰も思わなかったからだ。
普通ならば、自身の領地が危機に陥っているのだから助けを請うべき立場だ。なのに、拒絶する意味が分からない。
「……何故だ? ベルーガよ、お前の領地であろう? 何故、一万は過剰だと? お前はゼアトを領民を見捨てるつもりか?」
「いいえ、陛下。現在、我が国にいる騎士は十万と言われています。モンスターパニックは確かに脅威ではありますが、我が国の騎士を一割も動員させるのは得策ではありません」
「ならば、他に案があるのか?」
「ありません。ですが、国の要である騎士を一割も動員させるべきではありません。二千もいれば充分かと」
「それでは少なすぎるだろう。ゼアトが落とされればどうなるかは分かっているだろう?」
「はい。ですから、ゼアトの後方に騎士を派遣してくださればと」
「それは、ゼアトを見捨てるということか?」
「違います。モンスターパニックは陛下も述べたとおり無差別に襲い掛かってきます。ならば、ゼアトではなく別の村や町を襲う可能性があります。なので、堅牢な守りをしているゼアトよりも騎士を派遣すべき場所はゼアトと違って守りが薄い村や町にすべきです」
「そうか。私とした事が見落としていたな。お前の言うとおりだ。ゼアトへの派遣は騎士二千名とし、ゼアト周辺地域に八千名の騎士を派遣する。他に意見はないか?」
席についている貴族たちをぐるりと見渡す国王に誰も意見を述べる事はなかった。
「では、これにて緊急会議を終了とする」
国王が最初に会議室を出て行くと、順次階級順に部屋を出て行く。
ベルーガは用意された部屋に行くと、どっと疲れたのか大きく息を吐きながらソファに沈む。
疲れているベルーガはぼんやりと天井を眺めていると、国王であるアルベリオンが訪れる。
「大丈夫か?」
「なんとかな……しかし、ああも露骨に攻めてくるとは……」
「まあ、今回の一件でお前の地位を落としたいのだろう。
モンスターパニックで甚大な被害が出れば責任を問われるのはお前だからな」
「わかってはいるが……ままならぬものだな」
「仕方あるまいよ。我々の祖父も父も通ってきた道だ」
「はあ……今日は少し付き合ってくれ」
「いくらでも」
精神的に疲れているベルーガは酒を飲まなければやっていられないと、国王であり友であるアルベリオンと酒を飲み交わした。
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