第37話 三人寄れば文殊の知恵のはずでは?

 翌日、バルバロトは調査の報告の為にレオルドの屋敷へと赴いていた。応接室にはレオルド、ギルバートの二人がバルバロトを待っていた。

 シェリアに案内されてきたバルバロトがソファに腰を掛けて調査の結果を報告する。


「まず、先日の調査が予定よりも遅れたことについてですが、水源の発見に時間が掛かりすぎたことが原因です」


「ふむ。水源を見つけることができたのですな。それは喜ばしい結果です」


「はい。しかし、大幅に時間が遅れてしまったことは謝罪をするしかありません」


「ギル。先日も話したが俺が無茶を通したせいで遅くなったんだ。バルバロトに責任は無い。だから、責めないでくれ」


「勘違いしておりますぞ、坊ちゃまは。確かに坊ちゃまが無茶をしなければ予定通りに調査は終わっていたでしょうが、最終的に判断を下すのは調査隊の隊長であるバルバロト殿です。隊長としての責務が発生するのは当然のことなのですよ。隊員が判断を誤った場合でも責任を取るのが隊長の務めなのです」


「それは、そうだが……今回は俺が公爵家の人間として我が侭を言ったんだ。バルバロトはそれで逆らえずに――」


「庇おうとするのは良いことではありますが、今は間違いですよ」


「ギルバート殿の言うとおりです。レオルド様が庇ってくださるのは喜ばしいことですが、今回の件については俺の判断ミスが原因です。だからこそ、然るべき罰を受けるのは当たり前のことなんです」


「バルバロト……すまん。俺のせいで」


「部下の失敗をどうにかするのが隊長の役目ですから。

 それにレオルド様が頑張っていなければ水を見つけることは出来なかったんですから、気にしないで下さい」


 現代日本の記憶があるレオルドはバルバロトの言葉に感動していた。バルバロトのような人格者の下でなら喜んで働いていただろう、と。


 レオルドが感動している間にギルバートとバルバロトの話は進んでいく。


「水を発見したと言うことですが、どの程度だと予想しておりますか?」


「穴の深さから視認はしていませんが、投げ入れた石の反響音からしてそれなりの量はあるかと」


「なるほど。では、水路を作るべきですかな」


「森の中なので井戸は無理でしょうから、それが現実的かと」


「そうなると土属性の使い手を募るべきか……」


「それなら俺が魔力共有で可能だと思うぞ」


「確かに坊ちゃまのスキルを使えば容易でしょうな」


 三人が今後の計画について盛り上がっていると、壁際に立っていたシェリアが緊張に震えながら手を挙げた。


「あ、あの差し出がましいのですが発言よろしいでしょうか?」


「ん? いいぞ」


 レオルドは一度ギルバートに視線を向けると、ギルバートは了承の意を込めて首を縦に振ったのでシェリアの発言を許可した。


「は、はい。それでは、お話を聞く限りなのですがレオルド様の魔力共有でゼアトの水源になっている溜め池に水を増やすのはダメでしょうか?」


『……』


「あ、あのあの! もしかして、私失礼な事を言ってしまいましたか!?」


「い、いや、そうじゃない。そうじゃないんだ」


「はっはっはっは……」


「ははは、まさかそのような簡単なことも思い付かなかったとは……」


 さっきまで盛り上がっていた三人が突如として固まるものだから、シェリアは物凄く不味いことを言ってしまったのではと焦る。そして、固まっていた三人は三者三様のリアクションを見せる。


 レオルドはこめかみを押さえて天井を見上げ、ギルバートは孫娘の意見に渇いた笑い声を上げ、バルバロトは誰もが至らなかった思いつきに頭を抱えている。


 オロオロするシェリアはどうすることも出来ない。レオルドは昨日の苦労は一体なんだったのかと溜息を零した。


「ギル。ゼアトの人口はどのくらいだ?」


「5千人程度かと」


「そうか――シェリア!」


「は、はいぃ!」


「貴重な意見ありがとう。俺達三人じゃ思い付きもしなかった」


「い、いえ! そんな私なんかの意見なんて大したものじゃありませんよ!」


 手を大きく振って過大評価だと言うシェリアにレオルドは笑う。


「ははははは! 大した意見じゃないと言うらしいぞ。俺達はシェリア以下の存在だな」


「これはこれは手厳しい」


「そうですな。我々も負けてられませんな」


「ちょっ!?」


 レオルドの意図を察した二人はレオルドに同調するように自身を貶めるような発言をする。

 シェリアは三人を馬鹿にしたつもりはないのに、誤解を招いてしまったと焦るが心配はない。


 三人共、分かっているからだ。恐らく焦るシェリアの姿を見たレオルドがからかっているのだろうと二人は察して同調しただけである。

 ただ、からかわれてる本人からすれば溜まった話ではないが。


「ははは。冗談だ。誰もシェリアが俺たちを馬鹿にしているなどと思ってはいないさ。焦るシェリアが面白くて、ついからかってしまったんだ。許してくれ」


「なっ!? ひ、ひどいです! 私、また何か粗相をしたのかと思って怖かったんですよ! また、ギルバート様に叱られるんじゃないかって……」


「悪い悪い。機嫌を直してくれ」


「知りません。レオルド様なんて!」


 ふんっとそっぽを向くシェリアにレオルドは頭を下げる。チラリと頭を下げるレオルドを見てシェリアもこれ以上は祖父であるギルバートに怒られるだろうと機嫌を直した。


「ギル。シェリアには後で褒美をやっておいてくれ」


「よろしいのですか?」


「ああ。ゼアトの水不足が解決できるんだから安いものだ」


 後日、レオルド、ギルバート、バルバロトの三人はゼアトの水源である溜め池に訪れた。ゼアトの住民と魔力共有を果たしたレオルドが水位の下がっていた溜め池を水魔法で満たした。


 こうして、シェリアのおかげでゼアトの水不足は解決する。思えば誰もが思いつきそうな案であった。

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