第42話 ヒロイン増えすぎでは?
人の口に戸は立てられぬ。ことわざ通りに一部の貴族しか知らなかったモンスターパニックはジークフリートがいる学園にまで情報が広まっていた。
とは言っても世間の事には疎いジークだ。まだ、モンスターパニックのことを知らない。
ただ、学園が少し騒がしいということには気がついている。
「なあ、エリナ。最近、学園内が騒がしいけど何か知ってるか?」
「ジーク、貴方何も知らないの?」
「あ、ああ。もしかして、皆知ってるのか?」
「まあ、一部の人間はね。でも、大半が噂しか知らないはずよ」
「噂? そんなに珍しいことでもあったのか?」
「はあ~……本当は教えちゃいけないんだけど、貴方なら問題ないわね。実はゼアトの方でモンスターパニックが起こってるの。だから、学園の方も少しざわついているのよ」
「へえ~……ところでモンスターパニックってなんだ?」
「貴方、そんなことも知らないの?」
呆れたように額を押さえるエリナにジークは申し訳なさそうに謝る。
「す、すまん。まさか、みんな知ってて当たり前のことだったか?」
「まあ、普通は知ってると思うけど……知らない子もいると思うわ。だって、前回のモンスターパニックが起こったのは私達の親が子供の頃くらいですもの」
「え!? そんなに昔なのか?」
「ええ。当時は大変だったそうよ。村が三つに町が一つで犠牲者は行方不明者を含めて千人を超えたって話ですもの」
「そんなことが!? 大丈夫なのか? 俺たちも助けに向かった方がいいんじゃないか?」
「もう既に騎士団が向かったわ。私たちに出来ることは何もないの。だから、安心なさい」
「そうか。誰も死ななきゃいいけど……」
「私としては豚が死んでくれたら嬉しいけどね」
「豚? ゼアトは豚を飼ってるのか?」
「あー、気にしなくていいわ。それよりも、今度のテスト勉強しなさいよ」
「うっ、そうだった」
エリナの言う豚とはレオルドのことだ。ジークは気がついていないがレオルドは多くの恨みを買っている。
エリナに対しては特に何もしていないが、エリナの友人であるクラリスに対して許されないことをしているのでエリナはレオルドのことを大層嫌っている。
「まあ、あの豚が死んでベルーガ様やオリビア様が悲しむ顔は見たくないけれどね」
「ん? 何か言ったか?」
「独り言よ。気にしないで」
呟くエリナの言葉は誰の耳にも残らない。ただ、エリナはレオルドを嫌っていても親であるベルーガやオリビアは敬愛していた。
だからこそ、敬愛する二人が悲しむ顔を見たくはないと嘆いてしまった。
「どーん!」
「うおっ!?」
「なっははー! お疲れ、ジーク!」
「コレット! 貴方、またジークに抱きついて!」
「えー、いいじゃん。別にー。ジークは嫌だった?」
「嫌じゃないけど、いきなりは止めて欲しいな」
「そっかー。じゃあ、今から抱き締めます!」
「そういう問題じゃないでしょ!」
勉強をしているジークに突然抱きついたのは、運命48に出てくるヒロインの一人、コレット・バーニラ。
快活な性格で誰とでも分け隔てなく仲良くなる反面、多くの男子に誤解を産ませる小悪魔である。
「コレットちゃん。ダメだよ。ジーク君の邪魔をしちゃ」
「ええー。クラリスもエリナと同じこと言うのー?」
プクーと頬を膨らませるコレットにクラリスは怒るに怒れない。
「クラリスの言う通りよ。今、ジークは今度のテストに向けて勉強してるんだから邪魔をしないの」
「諦めちゃおうよ、ジーク!」
「なんてこと言うんだ! 連続で赤点は不味いだろ?」
「開き直ればいいんだよ!」
「いやいや! そもそもコレットは頭いいから、そんなこと言えるんだろうけど俺は崖っぷちなんだ。次に赤点取ったら、補習地獄が待ってるんだぞ。みんなとの約束があるから、絶対に赤点は回避しなきゃいけないんだ」
ジークは戦闘面では類稀なる才能を発揮するが、頭脳面ではお粗末な頭をしている。だから、難しいことはあまり考えられないが単純な考えで動けるので思い切りが良い。
長所でもあり短所でもあるが、本人はそれでいいと思っている。
「あ、そっか! じゃあ、私も勉強見てあげるね!」
「おお! それは頼もしいな!」
「あ、あの! 私もお手伝いしますね!」
「クラリスも見てくれるのか! 助かるよ!」
「ちょっと、ジーク! 私だけじゃ不満てことかしら?」
「そんなことないって。エリナが見てくれるのは凄い力になるよ」
「ふ、ふん。まあ、私が勉強を教えてあげて赤点を取られた日には私の評価まで下がるんだから、しっかりしてよね!」
流石はエロゲの主人公である。三人ものヒロインに囲まれながら勉強を進めていく光景は、まさしく主人公の特権だ。
ちなみに、まだ三人しかヒロインはいないがいずれ出会うことになっている。必然なので必ず出会う。
一応、女性だけじゃなく男性の友人もいるがこの場にはいない。理由は見て分かるとおりで、ヒロインの邪魔をしない為である。
もしも、この場にレオルドが出くわしたら呪詛を撒き散らしたに違いないが、今レオルドはモンスターパニックに向けて鍛錬に励んでいる頃だ。
彼らが再び交わる日はそう遠くないかもしれない。
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