第18話 長期休暇は幻想じゃなかった?

「さあ、次はどいつだ?」


 獰猛な笑みを見せるジェックスに尻込みしてしまう騎士達。

 その様子を見たジェックスは、ここが攻め時と判断して声を張り上げる。


「野郎共! 敵が怯んでいる今がチャンスだ!」


『うおおおおおおおおお!!!』


 二人の戦いに見入っていた餓狼の牙たちもジェックスの言葉に雄叫びを上げて騎士達へと果敢に攻める。

 隊長が騎士達を鼓舞するが先程の光景を目に焼き付けてしまった騎士達の動きは鈍い。それに加えて士気が向上し勢いに乗っている餓狼の牙たちに騎士達は次々と倒れていくのであった。


「ここまでか……」


「お前が大将か」


「……首を刎ねるがいい」


「俺達は殺しはしない。だが、その身に刻め。俺達という存在を!!!」


 ジェックスの一撃で意識を刈り取られてしまい隊長は地に倒れる。残っていた騎士達も、やがて全員が倒される。


 騒がしかった森の中に静寂が訪れる。餓狼の牙は自分達の痕跡を消して、立ち去ろうかとした時バルバロトが行く手を塞いだ。


 ジェックスが放った突風で吹き飛ばされたバルバロトは満身創痍となっていた。しかし、騎士としての務めを果たす為にボロボロの身体でありながら、餓狼の牙の行く手を阻んだのだ。


「逃がしはしない……」


「まだ動けるのか……」


「騎士としての誇りがある。ここから先へは行かせんぞ」


「ふ……大した奴だよ。お前は。出来る事なら違う場所で違う形で会いたかった」


 皮肉な笑みを浮かべるジェックスは立ち塞がるバルバロトに剣先を向ける。


「お前の誇りも思いもへし折ってやるよ」


「そう簡単に折れると思うなよ!」


 バルバロトとジェックスの最後の戦いが始まった。満身創痍で疲弊しているバルバロトは圧倒的に不利な状態であろうとジェックスに喰らいついている。

 対するジェックスは無傷ではあるが、バルバロトとの死闘に加えて騎士達を相手にしたから体力は少ない。しかし、バルバロトほどではない。この戦いにジェックスが負ける要素は何一つないのだ。


 しばらくの間、戦いは続いたがやはりバルバロトは限界が来ていたのか剣を落として片膝を地面に着けた。

 びっしょりと汗を流しながら、荒い呼吸を繰り返している。


「ゼエ……ハア……ゼエ……ハア……」


「よくここまで戦ったもんだ。だが、その身体じゃもう無理だろう」


 無情にも片膝を地面に着けているバルバロトの首に剣を添えるジェックス。それでもバルバロトは諦めていないのか、鋭い眼光でジェックスを睨み付ける。


「ハッ。まだ、そんな目が出来るとはな。でもな、これが現実だ。周りを見てみろ。お前以外の騎士は倒れ、助けてくれる仲間もいない。この状況でまだお前は戦うと言うのか?」


「ふ……分かりきっている事を聞くな」


「そうか……そうだな。バルバロト・ドグラム。貴殿は良き騎士だった」


 ジェックスはバルバロトを賞賛するに相応しい相手だと認める。そして、同時に脅威な相手だと判断して剣を振り上げる。


(ああ……レオルド様。剣の稽古に行けない事をお許しください)


 バルバロトは最後にレオルドへの謝罪をすると、意識を失ってしまった。

 完全に意識を失い倒れたバルバロトを一瞥したジェックスは部下達を引き連れて森を抜けた。


 森を抜けた餓狼の牙は騎士達を壊滅させた事を笑いながら語り合っていた。本来ならば格上の相手で実力では確実に劣っていた相手に完勝を果たしたのだから、その喜びは計りようがない。

 だが、やはり一番大きな勝因はジェックスがバルバロトに勝利した事だろう。

 あの一戦は餓狼の牙と騎士達の士気を大きく左右する戦いだった。故にあの一戦で勝っていたのがバルバロトなら結果は変わっていたかもしれない。


 かもしれないと言うだけで既に結末は変わらない。騎士達は敗北し、餓狼の牙が勝利したと言う事実は覆る事はない。


 先頭を歩いているジェックスに少女が歩み寄る。ジェックスは歩み寄ってくる少女には目もくれず真っ直ぐ歩き続ける。


「ねえ、どうして腕を折るだけにしたの? あの人、治ったらまた来るよ?」


「……あれ程の男から剣を奪うのは忍びないからな」


「でも、魔剣の能力がなかったら危なかったんだよ!? もし、また戦う事になったら――」


 悲愴な顔をして問い詰める少女の頭にジェックスは手を置いた。


「負けねえよ。俺は」


「ずるい……ずるいよ、ジェックスは」


 頭に置かれた手に優しく触れる少女は、何も言えなくなってしまった。


 餓狼の牙は拠点である洞窟に帰ってきた。入り口をカモフラージュで隠しているので、騎士達にも見つかっていない。

 しかし、今回の件で移動を考えなければならないとジェックスは提案する。


「今回は騎士達を倒せたが、恐らく次は人数を増やしてくるはずだ。それに今回のような奇襲も通用しないと考えた方がいい。だから、一先ずは身を隠す。だが、俺達は討伐された訳じゃないから当分は国も俺たちを警戒するだろうよ。しばらくの間、耐えてくれ」


 悲痛な表情を浮かべて頭を下げるジェックスに部下達は笑って答えた。


「はは。何言ってんだよ。耐えるのは俺達得意って知ってるだろ」


「だな。長い間耐えてきたんだ。今更、どうってことないさ」


「久しぶりに故郷に顔を出すのもいいかもな」


「いいな。休暇ってことでありだな」


「お前ら……暗い話はなしだ。時がくれば、また召集をかける。その時まで誰も欠けるんじゃないぞ。勿論、俺達の信条も忘れるな」


『おう!』


 こうして餓狼の牙はしばらくの間活動を休止する事になる。国も活動を休止した餓狼の牙を捜索するも見つからず、餓狼の牙を一旦放置する事に決めた。


「ジェックス。これからどうするの?」


「しばらくはあそこで過ごすさ」


「ん。じゃあ、久しぶりにチビ達と遊べるね」


「ああ。そんじゃ、行くか」


「うん!」

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