第17話 切り札は使ってなんぼ
幾度と無くバルバロトとジェックスは剣を交えた。互いの実力は拮抗しており、膠着状態が続いていた。
「ふう……ふう……」
浅い呼吸を繰り返しながら、バルバロトはジェックスの評価を改めていた。
(噂以上の強さだ。剣の腕前は勝ってるが、身体能力や反射速度は向こうの方が上。嫉妬してしまいそうな才能の持ち主だな……! だが、負けるわけにはいかない。ここで俺が負ければ餓狼の牙たちの士気が上がり、一気に不利になってしまう。それだけは、なんとしてでも阻止せねば!)
再び、バルバロトとジェックスがぶつかる。激しい剣戟の音が深夜の森に木霊する。お互いに譲れない想いがある二人の気迫は周囲の者達を黙らせるほどに荒ぶっていた。
二人の荒々しい戦いに多くの者が見入っている。バルバロトは巧みな剣術で、ジェックスは大胆な剣技で多くの者達を虜にしていた。
男に魅入られても嬉しくは無いのだが、今の二人には周囲を気にする余裕はない。
互いの実力は拮抗しており、なにか一つでもミスを犯せば忽ち膠着状態は崩れて敗北に繋がってしまうと二人は理解していた。
鍔迫り合いになり、至近距離から互いの顔を見合わせる。
「なぜ、これ程までの実力がありながら――」
「その言葉は聞き飽きるほど聞いたんだよ!」
「くっ!?」
押し戻されるバルバロトは苦しい顔をする。ジェックスはバルバロトの言葉が気に入らなかったのか息が乱れている。
「お前らに分かるか? 搾取される側の気持ちが! 文字が読めない上に書けないから騙される気持ちが! ただ、平和に生きていたのに突然攫われて知らない男に蹂躙される気持ちが! お前らに分かるのか!!!」
「それは……」
「分からないだろう! どうせお前も貴族として何不自由の無い生活を送ってきた奴に俺達の怒りが分かるはずがない! 俺達は怒りそのものだ! だから、力の無い者達に代わって復讐してるんだ! 例え、望まれていなくとも俺達は止まらない、止まるわけにはいかない! 国に分からせてやる。俺達という存在を。刻んでやるんだ、腐った貴族共に! その為なら俺はこの命、惜しくは無い!」
「それほどまでの覚悟を……」
「お前にも譲れないものがあるんだろう? 剣を交合わせれば嫌でも分かる。だから、これ以上の御託はいらん。ここから先はお前も分かりきっているだろ」
激昂して胸の内を曝け出したジェックスは剣を構え直した。
対するバルバロトも思う事はあっても口には出さず、ジェックスに答えるように剣を構え直した。
「いざ、尋常に――」
「――参る!」
ぶつかり合う二人から発生した衝撃波が周囲の者達を襲う。耐え切れずに転倒してしまう者が出るほどの衝撃波だった。
先程の荒々しい剣戟から一転して、研ぎ澄まされた針のように繊細な戦いを見せる二人。互いに言葉は用いず、剣で語る二人に周囲のものは固唾を飲んで見守る。
キンッキンッと金属がぶつかり合う音が鳴り響く。一切の呼吸を忘れて、瞬きすら惜しむように周囲の者達は互いが敵であるにも関わらず、二人の剣舞に釘付けとなる。
二人はいつしか世界には自分と目の前の敵しかいないと錯覚を起こしていた。極限まで研ぎ澄まされた感覚は世界から無駄なものを省いてしまっていた。
雑音もなければ目障りな障害物もない。まっさらな世界で二人は剣を交えている。
されど、いつまでもこの時間が続くわけではない。極限の集中状態にあった二人は互いに離れると肩で息をする。それは、互いの体力が残り僅かとなっている証拠だ。
『ハア……ハア……』
体力が底を尽きそうになってはいるが、闘志が尽きたわけではない。まだ、戦えると二人は示すように駆け出す。
どれだけぶつかり合ったか分からない二人は、負けられないと剣に力を込める。鍔迫り合いとなり、膠着状態が続くかと思えばバルバロトが足蹴りを放つ。
咄嗟に後ろへと飛び退いたジェックスに当たらなかったが、体勢を崩す事には成功する。
「行儀の悪い騎士だな!」
「俺は使えるものはなんでも使う主義なんでね!」
「そうかよ!」
体勢が崩れたジェックスはバルバロトの攻撃に文句を言うが、バルバロトは一切気にしていない。
一気に攻勢に出ようとするバルバロトにジェックスは笑みを見せる。
「隠しておきたかったが、どうやら無理なようだ」
剣の腹を見せ付けるように突き出すジェックスにバルバロトは眉間に皺を寄せる。
(何をする気だ? いや、何をするかは分からないが今は好機。逃す手はない!)
詰めの一手を仕掛けようと剣を振り上げた瞬間、ジェックスは声を張り上げる。
「吹き飛べぇっ!!!」
ジェックスが叫ぶや否や、ジェックスの持つ剣の刀身が薄い緑色の光を放つ。
そして、次の瞬間バルバロトに突風が襲い掛かる。
「こ、これはあああああああ!?」
何が起こったのかわからなかったバルバロトは、突如放たれた突風により吹き飛ばされる。鎧を纏っている大人の男性を軽々と吹き飛ばしてしまうほどの突風を放ったジェックスに騎士達は驚愕の表情を浮かべる。
「さあ、次はどいつだ?」
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