第36話 体は正直なんだ……
魔力共有を騎士達として、数時間が経過した。既に調査隊の半数は魔力が枯渇して座り込んでいる。
ほとんどの騎士が座り込み、魔力の回復に専念している間、レオルドは黙々と穴を掘り進めていた。
(まだか? まだ出てこないのか? 確かにここだと思ったんだけど、違ったのか? 皆の魔力を貸してもらっておいて、何も出ませんでしたなんて許されない。なんとしてでも掘り当てなきゃな!)
レオルドは内心焦っていた。魔力を共有してまで無理に作業を進めているのだから、水を掘り当てなければならないと。
だが、間違っている。レオルドを責める者はいないのだ。人間誰しも間違いはある。
今回の調査も必ず水源を見つけなければいけないと言う訳ではない。見つからなければ別の方法を見つけるだけ。
ただ、視野が狭くなったレオルドにはそれが分かっていない。だから、今のように無茶をしてしまう。
「ハア……ハア……ッ!」
額の汗を拭いながらレオルドは穴を掘り進める。その姿に騎士達は感心するものの、どうしてそこまで頑張るのかが分からない。
どれだけの時間が経過したのだろうかとレオルドは虚空を見詰める。調査隊の魔力も使い果たし、残ったのは僅かに回復した自身の魔力のみ。
もうこれ以上の作業は無理かもしれないとレオルドは諦めかけた時、今までとは違う感触に首を傾げる。
(ん? なんだ? 岩盤か?)
不思議に思ったレオルドは小石を穴に投げ入れる。耳を澄ましてみると、かすかに水の音が聞えた。
幻聴なのではないかとレオルドは自分を疑い、バルバロトを呼び寄せる。
「バルバロト! これから、穴に小石を落とすから音を確かめてくれ!」
「わかりました!」
バルバロトは四つん這いになり、穴へと耳を近づける。レオルドはそこまでする必要があるのかと思いながら、小石を穴へと落とした。
ポチャンと小石が水に落ちる音がバルバロトの耳にしっかりと届いた。すぐさま、立ち上がりレオルドの手を取り喜びの声を上げる。
「レオルド様! 水です。水の音が聞えました。レオルド様は間違ってなかったのです!」
「そうか……そうか。幻聴ではなかったんだな」
「はい! ゼアトへと戻り、報告しましょう!
きっと、皆喜びますよ!」
「そうだな。そうしよう」
掘り当てた本人以上に喜んでいるバルバロトを見て、レオルドは少しだけ微笑んだ。自分が間違っていなかった事と水不足を解決できる事にレオルドはホッと息を吐いた。
しかし、ゼアトへ戻ろうとしたが調査隊のほとんどが魔力切れで座り込んでいる為、戻ろうにも戻れない。
「申し訳ありません……」
「いや、謝るのは俺のほうだ。ペース配分を考えずに魔力を借りてしまったんだからな。水を掘り当てる事に集中しすぎていた俺の落ち度だ。すまん」
頭を下げるレオルドにざわつく騎士達だが、レオルドがどういう人間なのかを調査の最中に知っているので、謝罪を受け入れた。
調査隊の魔力が回復するまでの間はやる事がなくなったレオルド。
レオルドは夕暮れ時となっている赤い空をぼんやりと眺めていた。
(ゲームには無いイベント。これからも起きるだろうな~)
運命48では語られなかった舞台に立つレオルドは今後も色々と面倒な事が起きるのだろうなと憂いていた。
死亡フラグもある上に知らないことも多いのでレオルドは未来に心配しか抱けない。
「レオルド様。調査隊の魔力は最低限まで回復しました。これでゼアトへと戻れます」
「わかった。ならば、急いで戻るとしよう。もうすぐ夜が来るからな。夜になる前にはゼアトへと戻ろうか」
「はい!」
調査隊は必要最低限の魔力が回復したので、大急ぎでゼアトへと戻る事になる。夜は視界が悪い上に、夜行性の魔物の領域なので危険が多い。だから、調査隊は帰り道を急いで戻ったのだった。
ゼアトへと調査隊が戻った頃には月が空を支配していた。夜にはなってしまったが無事に戻れた事に調査隊は喜ぶ。
「レオルド様――」
背後から聞える声にビクリとレオルドの肩が震える。レオルドは恐る恐る声の主へと振り向く。すると、そこには満面の笑みを浮かべるギルバートが立っていた。
「ギ、ギル……出迎えか?」
「ええ。予定よりも大幅に遅れているので何かあったと思いまして、急いできた所存です」
「そ、そうか。心配をかけたな」
「はい。本当に心配しましたよ」
満面の笑みを浮かべていたギルバートはギラリとレオルドからバルバロトへと視線を動かす。
「バルバロト殿。貴殿がいながら何故これほどまでに時間が掛かったのですか?」
ギルバートは調査隊の隊長を務めているバルバロトに非があると思っており、責めるような口調で問い質した。
「待て。ギル! 俺の責任なんだ。俺が無茶を通したから、予定よりも遅くなってしまったんだ。だから、バルバロトを責めないでくれ」
「ふむ……説明をしていただきましょうか。バルバロト殿」
「説明をする前に部下を帰してもよろしいでしょうか?」
「勿論ですとも。もう夜ですからな。帰って家族を安心させるべきです」
「心遣い感謝します」
バルバロトは調査隊を解散させる。残ったのはレオルドとバルバロトのみ。
バルバロトは予定よりも大幅に調査の時間がずれてしまった事を説明する。
「では――」
――ぐぅううぎゅるるる
「……すまん」
「どうやら、レオルド様のお腹がこれ以上は待ちきれないと申しているので後日お聞きしましょう」
「ふふ、そうですな。では、また明日」
暗くて分からないが恥ずかしさに俯いているレオルドの顔は真っ赤に染まっていた。
ギルバートもレオルドの空腹音を聞いて、肩の力が抜けてしまい、バルバロトとの話は明日にする事に決めた。
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