第34話 バカ言っちゃいけないよ
調査二日目、先日と同じメンバーで行われる。しかし、明らかに違うことがある。それは、レオルドへの態度だ。
数人だが、レオルドへの態度が悪意のあるものへと変わっていた。恐らく、昨日の件が引き金となっているのだろう。
先日と変わらず、森の中を探索する調査隊。そして、相変わらず歩調が合わないレオルド。
昨日は特に何も言われはしなかったが、今日は違う。足手まといであるレオルドに舌打ちをする騎士がいた。
見過ごすことは出来ないとバルバロトが剣に手を添えるがレオルドが止める。
「大丈夫だ。何かされた訳でもない。だから、怒りを収めよ」
「……わかりました」
渋々ではあるが舌打ちをされた本人であるレオルドが言うのだから、仕方がないとバルバロトは怒りを収める。
しかし、レオルドが何も言わないのをいいことに舌打ちをした騎士は言ってはならないことを口走る。
「へっ、いい身分だよな。公爵家ってのは」
これにはバルバロトだけでなく他の騎士も反応した。当然、公爵家の一員であるレオルドも先の発言には顔を顰めた。
(流石に今のは言い過ぎなんじゃない? 俺個人にならどれだけ罵倒しても構わないけど、公爵家ってのは見過ごせない。ここは印象悪くなっても怒っておくか)
先程の騎士がした発言は公爵家への侮辱と見られる。レオルドも見過ごすことは出来ないと腹を括り声を出す。
「先の発言をした者は誰だ。名乗り出よ!」
レオルドが怒っていることを察した騎士達は馬鹿なことを口走った騎士へと顔を向けた。
レオルドは騎士達の視線の先に立って、うろたえている騎士へと足を進める。
「貴様か……」
「ち、違いますよ。俺じゃありませんて」
「だが、皆の目はお前に向いているぞ?」
「あいつら、俺を陥れようとしてるんです! おい、俺じゃないだろ!」
レオルドの前にいる騎士は自分ではないと主張して、他の騎士へと罪をなすりつけようとしている。
騎士が必死にレオルドの後ろへいる騎士達に喚いているから、レオルドも後ろを向いた。
「そう言っているが、どうなんだ?」
「違います。そいつが勝手に言っているだけです」
「なっ!? 嘘を言うな! お前らだって――」
「黙れ。それ以上は聞くに堪えん」
元々、誰が言ったかなどレオルドには分かっていた。声色で既に判明しているのでレオルドの質問に意味もなければ騎士達の言い合いも無駄である。
「公爵家を侮辱した罪を教えてやる。バルバロト、この愚か者を斬首せよ!」
「はっ! お任せあれ!」
レオルドの側に控えていたバルバロトはスラリと剣を抜いた。冗談ではないと、本気で殺す気だと理解した騎士は許しを乞う。
「お、お許しください! 冗談なんです! ただの冗談で――」
「貴様はただの冗談で我がハーヴェスト家を侮辱したのか?
はははは。これは愉快な話だ。恐れを知らぬ勇者だな」
「へ、へへ……」
「だが、許すと思うたか? 戯けめ。貴様は口にしてはならぬことを言ったのだ。俺のみを罵倒するならばまだしも、貴様は我がハーヴェスト家を侮辱したのだ。その命を以て償うがいい」
「あ、あぁ……どうか、どうか命だけは!!!」
形振り構わず騎士は土下座を選んだ。額を地面に擦り付けて許しを乞う姿は哀れだ。迂闊な発言をした愚か者には相応しい末路だ。
「バルバロト。剣を収めよ」
「よろしいので?」
「これだけ脅せば十分だ」
「そうですか」
バルバロトは剣を鞘へと収める。その様子に他の騎士達もてっきり殺すのだと思っていたから驚いていた。
「へ、どうして……?」
土下座をしていた騎士も突然の心変わりに呆気に取られている。
「いいか。よく聞け! 俺のことはどれだけ馬鹿にしようと蔑もうと構わん! だが、我がハーヴェスト家への侮辱は今後一切許しはしない! 肝に銘じておけ!」
『は、はい!』
レオルドは後ろにいた騎士達に向かって叫んだ後、土下座をしている目の前の騎士へと顔を向ける。
「先程言ったとおりだ。今回は特別に許してやる。だが、忘れるな。次はない」
「は、はいぃ……!」
死の淵に立たされていた騎士は、なんとか生き延びたことに喜んだ。しかし、腰が抜けたようで中々立つことが出来ない。
その様子を見たレオルドは他の騎士を呼び寄せて立てない騎士に肩を貸すように命じた。
「さて、調査を再開するか」
レオルドの一言により調査隊は歩き出す。レオルドに並んで歩いているバルバロトは小声でレオルドへと話しかける。
「良かったのですか?」
「ああ。確かに公爵家への侮辱は許されないがここには俺しかいない。それにあいつも公爵家全体を言ったわけではなく、俺への文句として言ったんだろう。ただ、言い方が悪かったが」
「そうかもしれませんが、相応の罰は必要だと思いますが」
「なら、兵舎の便所掃除を一ヶ月とかでいいんじゃないか?
俺にはこれくらいしか思い浮かばんから、あとの処理はお前に任せる。だから、好きにしてくれ」
「レオルド様がそう言うのでしたら、俺のほうで片付けときますね」
「殺すなよ?」
「わかってますよ」
何を言っているのやらと肩を竦めるバルバロトを見てレオルドは口元が引きつる。バルバロトの思いは嬉しい反面、やりすぎないで欲しいと溜息を吐いた。
調査は順調に進むが水源は見つからない。レオルドの他にも土属性持ちがいて調査を行っているが成果は出ていない。
調査の最中に魔物と出くわす事も増えてきて、二日目の調査も一旦打ち切ろうかとしていたら、レオルドの足が止まる。
「どうかなさいましたか、レオルド様?」
「……これは水脈か?」
「っ! 本当ですか!?」
「まだ分からん。その可能性があるというだけだ」
「それだけでも十分です! おい、この場所を地図にしるしておけ」
「はっ!」
水不足の今、レオルドの発見により希望が湧いてきたことにバルバロトは喜んだ。そして、これは大きな功績になるに違いないと確信している。
ゼアトの水不足という問題をレオルドが解決したと分かれば世間の評価も変わるに違いないとバルバロトは浮かれているが、残念ながらレオルドの評価が変わることは難しい。
確かに水不足といった深刻な問題を解決したとなれば評価は高いだろうが、それを差し引いても過去の悪行がマイナスなイメージを強く印象付けてしまう。
なので、世間がレオルドへの認識を改めるにはもっと多くの功績が必要になる。果たして、レオルドに出来るかどうか。
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