第35話 偉い人が頭下げると断れないんだって

 レオルドが水脈を発見した事に喜んでいた調査隊一行はゼアトへと戻ろうとしたが、レオルドに止められる。


「待て待て。まだ可能性があるというだけで確証はないんだ。一先ずここを掘ってみようと思う。水が出てくればゼアトへ戻って報告だ」


 レオルドの言葉に肩を落とす調査隊一行だったが、レオルドの言い分も正しいので気を取り直してレオルドの方へ顔を向ける。


「よし。とりあえず地面を掘るから土属性の者は手伝ってくれ」


『はい!』


 レオルドを含めた土属性の使い手が地面を掘り進めて行く。こういうときに魔法は便利だ。本来なら手作業のはずなのに魔法で簡単に穴を掘り進める事が出来る。

 ただ現代日本なら科学の力である重機などを用いて魔法よりも効率良く進められるが、今は考えても仕方がないだろう。


 徐々に深さを増していく穴だが、一向に水の気配はない。本当にここは水脈があるのかと疑ってきてしまうくらいだ。

 騎士達は不安に思いながらも穴を掘るレオルドへと期待の眼差しを向ける。


 一方でレオルドは額に汗をかいており疲労が溜まっていた。地中深くを探査魔法で調べていた上に今は穴掘り作業と調査隊の中では一番魔力を消費している。


 しかし、思わぬ事態が発生する。レオルドと一緒に土を掘っていた者達が魔力切れを起こしてしまい、その場に座り込んだのだ。


「も……申し訳……ありません……」


「すみません……これ以上は……」


「ハア……ハア……」


 そもそも騎士は魔法の専門職ではない。だから、魔法を専門としている者達と比べたら雲泥の差がある。騎士が魔力100ならば魔法使いは1000はある。

 土を掘る作業ならば魔力消費は多くないが長時間となると魔法を専門としていない騎士にとっては辛くなってくる。


「気にするな。少し休んでいろ」


 一人になったレオルドは魔力を使い果たして座り込んでしまった騎士を一瞥すると、一人黙々と作業を続けた。

 どれだけ掘ったかは正確に分からない為、判断は難しいがレオルドは他の者達に比べたら遥かに凄いだろう。たった一人で倍近い時間、掘り進めているのだから。


 しかし、そんなレオルドにも限界が訪れる。大量の汗をかきながら、レオルドは片膝を地面に着けた。


「カハッ……ハアハア……」


 バルバロトがレオルドへと駆け寄り、介抱している間に騎士達はレオルドたちが掘った穴の中を覗く。

 あまりの深さに底が見えない為、適当な石を放り投げて見た。石が穴の底に当たった音はしたが、水の音は残念ながら聞えなかった。


 がっかりする騎士達にレオルドは何も言えなかった。期待をさせておいて、この体たらくなのだからと落ち込む。


(くっそ~! 何の収穫もないってのは嫌だ! 水脈があるのは確かなんだ。ただ、どれだけ深い場所にあるかわからない……。よし、出し惜しみは無しだ)


 バルバロトに介抱されていたレオルドは立ち上がると調査隊を見回す。


「俺のスキルを使って作業を再開する。どうか力を貸してほしい」


 レオルドが頭を下げるものだから騎士達も驚いた。しかし、いきなり力を貸してほしいと言われても、どうすればいいかわからない騎士達。

 困惑している騎士達だったが、いの一番に賛同したのはバルバロトだ。


「レオルド様。私の力でよければ、いくらでもお使いください」


「ありがとう。早速だが俺の手を握ってくれ」


 レオルドが差し伸べた手をバルバロトは手に取る。レオルドはバルバロトが手を握った事を確かめて魔力を流す。

 レオルドが持つスキルの魔力共有はゲームであれば対象を選んで決定を押すだけの簡単な使い方だが、ここは現実である。ゲームとは違い魔力共有を行う対象と触れる事で使用が可能となる。


「レオルド様……これは?」


「俺のスキル、魔力共有だ。接触した相手に魔力を流す事で共有出来るんだ、これで、俺とお前にパスが繋がったから二人分の魔力を保有している状態だ。勿論、魔力は共有しているから俺も使えるしお前も使う事が出来る。さらに付け加えるなら普段は魔力が足りなくて使用する事の出来ない魔法も使えるようになるぞ」


「それは凄いですね。しかし、俺は身体強化くらいしか使いませんのでレオルド様がお使いください」


「助かる。これで作業を再開できる」


 レオルドはバルバロトの手を離して作業を再開しようとしていたら、渋っていた騎士達が魔力共有をして欲しいとレオルドへと頼み込んだ。


「レオルド様。どうか我々の魔力もお使いください!」


「わかった。お前達の魔力貸してもらうぞ」


『はっ!』


 レオルドは頼み込んできた騎士達を一人ずつに魔力共有を施した。

 これでレオルドが持つ魔力は桁違いに増えた。ただし、レオルド個人が持つ魔力の方が圧倒的に多いのだが、それは言わないのが花というものだ。

 それでも、今はレオルドも魔力が枯渇しているので騎士達の魔力はとても貴重なのだ。


「さあ、もうひと踏ん張りだ」


 レオルドは騎士達と共有した魔力を用いて穴掘り作業を再開した。水が出るかは分からないが、確かにレオルドは水脈を感じ取ったのだから信じる以外にない。

 ならば、あとは根比べである。 

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